アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 黒崎と伊吹は性格が似ているところから、黒崎と話していると、伊吹と話している気分になる時がある。想像以上の切り返しが来る度に、ぐうの音も出なくて悔しい思いをする。俺のことを大切にしてくれる面も共通している。尊敬する存在であることも。

「できたら仲良くしてほしい。引っ越した後、しばらく寂しいからさ。ああ、ウサギーがいるよ!」
「こら、走るな。禁止しているぞ」
「今日は……。はい」
 
 素直に言うことを聞いて立ち止まった。黒崎の方から手を繋がれると文句が言えないし、このまま歩いて行きたい。意気揚々と、ウサギーの帽子をかぶり直した。全体がクリーム色で、長い耳が垂れている。可愛いと思う。黒崎はウサギが好きだから、夏に遊びに来た時は嬉しかっただろう。全く好きな素振りを見せないが、笑顔を浮かべているから分かる。

「黒崎さん。ぬいぐるみを書斎に飾れよ。その方が癒やされるだろ?俺の部屋は絵本が増えて狭くなったんだ」
「いや、お前の部屋がいい。おとぎの国へ出かける気分が味わえる」
「あ、あの子も嬉しそうだよ~」

 マスコットキャラクターの着ぐるみが歩いていて、その後ろを子供達が追いかけて笑っている。こっちからキャラクター達に手を振ると、ウサギーがやって来て、一緒に写真を撮った。写してくれている黒崎が若く見えた。今日で34歳になるのに、まるで12歳の子のように見える。

「黒崎さんも写してあげるよ」
「けっこうだ。眺めているだけでいい」
「おとぎの国のリアルな姿だよ。ちゃんとあるし、いつでも遊びに来れるよ。きょろきょろ探さなくてもいいからね」

 黒崎からの返事はなかった。メリーゴーランドを眺めて微笑んでいる。そっと手を握り直すと、強い力で握り返された。どこにも行くなという言葉つきだった。

(よかった。今日のサプライズを喜んでもらえそうだな。そうでもしないと、遊園地デートをしないはずだもん……)

 二葉と朝陽との3人で、黒崎に渡すプレゼントは何がいいのか話し合った。本人は何も欲しがらなくて、ここに来たいとだけ言った。その結果、俺たちが出した答えは、ママとの遊園地で遊ぶプランだ。その手伝いをすることにした。今日ここにママ達3人が来ているのは、黒崎には内緒だ。

(ああ、二葉ちゃんからラインが入った……)

 万理からラインが入ったふりをして画面を見た。すでに3人が園内に到着している。鉢合わせしないようにルートを相談してある。

「黒崎さん。お昼ご飯は、どこで食べようか。ここのホテルへ行く?予約していないよね?」
「お前の好きな店で食事をする。ファーストフードでも構わない」
「じゃあね~、ウサギーのハンバーガーを食べたい!こっちだよ~」
「さっきソフトクリームを食べた後だろう。大して入らないはずだ」
「ううん?そんなことないよ?……こっちこっち」

 こっちだと言って手を引いているのに、黒崎が反対方向へ歩いて行こうとした。それを引き返しても立ち止まらないから、進行方向へ回って立ちふさがった。この先のカフェにはママ達がいる。窓越しに見える可能性がある。今は黒崎には内緒にしておきたい。

「こっちだよ。ハンバーガーは。回れ右をしてね!」
「好きなものを選べばいい。少し回って行きたい。いいだろう?ソフトクリームを食べた後だ」
「あんたは食べていないじゃん。ほらーー」
「分かった。……こっちだな。遠回りだと思うが」
「ええ?えーーっと」
「食べながら話を聞く。父のことで話しておきたいこともある。遊びに来たのに聞きたくないなら、やめておく。どうする?」
「聞きたい!」

 黒崎には俺達のプランがバレているように感じた。彼の考えていることが表情で分かるようになってきたからだ。さっそく目的の店へ向かった。ママたちが食事をしている店の方向を黒崎が見たのは、気のせいではなさそうだった。
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