54 / 283
7-5
しおりを挟む
そろそろ黒崎の電話が終わる頃だろうか。何かを断っている会話だから気になった。どうも俺のことに関係している。話している表情はいつも通りだが、苛立っているように感じた。
「その件は、何度もお断りしました。本人は興味を持っていませんし、僕もさせる気はありませんので。……ええ、大学は合格しました。……宮岡でしたか」
どうやらモデルのスカウトの関係らしい。1月末の夜、黒崎の密着取材の放送が流れたことで、今までよりも声を掛けられる事が増えた。電話が終わったようだ。黒崎がため息をついた。
「すまない。長話になった。聞いていただろう?モデルの誘いだ。カメラテストだけでもさせてほしいと頼まれた。……父の名前を出された。知り合いらしい」
「ああ、なるほどー……」
「これから先、黒崎家の関係で慌ただしいことがあるはずだ」
「それは納得しているよ。その上で結婚したんだよ」
「お前には、ゆっくり過ごさせる」
「黒崎家に行くのは楽しかったよ」
「そうか」
大学二次試験の時には、黒崎家に3日間泊まった。とても良くしてもらった。森のような敷地内には大きな洋館があり、東の方にも家があった。誰も住んでいないそうだ。ノスタルジックな外観に惹かれたから、引っ越した後で案内してもらえる。こういうわけで、お義父さんの家へ遊びに行くのは怖くない。
リビングのテーブルの前に並んで座り、これからの生活のことを話し合った。新居の候補と、大学入学の手続きについてだ。
テーブルの上には、大学の教授陣について書かれた冊子が置かれている。学生アンケートにより、優しい先生かどうか記載されている。これを参考に履修するクラスを決定しろと、伊吹からアドバイスされた。
「第二外国語はドイツ語を選択するよ。3月末に大学へ行って手続きをすること。学生証用の写真、教科書、パソコン。引っ越しが……」
「3月25日にした。……これが新居の候補だ。この2箇所は、黒崎家の近くだ。高層マンション、中低層マンションだ。お前は低い方が好みだが、ここは庭がない。高層マンションは、ここと同じ規模の庭がある。低さを取るか、庭を取るかだ」
「どっちが通勤に便利なの?小さい方が出入りが楽だよね?バタバタした時とか」
「大して変わらない。この物件はどうだ?高塚アイランドと似た環境だ。俺の方は、ここがいいと思っている」
3箇所目のパンフレットを見せられた。四方を運河で囲まれた島のような土地だ。マンションが並んだ居住エリア、オフィス群、ショッピングエリアがある。自然に囲まれているから、好みの場所だと思った。オフィスからは遠いと思う。
「会社からも遠いと思う。そうだよね?」
「俺は構わない。こっちの方が良いだろう?」
びよーーんと、頬をつねられた。そして、黒崎がパソコンで黒崎製菓、大学、黒崎家、新居候補のマップを表示させた。それらを順番に表示させながら、通勤通学の経路と時間を説明してくれた。その淀みのない説明に、頼りになる人だと思った。
「本社は中央区だ。2年生までのキャンパスが、この場所にある。同じ港区に住まなくても大差ない」
「土地勘がないから分からなかったよ」
「俺としては、黒崎家から離れている方がいい」
「どうして?」
「父が入りびたるからだ。家にいる時は独り占めさせろ」
「うん……」
「この羽柴アイランドで決定だ。これで今日は終わりだ。寝ようか」
「ん……っ」
部屋着の中へ手が侵入してきた。5日間もイチャついていないし、心が軽くなったこともあり、積極的になれた。黒崎の膝の上に座ると、息を詰めた気配があった。心配になって降りようとすると止められた。
「……動くな。腰が痛い」
「ええ?」
「すぐに動けるようになる……」
「まさかギックリ腰?」
「うるさい……」
そのまさかが起きてしまったようだ。しばらく同じ姿勢を保った後、動けるようになった。ベッドに入ってもらいたいのに、平気なふりをしている。そんな黒崎のことを引きずるようにして、寝室へ連行した。
「その件は、何度もお断りしました。本人は興味を持っていませんし、僕もさせる気はありませんので。……ええ、大学は合格しました。……宮岡でしたか」
