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7-1 サクラが咲いた日(黒崎視点)
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3月10日、火曜日。午前7時。
今日は大学の合格発表がされる日だ。今日のために仕事の休みを取った。すでに黒崎製菓として業務が始まり、本社は支社として機能し始めた。
新しいオフィス、肩書き、住む場所。上司となる者、部下。色んな事が変化する。実家という場所もできた。そこへ夏樹を連れて行く以上、不安を最小限に留めておく。
シャワーを浴びた後でキッチンへ入ると、夏樹が朝食の準備をしていた。俺の方を向こうとしない。昨日の送別会でアクシデントが起き、口紅がシャツに付いてしまったからだ。転んだ客を助け起こしたからだと説明すると納得したが、タイミングが悪かった。合格発表前のナーバスさを顔に出さないようにと頑張っていた夏樹が、とうとう不機嫌さを出してしまった。俺は気持ちが分かるから言い返さないでおいた。今は声を掛けないでおこう。テレビ画面へ視線を向けると、朝の情報番組が始まり、天気予報のコーナーに移った。
「……冷え込む一日になるでしょう。防寒対策をしてお出かけください」
家の中も冷え込んでいる。チャンネルを変えると、料理コーナーをやっていた。料理研究家とアシスタントが出ている。
「……トマトソースを使ったパスタです」
「……真っ赤なソースですねー。よく絡んで...、真っ白なお皿に、赤、赤、赤……」
妙に不吉な予感がする。チャンネルを変えると、事件のニュースが流れていた。
「……夫が刺されたとの通報がありました。警察は交友関係を調べ……、速報が入りました。妻が警察へ出頭したとの情報です……」
このまま観るのが嫌になってきた。映画専門チャンネルに変えた直後、スピーカーから銃声が聞こえた。
「バリバリバリッ!!」
家の中で銃撃戦が繰り広げられているシーンだ。テレビを切ると、キッチンから声を掛けられた。ごめんなさいと。せっかく休みを取ってくれたのにと言い、また沈んだ顔をし始めた。
さっそくキッチンへ行き、抱き寄せて頭を撫でてやった。少しだけ笑顔が浮かんだタイミングでキスをすると、顔を赤らめて笑った。これでいい。
「黒崎さん。ありがとう。ピザトーストを作ったんだ。お兄ちゃんから貰ったレシピ本のやつ。ポトフもあるよ。昨日のやつにセロリを追加したんだ」
「ありがとう。運ぶのを手伝う」
「黒崎さん。俺の受験番号は、A14949だよ」
「覚えている。発表の時、よく見てみよう。……電話が掛かって来たぞ?」
「誰かな?あ、お兄ちゃんからだ。暑苦しいから、一緒に話そうね」
伊吹から電話がかかってきた。朝の出勤前に掛けて来たのか。夏樹のことが心配に決まっている。夏樹が俺と一緒に会話したいと言い出して、スピーカー設定を変えた。朝から騒々しい話し声を聞きたくないが、今日ばかりは拒まずにしよう。さっそく聞こえて来たのは、伊吹の落ち着き払った声だった。普段のような暑苦しいものではなかった。
「お兄ちゃん、おはよう。俺のことを心配したの?」
(……おはよう。とうとう昼に発表だな。……受験番号は何番だ?森本君の番号も教えてくれ。知っておかないと、余計なことを言いそうだ)
「それはそうだね。A1・4949だよ」
(……おお、覚えやすい番号だな。4949、シクシク)
「嫌なことを言うなよ~」
(……森本君の方は?)
「A4・7974だよ」
(……こっちも覚えやすいな。7974、ナクナヨ。シクシク、泣くなよ。うまい具合の組み合わせだ)
「最初から知っていたんだろ?お母さんに聞いたんだよねー」
(……腹が立って、体温が上がっただろう?しっかり食べておけ。……黒崎さんも聞いているでしょう?クリスマスイヴの贈り物を、ありがとうございました。株式会社ブロッコリーのアドバイザーを務めて頂けるとは……。いやーー、口が滑りました!……さすがは黒崎製菓グループに引き抜かれる方だ。R&W社の高野君からも話を聞きました。あなたがグループに戻って来るならと、転職してくる人が増えたそうです。どうせ移るなら黒崎製菓です!……是非とも電子コンテンツ業としてお役に立ちたい。大事な弟のパートナーです。俺にとっても義理の兄貴だ。いやーー、口が滑りました!……そろそろ支度します。じゃあなー。夏樹、黒崎さんのことを困らせておけよーー)
しばらく掛けてくるな。その言葉を飲み込んで、電話を切ったようだ。思いやりとしての図々しい発言だろう。それを理解している様子で、夏樹から騒がしくてごめんねと言われて、微笑まれた。俺は彼の頭を撫ででやり、朝食を食べ始めた。
今日は大学の合格発表がされる日だ。今日のために仕事の休みを取った。すでに黒崎製菓として業務が始まり、本社は支社として機能し始めた。
新しいオフィス、肩書き、住む場所。上司となる者、部下。色んな事が変化する。実家という場所もできた。そこへ夏樹を連れて行く以上、不安を最小限に留めておく。
シャワーを浴びた後でキッチンへ入ると、夏樹が朝食の準備をしていた。俺の方を向こうとしない。昨日の送別会でアクシデントが起き、口紅がシャツに付いてしまったからだ。転んだ客を助け起こしたからだと説明すると納得したが、タイミングが悪かった。合格発表前のナーバスさを顔に出さないようにと頑張っていた夏樹が、とうとう不機嫌さを出してしまった。俺は気持ちが分かるから言い返さないでおいた。今は声を掛けないでおこう。テレビ画面へ視線を向けると、朝の情報番組が始まり、天気予報のコーナーに移った。
「……冷え込む一日になるでしょう。防寒対策をしてお出かけください」
家の中も冷え込んでいる。チャンネルを変えると、料理コーナーをやっていた。料理研究家とアシスタントが出ている。
「……トマトソースを使ったパスタです」
「……真っ赤なソースですねー。よく絡んで...、真っ白なお皿に、赤、赤、赤……」
妙に不吉な予感がする。チャンネルを変えると、事件のニュースが流れていた。
「……夫が刺されたとの通報がありました。警察は交友関係を調べ……、速報が入りました。妻が警察へ出頭したとの情報です……」
このまま観るのが嫌になってきた。映画専門チャンネルに変えた直後、スピーカーから銃声が聞こえた。
「バリバリバリッ!!」
家の中で銃撃戦が繰り広げられているシーンだ。テレビを切ると、キッチンから声を掛けられた。ごめんなさいと。せっかく休みを取ってくれたのにと言い、また沈んだ顔をし始めた。
さっそくキッチンへ行き、抱き寄せて頭を撫でてやった。少しだけ笑顔が浮かんだタイミングでキスをすると、顔を赤らめて笑った。これでいい。
「黒崎さん。ありがとう。ピザトーストを作ったんだ。お兄ちゃんから貰ったレシピ本のやつ。ポトフもあるよ。昨日のやつにセロリを追加したんだ」
「ありがとう。運ぶのを手伝う」
「黒崎さん。俺の受験番号は、A14949だよ」
「覚えている。発表の時、よく見てみよう。……電話が掛かって来たぞ?」
「誰かな?あ、お兄ちゃんからだ。暑苦しいから、一緒に話そうね」
伊吹から電話がかかってきた。朝の出勤前に掛けて来たのか。夏樹のことが心配に決まっている。夏樹が俺と一緒に会話したいと言い出して、スピーカー設定を変えた。朝から騒々しい話し声を聞きたくないが、今日ばかりは拒まずにしよう。さっそく聞こえて来たのは、伊吹の落ち着き払った声だった。普段のような暑苦しいものではなかった。
「お兄ちゃん、おはよう。俺のことを心配したの?」
(……おはよう。とうとう昼に発表だな。……受験番号は何番だ?森本君の番号も教えてくれ。知っておかないと、余計なことを言いそうだ)
「それはそうだね。A1・4949だよ」
(……おお、覚えやすい番号だな。4949、シクシク)
「嫌なことを言うなよ~」
(……森本君の方は?)
「A4・7974だよ」
(……こっちも覚えやすいな。7974、ナクナヨ。シクシク、泣くなよ。うまい具合の組み合わせだ)
「最初から知っていたんだろ?お母さんに聞いたんだよねー」
(……腹が立って、体温が上がっただろう?しっかり食べておけ。……黒崎さんも聞いているでしょう?クリスマスイヴの贈り物を、ありがとうございました。株式会社ブロッコリーのアドバイザーを務めて頂けるとは……。いやーー、口が滑りました!……さすがは黒崎製菓グループに引き抜かれる方だ。R&W社の高野君からも話を聞きました。あなたがグループに戻って来るならと、転職してくる人が増えたそうです。どうせ移るなら黒崎製菓です!……是非とも電子コンテンツ業としてお役に立ちたい。大事な弟のパートナーです。俺にとっても義理の兄貴だ。いやーー、口が滑りました!……そろそろ支度します。じゃあなー。夏樹、黒崎さんのことを困らせておけよーー)
しばらく掛けてくるな。その言葉を飲み込んで、電話を切ったようだ。思いやりとしての図々しい発言だろう。それを理解している様子で、夏樹から騒がしくてごめんねと言われて、微笑まれた。俺は彼の頭を撫ででやり、朝食を食べ始めた。
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