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二葉と別れた後、卒業式が行われる講堂へ向かっているところだ。桜並木の下を黒崎と並んで歩きながら、この学校に入って良かったということと、楽しく通えたし、友達という存在ができるという思い出ができたことを話した。
今日の帰りに、学校の礼拝堂へ寄って行く話になった。ぼんやりとステンドグラスを眺めたい。ここは自由に出入りできるけれど、次に帰った時に寄れるとは限らない。バタバタしている気がする。
「なんだかねー。忙しくなる予感があるんだ。バンドも始めるし」
「充実するならいいじゃないか。無理はさせない。まずは、月2回の発熱を改善したい。聖加世病院の方で、月一回の栄養指導が受けられる。気をつけていこう」
「ありがとう。なるべく食べるようにするよ。ご飯の量が増えただろ?ふた口ぐらい……」
「二葉が心配していた。ママもだ。魚料理を食べる回数を増やそう」
「ママはモデルさんを育てているもんね。その関係もあるから、声を掛けられたのかな?」
「関係している。食事に行った先で、知り合いに会ったことがある。俺はさせるつもりはない。バンド活動を楽しんでくれ」
「もちろんだよ。……ねえ。二葉って、あんたの女の子版って感じだよ」
「……ああ、俺もそう思う」
「一緒に育っていないのに、不思議だね?」
「そうだな……」
黒崎からの返事に、違和感を持った。いつもなら笑って終わりなのに、何か含みを感じた。何かあるのだろうか。
「何かあったの?いつもと違う感じだけど……」
「鋭くなった。これでも顔に出していないつもりだった」
「あんたのことだと、妙に勘が冴えるんだよ。そういう言い方をするってことは、何があるんだよ?」
「二葉は知らないことだ。言わないでくれ」
「もちろんだよ」
「……二葉は父の娘だ」
「……ええ?」
俺は驚いた声を上げた。黒崎の話がスローモーションのように感じた。卒業式に出る保護者の声が聞こえている。スマホからの着信音。ざわめきと笑い声。騒がしい中にいるのに、俺たちの周りだけが切り取られたかのような錯覚を受けた。そして、黒崎の声がクリアに聞こえていた。
「ママが二葉を妊娠した状況は察してくれ。いいものではないはずだ。関係は壊れていたそうだ」
「うん……。そうだよね……」
次に出す言葉が見つからない。桜並木の下には、散った花びらが絨毯のように広がっている。淡いピンクが綺麗な場所もあれば、靴に踏まれてしまった場所もある。でも、両方とも綺麗な花だ。事実は違うもので、綺麗なものであってほしいと思った。昔、何があったのだろうか。
「倉口さんの方も納得済のことだそうだ」
「ママから聞いていたんだね」
「ああ。その後で父と話した。二葉が黒崎製菓のコンテストで賞を獲った時、名前が耳に入ったそうだ。エントリーシートの写真を見て、自分の娘だと確信したそうだ」
「二葉ちゃんには教えなくてもいいよね?俺が言えることでもないけど」
「それがな。二葉が経営に興味があることを、父は分かっているわけだ。二葉を手元に呼びよせて、黒崎製菓で育てたいと言い出した。まるで拓海兄さんと俺の関係のようだ。親子の名乗りをするかも知れない。……夏樹」
「どうしたの?」
「この話を父から聞かされた時は、黒崎製菓の助けになると期待した。二葉がどう思うかは、その後のことだった。俺はそういう人間だ。変わったと思っていたが、根本は変わっていない。冷たい人間だと思っている。今更だが……、俺でいいのか?」
何を言っているのか。当たり前だろう。その言葉が咄嗟に出てこなかった。悲しそうだと感じたからだ。
そんなことはないよ。その言葉を出す前に、黒崎の身体へダイブした。抱きつくことで気持ちを伝えることにしたのは、こうした方が黒崎にとっては説得力があるからだ。
今日の帰りに、学校の礼拝堂へ寄って行く話になった。ぼんやりとステンドグラスを眺めたい。ここは自由に出入りできるけれど、次に帰った時に寄れるとは限らない。バタバタしている気がする。
「なんだかねー。忙しくなる予感があるんだ。バンドも始めるし」
「充実するならいいじゃないか。無理はさせない。まずは、月2回の発熱を改善したい。聖加世病院の方で、月一回の栄養指導が受けられる。気をつけていこう」
「ありがとう。なるべく食べるようにするよ。ご飯の量が増えただろ?ふた口ぐらい……」
「二葉が心配していた。ママもだ。魚料理を食べる回数を増やそう」
「ママはモデルさんを育てているもんね。その関係もあるから、声を掛けられたのかな?」
「関係している。食事に行った先で、知り合いに会ったことがある。俺はさせるつもりはない。バンド活動を楽しんでくれ」
「もちろんだよ。……ねえ。二葉って、あんたの女の子版って感じだよ」
「……ああ、俺もそう思う」
「一緒に育っていないのに、不思議だね?」
「そうだな……」
黒崎からの返事に、違和感を持った。いつもなら笑って終わりなのに、何か含みを感じた。何かあるのだろうか。
「何かあったの?いつもと違う感じだけど……」
「鋭くなった。これでも顔に出していないつもりだった」
「あんたのことだと、妙に勘が冴えるんだよ。そういう言い方をするってことは、何があるんだよ?」
「二葉は知らないことだ。言わないでくれ」
「もちろんだよ」
「……二葉は父の娘だ」
「……ええ?」
俺は驚いた声を上げた。黒崎の話がスローモーションのように感じた。卒業式に出る保護者の声が聞こえている。スマホからの着信音。ざわめきと笑い声。騒がしい中にいるのに、俺たちの周りだけが切り取られたかのような錯覚を受けた。そして、黒崎の声がクリアに聞こえていた。
「ママが二葉を妊娠した状況は察してくれ。いいものではないはずだ。関係は壊れていたそうだ」
「うん……。そうだよね……」
次に出す言葉が見つからない。桜並木の下には、散った花びらが絨毯のように広がっている。淡いピンクが綺麗な場所もあれば、靴に踏まれてしまった場所もある。でも、両方とも綺麗な花だ。事実は違うもので、綺麗なものであってほしいと思った。昔、何があったのだろうか。
「倉口さんの方も納得済のことだそうだ」
「ママから聞いていたんだね」
「ああ。その後で父と話した。二葉が黒崎製菓のコンテストで賞を獲った時、名前が耳に入ったそうだ。エントリーシートの写真を見て、自分の娘だと確信したそうだ」
「二葉ちゃんには教えなくてもいいよね?俺が言えることでもないけど」
「それがな。二葉が経営に興味があることを、父は分かっているわけだ。二葉を手元に呼びよせて、黒崎製菓で育てたいと言い出した。まるで拓海兄さんと俺の関係のようだ。親子の名乗りをするかも知れない。……夏樹」
「どうしたの?」
「この話を父から聞かされた時は、黒崎製菓の助けになると期待した。二葉がどう思うかは、その後のことだった。俺はそういう人間だ。変わったと思っていたが、根本は変わっていない。冷たい人間だと思っている。今更だが……、俺でいいのか?」
何を言っているのか。当たり前だろう。その言葉が咄嗟に出てこなかった。悲しそうだと感じたからだ。
そんなことはないよ。その言葉を出す前に、黒崎の身体へダイブした。抱きつくことで気持ちを伝えることにしたのは、こうした方が黒崎にとっては説得力があるからだ。
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