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店に到着した。テーブルに向かって料理を囲んだ。ウサギーの顔の形のパンに挟んであるのはハンバーグとレタスだ。黒崎が食べているのはローストビーフのバージョンだ。ポテトフライ、サラダもある。
黒崎とハンバーガーを食べるのは初めてのことだ。買ってきたものを家で食べる時はあっても、賑やかな店内の経験がない。静かな音楽が流れる店ばかりだ。色んな経験をすることを、黒崎が楽しんでいる。俺の方は照れくさくなり、顔が赤くなった。
「パーキングでは女の子に囲まれて、顔を真っ赤にしていたな。マフラーで顔まで隠すとはな……」
「仕方ないだろ。あんたとは違うよ」
「モテていたのは過去の話だ」
「どの口が言っているんだよ?」
「何のことだ?」
「忘れるぐらいに日常なんだね。……俺のことだけど。痴漢とつきまといを受けたじゃん。今までさーー」
「ああ。その度に追い払ってきた」
「うん。あんたはその痴漢とつきまといと同じ事をしてきていたんだよ。俺の体を触ったし、車に連れ込まれるように乗せられたことがあるし。つきまといって言えそうなこともあったし……」
「……否定はしない」
「そういう人と付き合うことになって、結婚までするなんて思わなかったよ。あれ?怒らないのかよ?」
「……事実だ。嫌ならやめるぞ?」
「べつに……」
「どうした?」
楽しそうに笑って視線を向けてきた。顎の下をくすぐられて、下唇を指先で押された。何度も繰り返した後、頬を撫でられた。
ここは店内なのに、ベッドにいる時を連想して顔が熱くなった。今だに慣れなくて、全身を見ることが出来ない。下着一枚でうろつかれるという、色気のないおじさん行動をされてもだ。見抜かれたのか、目を細めて笑われた。
「やめろよ~」
「絹ごし豆腐みたいな触り心地だ。まったく髭が生えていない。珍しいことだ」
「すね毛も少ないもんね……」
「体毛が少ないから、ますます綺麗だ。鏡で見てみないのか?」
「ばーーか。変態的な発言をやめろよ。いちゃついている時、いっつも言うよね。綺麗だ、可愛い、こっちを向けって……。ヒャーー、忘れてよ」
「……気分を変えて抱きたい。週末、ホテルへ泊まろう」
「変なことを言うなよ。もう……」
テーブルの下で軽く足を蹴ると、両足で挟まれて動かせなくなった。この反射のよさに驚いて、開いた口が塞がらない。
黒崎は動物的なところがあり、動体視力もいいと思う。馬鹿力を持ち、体力もある。相手の顔を記憶するのが早くて、すぐに名前が出て来る。プロフィールまでもだ。お義父さんが跡取り息子として戻ってきて欲しい気持ちが分かった。でも、お義父さんの話だと、黒崎のことが可愛いと思っているから戻って来てほしいようだった。電話で話す時、毎回、黒崎の話題に出る。
(夏樹ちゃん。圭一は咳をしていないか?)
(していないよ。風邪もひいていない。隆さんは?)
(ありがとう。大丈夫だよ。受験の時に連れて行きたい家がある。すぐ近くの空き家だ。ノスタルジックな外観だから楽しめそうだ)
(へえー、楽しみだよ。どうして分かったの?)
(君の話を聞いたからだ。年代物の鳩時計がある。ぜひ見せてもらいたい……)
今日の遊園地の話をすると来たがっていた。トリンドランドへ遊びに行く約束をすると、3人では行きたくないと黒崎から拒まれた。
これから行き来するなら、出かけた方がいい。黒崎の方には壁があり、すぐに打ち解けられないと、正直に話してくれた。これから前に進むし、同じ会社で働くからこそ、いい関係を作りたいとも言っていた。
もつれた紐を解いた後、丁寧に伸ばしていく過程をやっている。いつか交互に編み込まれて、綺麗なリボン結びができるといい。そうなるお手伝いをする。
美味しそうにポテトフライを食べている姿を眺めた。そこだけ切り取ったかのような世界があり、太陽と月明かりの下のような違いがある。可愛い内装と人形に囲まれたのは、ド迫力の大魔王のように見える。
「黒崎さん。大魔王だね……」
「ド迫力の男だからか?そんなに浮き上がっているのか?」
「うん。俺は門番になるよ。大魔王に危険を知らせて、まずは城に入れない役目。たまには、こういうお店はどう?けっこう美味しいと思わない?雰囲気を楽しむんだよ」
「こういう場所も悪くない。高校時代を思い出した」
「そっか。沙耶さん達と遊びに行ったんだね?さすがのあんたでも。ここへ来たことはある?昔からあっただろ?」
「出来たばかりだったはずだ。向こうのトリンドランドへ一回、修学旅行先でも寄った」
「修学旅行?マジで?どんな感じ?」
「どの学校も似たようなものだろう。……開明はないのか?」
「旅行は無いよ。トラブルが続出した時代があったから。伊吹お兄ちゃんが入学する前の年だよ。県外の知らない学校の子から見たら、変な団体だからさ。赤とか黄色のヘアスタイルなのに、喋り方が理屈っぽくて苛立つんだって。……この話が面白い?もっと喋るよ~」
「ああ。もっと聞かせてくれ」
黒崎が笑って話を聞いてくれた。学生グループや親子連れが多くて、わいわいがやがやといった空気が流れている。たまにはこういうデートもいいねと言って笑った。
黒崎とハンバーガーを食べるのは初めてのことだ。買ってきたものを家で食べる時はあっても、賑やかな店内の経験がない。静かな音楽が流れる店ばかりだ。色んな経験をすることを、黒崎が楽しんでいる。俺の方は照れくさくなり、顔が赤くなった。
「パーキングでは女の子に囲まれて、顔を真っ赤にしていたな。マフラーで顔まで隠すとはな……」
「仕方ないだろ。あんたとは違うよ」
「モテていたのは過去の話だ」
「どの口が言っているんだよ?」
「何のことだ?」
「忘れるぐらいに日常なんだね。……俺のことだけど。痴漢とつきまといを受けたじゃん。今までさーー」
「ああ。その度に追い払ってきた」
「うん。あんたはその痴漢とつきまといと同じ事をしてきていたんだよ。俺の体を触ったし、車に連れ込まれるように乗せられたことがあるし。つきまといって言えそうなこともあったし……」
「……否定はしない」
「そういう人と付き合うことになって、結婚までするなんて思わなかったよ。あれ?怒らないのかよ?」
「……事実だ。嫌ならやめるぞ?」
「べつに……」
「どうした?」
楽しそうに笑って視線を向けてきた。顎の下をくすぐられて、下唇を指先で押された。何度も繰り返した後、頬を撫でられた。
ここは店内なのに、ベッドにいる時を連想して顔が熱くなった。今だに慣れなくて、全身を見ることが出来ない。下着一枚でうろつかれるという、色気のないおじさん行動をされてもだ。見抜かれたのか、目を細めて笑われた。
「やめろよ~」
「絹ごし豆腐みたいな触り心地だ。まったく髭が生えていない。珍しいことだ」
「すね毛も少ないもんね……」
「体毛が少ないから、ますます綺麗だ。鏡で見てみないのか?」
「ばーーか。変態的な発言をやめろよ。いちゃついている時、いっつも言うよね。綺麗だ、可愛い、こっちを向けって……。ヒャーー、忘れてよ」
「……気分を変えて抱きたい。週末、ホテルへ泊まろう」
「変なことを言うなよ。もう……」
テーブルの下で軽く足を蹴ると、両足で挟まれて動かせなくなった。この反射のよさに驚いて、開いた口が塞がらない。
黒崎は動物的なところがあり、動体視力もいいと思う。馬鹿力を持ち、体力もある。相手の顔を記憶するのが早くて、すぐに名前が出て来る。プロフィールまでもだ。お義父さんが跡取り息子として戻ってきて欲しい気持ちが分かった。でも、お義父さんの話だと、黒崎のことが可愛いと思っているから戻って来てほしいようだった。電話で話す時、毎回、黒崎の話題に出る。
(夏樹ちゃん。圭一は咳をしていないか?)
(していないよ。風邪もひいていない。隆さんは?)
(ありがとう。大丈夫だよ。受験の時に連れて行きたい家がある。すぐ近くの空き家だ。ノスタルジックな外観だから楽しめそうだ)
(へえー、楽しみだよ。どうして分かったの?)
(君の話を聞いたからだ。年代物の鳩時計がある。ぜひ見せてもらいたい……)
今日の遊園地の話をすると来たがっていた。トリンドランドへ遊びに行く約束をすると、3人では行きたくないと黒崎から拒まれた。
これから行き来するなら、出かけた方がいい。黒崎の方には壁があり、すぐに打ち解けられないと、正直に話してくれた。これから前に進むし、同じ会社で働くからこそ、いい関係を作りたいとも言っていた。
もつれた紐を解いた後、丁寧に伸ばしていく過程をやっている。いつか交互に編み込まれて、綺麗なリボン結びができるといい。そうなるお手伝いをする。
美味しそうにポテトフライを食べている姿を眺めた。そこだけ切り取ったかのような世界があり、太陽と月明かりの下のような違いがある。可愛い内装と人形に囲まれたのは、ド迫力の大魔王のように見える。
「黒崎さん。大魔王だね……」
「ド迫力の男だからか?そんなに浮き上がっているのか?」
「うん。俺は門番になるよ。大魔王に危険を知らせて、まずは城に入れない役目。たまには、こういうお店はどう?けっこう美味しいと思わない?雰囲気を楽しむんだよ」
「こういう場所も悪くない。高校時代を思い出した」
「そっか。沙耶さん達と遊びに行ったんだね?さすがのあんたでも。ここへ来たことはある?昔からあっただろ?」
「出来たばかりだったはずだ。向こうのトリンドランドへ一回、修学旅行先でも寄った」
「修学旅行?マジで?どんな感じ?」
「どの学校も似たようなものだろう。……開明はないのか?」
「旅行は無いよ。トラブルが続出した時代があったから。伊吹お兄ちゃんが入学する前の年だよ。県外の知らない学校の子から見たら、変な団体だからさ。赤とか黄色のヘアスタイルなのに、喋り方が理屈っぽくて苛立つんだって。……この話が面白い?もっと喋るよ~」
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