24 / 283
3-9
しおりを挟む
春から黒崎がさらに多忙になるだろう。2人で過ごす時間が減ることと想像した。俺は合格すれば大学生活が始まり、新しい居場所ができる。そうすると、すれ違いができて、一緒にいても不安になるかもしれない。俺はそう思う。黒崎も同じなのかも知れない。
「同じ気持ちなんだよ。新しい環境っていう波に押されると思う。それが、すれ違いだと思う。別の岸にたどり着くのかもって思うと不安だよ。対岸同士で見つめ合う状態になるんじゃないかってさ……」
「努力しよう。些細な誤解が、大きな溝になることがある」
「うん。軌道修正が出来なくなるのは怖いよ」
この例えは、ママのことだ。黒崎家の当主の妻として切り盛りをした。どんなに頑張っても、親戚や周囲から、冷たい目を向けられていたそうだ。当たり前の事が出来ないとまで言われた。常にプレッシャーを感じて、心のバランスを崩したそうだ。その結果、黒崎家以外へ居場所を求めた。本当は息子である黒崎と一緒にいたいのに、うまく家事ができないことを引け目に感じたママは黒崎に対して遠慮がちになり、話しかけられなくなったそうで、黒崎は自分はママに嫌われているのだと誤解をしていた。
モデルを引退した後、ママはウォーキング教室を開きたがっていた。自分の居場所になるはずだった。でも、お義父さんが許可しなくて、さらに閉じ込めてしまった。教室を開くことを応援する人が現れたのに。その話をお義父さんから聞いたとき、ママが体調を崩しがちだったからかも知れないと、黒崎がお義父さんのことをかばった。こうして新しい橋が架かってきて良かったと思う。するとその時だ。黒崎から頭をなでられた。そして、謝られてしまった。
「すまない。遊びに来たのに」
「いいんだよ。こうして話す時間は大事だよ。予習しておきたいからね」
「そう急いで大人になるな。……夏樹。こっちへ座れ。視線を動かさずにだ」
「……」
ここの周りには危険がない。何も起きていない。でも、時々こうして、危険が近づいてきたときの練習をすることがある。黒崎の指示通りにした。これから先に役立つ訓練の一つだ。今の訓練は痴漢対策だ。遊園地でしなくても良いだろうと思ったけれど、今まで痴漢に遭ってきた以上、言い返すことができない。すると、黒崎が笑った。遊びに来たときにするなというのか?と言われて、自分が不満そうな顔をしているのだと分かった。こうして表情が読み取れない方が痴漢にはいいらしいけれど、今の自分には難しかった。
「夏樹。痴漢対策になるんだぞ?大学は電車通学をしたいだろう?」
「うんっ。あのさ……、観覧車に乗りたい。ね?」
「……何かあるだろう?」
「……プレゼントを渡したいんだ」
そろそろ黒崎に渡したい物がある。ママ達と遭う前に。二葉と朝陽から預かった、沢山の手紙だ。ママが黒崎家から出て行った後、黒崎に何度も手紙を送ったそうだ。でも、お義父さんから送り返されてしまい、黒崎自身は読んだことがないそうだ。それをママは取ってあった。それを黒崎に渡したい。
何かあるだろうともう一度聞かれた。あるとだけ答えた。デザートまで食べ終わった後、黒崎の背中を押して、観覧車乗り場へ連れて行った。
「同じ気持ちなんだよ。新しい環境っていう波に押されると思う。それが、すれ違いだと思う。別の岸にたどり着くのかもって思うと不安だよ。対岸同士で見つめ合う状態になるんじゃないかってさ……」
「努力しよう。些細な誤解が、大きな溝になることがある」
「うん。軌道修正が出来なくなるのは怖いよ」
この例えは、ママのことだ。黒崎家の当主の妻として切り盛りをした。どんなに頑張っても、親戚や周囲から、冷たい目を向けられていたそうだ。当たり前の事が出来ないとまで言われた。常にプレッシャーを感じて、心のバランスを崩したそうだ。その結果、黒崎家以外へ居場所を求めた。本当は息子である黒崎と一緒にいたいのに、うまく家事ができないことを引け目に感じたママは黒崎に対して遠慮がちになり、話しかけられなくなったそうで、黒崎は自分はママに嫌われているのだと誤解をしていた。
モデルを引退した後、ママはウォーキング教室を開きたがっていた。自分の居場所になるはずだった。でも、お義父さんが許可しなくて、さらに閉じ込めてしまった。教室を開くことを応援する人が現れたのに。その話をお義父さんから聞いたとき、ママが体調を崩しがちだったからかも知れないと、黒崎がお義父さんのことをかばった。こうして新しい橋が架かってきて良かったと思う。するとその時だ。黒崎から頭をなでられた。そして、謝られてしまった。
「すまない。遊びに来たのに」
「いいんだよ。こうして話す時間は大事だよ。予習しておきたいからね」
「そう急いで大人になるな。……夏樹。こっちへ座れ。視線を動かさずにだ」
「……」
ここの周りには危険がない。何も起きていない。でも、時々こうして、危険が近づいてきたときの練習をすることがある。黒崎の指示通りにした。これから先に役立つ訓練の一つだ。今の訓練は痴漢対策だ。遊園地でしなくても良いだろうと思ったけれど、今まで痴漢に遭ってきた以上、言い返すことができない。すると、黒崎が笑った。遊びに来たときにするなというのか?と言われて、自分が不満そうな顔をしているのだと分かった。こうして表情が読み取れない方が痴漢にはいいらしいけれど、今の自分には難しかった。
「夏樹。痴漢対策になるんだぞ?大学は電車通学をしたいだろう?」
「うんっ。あのさ……、観覧車に乗りたい。ね?」
「……何かあるだろう?」
「……プレゼントを渡したいんだ」
そろそろ黒崎に渡したい物がある。ママ達と遭う前に。二葉と朝陽から預かった、沢山の手紙だ。ママが黒崎家から出て行った後、黒崎に何度も手紙を送ったそうだ。でも、お義父さんから送り返されてしまい、黒崎自身は読んだことがないそうだ。それをママは取ってあった。それを黒崎に渡したい。
何かあるだろうともう一度聞かれた。あるとだけ答えた。デザートまで食べ終わった後、黒崎の背中を押して、観覧車乗り場へ連れて行った。
0
あなたにおすすめの小説
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
悠と榎本
暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか
そいつの事を 無意識に探してしまう
見ているだけで 良かったものの
2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・
とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~
冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。
「道路やばくない? 整備しよ」
「孤児院とか作ったら?」
「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」
貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。
不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。
孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。
元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち――
濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。
気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。
R8.1.20 投稿開始
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる