アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 黒崎と過ごしているうちに、お互いに落ち着いた場所が好きなことが分かった。海岸、公園、美術館にも出かけた。美術館ではブリキのおもちゃ展を見に行った。いろんなイベントを黒崎が知っているのは、俺のことを楽しませようとするからだ。でも、無理をしていないと思う。本人も楽しんでいるのが分かる。

「あ、そうだ。うちの学校って、修学旅行の代わりに、ライブを観に行くツアーがあるよ。ロック、ポップス、ヘヴィメタルのジャンルだよ」
「珍しいな」
「うん。学校の創立メンバーが音楽系の支援団体をやっているそうだよ。3年生も行けるんだ。卒業するまでに一度行ってみたいなって思っているんだ。どうしたの?」

 黒崎の眉が寄った。でも、すぐに元に戻って首を振られた。後ろを通っている人の体が当たりそうになったからだった。振り返ると、団体客が通り過ぎて行った。

「何でも話してくれ。ロックが好きになった」
「好きになってきてるよね。やっぱり黒崎さん自身もそう思うようになったんだね」
「お前こそ、クラシックやジャズが好きになってきたな」
「それはそうだよ。ピアノ演奏を聴いているんだから。耳が肥えたよ。もし第一志望の大学に合格できたらしたら、聡太郎君とバンドを組みたいんだ。ボーカルとして。歌うことが好きだからさ」

 伊吹の恋人の桜木聡太郎は、伊吹が中退した大学の4年生だ。来年の春から農学部の院生になるのが決まった。同じ学部の並川さんとバンド活動をやっている。でも、最近解散したそうだ。今、メンバーを探していると話していた。聡太郎からボーカルにならないかと頼まれたときは驚いた。俺が人前で歌う勇気がない。でも、引っ込み思案が直るならと思い、引き受けた。ただし、大学に合格した後だ。そうなれるように頑張らないといけない。

 黒崎からの返事はOKだった。体のことを第一に考えることが条件だった。こうして相談するとすれ違いがなくて良いと思っている。

「黒崎さん。本当に良いの?」
「応援する。……父から病院のことを聞いたか?」
「ううん。まだだよ?」
「都内に引っ越した後、お前が受診する病院のことだ。いい病院を見つけたそうだ。受験が終わった後、受診して来い。……聖加世病院の南里先生だ。お母さんと同じ年だと聞いている。話しやすいだろう?」
「うん、ありがとう。そうさせてもらうよ」
「珍しく素直だな」
「お義父さんに心配かけたくないからだよ。病院まで探してくれたんだ」
「お前の悪い癖だ。自分のことを後回しにするな。嫌みを言うくせに、肝心なことを言い出せないのは、変わらないな」
「ごめん。直していくよ……」
「体調が悪い時は知らせてくれ。遠慮するな。もしも取り返しのつかない事になった時、それを抱えて生きていく奴のことを考えろ」
「うん」
「もっと元気よく返事をしろ」
「うんっ」
「黒崎さんのアドバイスを意識しているよ。色んな角度から見ろ。上からも眺めてみろっていうやつ。判断が鈍るし、遅れるっていうやつ」
「お前からも教えられた。人には感情がある、理屈だけでは推し量れないと言われた。聞けて良かった」
「俺たちはバランスを取っているんだよ。まるで公園のシーソーみたい。どっちかが落ちたら相手を上げる。その反対もあるよね。足を着けば同じ目線だよ」
「そうだな。そのうち、お前に置いて行かれそうだ」
「寂しそうにするなよ~。一緒にいるのに」
「成長スピードに敵わないからだ」
「黒崎さんのおかげだよ。そんな顔をするなってば」
  
 黒崎の頬を、指先でツンツンと突いてやった。俺たちには新しい絆が出来た。両親や妹弟。これからの未来を共有したい。大学生活はどうだろうか。黒崎は新しい会社に入るから緊張しているだろう。俺も同じだ。

「寂しそうな顔をしてるよ?最近、増えたよ。どうしたんだよ?」
「新しい居場所が増えていっている。さっきもそうだ。愛良ちゃんが言っていただろう。以前のお前は話しかけにくい雰囲気があったが、今は話しかけやすいと。それが増えた。もちろん嬉しい」

 胸が痛んだ。同じことを思っていたからだ。黒崎こそ、仕事上の繋がり広がったと思う。今までよりも会食が増えたし、その他の付き合いで出かけることも増えてきている。でも、俺は寂しいとは思わないようにしている。黒崎が寂しくないのが一番良いと思うからだ。
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