どうやらモデルのスカウトの関係らしい。1月末の夜、黒崎の密着取材の放送が流れたことで、今までよりも声を掛けられる事が増えた。電話が終わったようだ。黒崎がため息をついた。
「すまない。長話になった。聞いていただろう?モデルの誘いだ。カメラテストだけでもさせてほしいと頼まれた。……父の名前を出された。知り合いらしい」
「ああ、なるほどー……」
「これから先、黒崎家の関係で慌ただしいことがあるはずだ」
「それは納得しているよ。その上で結婚したんだよ」
「お前には、ゆっくり過ごさせる」
「黒崎家に行くのは楽しかったよ」
「そうか」
大学二次試験の時には、黒崎家に3日間泊まった。とても良くしてもらった。森のような敷地内には大きな洋館があり、東の方にも家があった。誰も住んでいないそうだ。ノスタルジックな外観に惹かれたから、引っ越した後で案内してもらえる。こういうわけで、お義父さんの家へ遊びに行くのは怖くない。
リビングのテーブルの前に並んで座り、これからの生活のことを話し合った。新居の候補と、大学入学の手続きについてだ。
テーブルの上には、大学の教授陣について書かれた冊子が置かれている。学生アンケートにより、優しい先生かどうか記載されている。これを参考に履修するクラスを決定しろと、伊吹からアドバイスされた。
「第二外国語はドイツ語を選択するよ。3月末に大学へ行って手続きをすること。学生証用の写真、教科書、パソコン。引っ越しが……」
「3月25日にした。……これが新居の候補だ。この2箇所は、黒崎家の近くだ。高層マンション、中低層マンションだ。お前は低い方が好みだが、ここは庭がない。高層マンションは、ここと同じ規模の庭がある。低さを取るか、庭を取るかだ」
「どっちが通勤に便利なの?小さい方が出入りが楽だよね?バタバタした時とか」
「大して変わらない。この物件はどうだ?高塚アイランドと似た環境だ。俺の方は、ここがいいと思っている」
3箇所目のパンフレットを見せられた。四方を運河で囲まれた島のような土地だ。マンションが並んだ居住エリア、オフィス群、ショッピングエリアがある。自然に囲まれているから、好みの場所だと思った。オフィスからは遠いと思う。
「会社からも遠いと思う。そうだよね?」
「俺は構わない。こっちの方が良いだろう?」
びよーーんと、頬をつねられた。そして、黒崎がパソコンで黒崎製菓、大学、黒崎家、新居候補のマップを表示させた。それらを順番に表示させながら、通勤通学の経路と時間を説明してくれた。その淀みのない説明に、頼りになる人だと思った。
「本社は中央区だ。2年生までのキャンパスが、この場所にある。同じ港区に住まなくても大差ない」
「土地勘がないから分からなかったよ」
「俺としては、黒崎家から離れている方がいい」
「どうして?」
「父が入りびたるからだ。家にいる時は独り占めさせろ」
「うん……」
「この羽柴アイランドで決定だ。これで今日は終わりだ。寝ようか」
「ん……っ」
部屋着の中へ手が侵入してきた。5日間もイチャついていないし、心が軽くなったこともあり、積極的になれた。黒崎の膝の上に座ると、息を詰めた気配があった。心配になって降りようとすると止められた。
「……動くな。腰が痛い」
「ええ?」
「すぐに動けるようになる……」
「まさかギックリ腰?」
「うるさい……」
そのまさかが起きてしまったようだ。しばらく同じ姿勢を保った後、動けるようになった。ベッドに入ってもらいたいのに、平気なふりをしている。そんな黒崎のことを引きずるようにして、寝室へ連行した。
0
あなたにおすすめの小説
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
悠と榎本
暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか
そいつの事を 無意識に探してしまう
見ているだけで 良かったものの
2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる