アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 15時半。

 手続きが終わり、これから帰るところだ。さっき森本と悠人と山崎のことを正門まで見送ってきた。これから聡太郎に会って帰る。今、その聡太郎を待っているところだ。

 桜並木の下をゆっくりと歩いていると、湿った空気が鼻をくすぐった。昨日の雨が残り、まだ乾いていない土の匂いだと分かった。テントの場所から離れているのに、サークル歓迎の声が響いてきた。周りを見ると、どこもかしこも学生だらけだ。開明高校の全校生徒は400人だ。この大学は、もっと多い学生が在籍している。その数からも、高校時代とは大きな違いだ。いろんな生徒がいると思う。今日は悠人と山崎と森本と聡太郎との5人で昼ご飯を食べてきた。彼らから北添達のことは気にするなと言われて、励まされた。その時に悠人が言っていたことを思い出した。

(あのさ。並川さんから聞いたんだけど。入学したばかりの時は、同じ学校の出身者が集団を作っているんだよ。その他は塾が一緒だったり、予備校の模試で名前を見たことがあったりする。高校時代からお互いに名前を知っているんだよ。そのうち変わってくるよ。夏樹のことを守るよ。平気だからね!)
(ありがとう。これからもよろしく)
(まかせておけよーー)

 悠人の笑顔が印象的だった。するとその時だ。ぼんやりと桜の花を見上げていると、聡太郎から声をかけられた。おまたせ。そう言いながら歩いて来る光景を眺めて、中学時代のことを思い出して懐かしくなった。俺が喧嘩をして家に帰ろうとした時、聡太郎が一緒に着いて来てくれていた。その待ち合わせ場所が、近所にある聡太郎の家だった。

「まだ桜が残っているよ。見ていく?」
「うん。向こうはもう散っていたんだ」
「ああ、そうだね。暖かいからね」

 すると、春風に吹かれた桜の木から、花びらが飛んできた。それが聡太郎の頬と髪の毛に付いた。黒と白、淡いピンクとのコントラストが綺麗だと思い、また昔のことを思い出した。聡太郎が小学校の劇に出た時に、桜の木の精を演じた。最初はその役をやるのを嫌がっていた聡太郎だったけれど、伊吹が言った一言で気が変わり、演じたという思い出がある。

「覚えている?お兄ちゃんが、聡太郎君に、聡太郎は桜の妖精だよって言ったこと」
「覚えているよ。桜の木の精を演じたときだ。俺の名字で選ばれたんだ。桜木だからね。嫌だった。でも、伊吹がそう言ったから、やる気が出たんだよ」
「お兄ちゃんのことが好きだよね~」
「うん、素直になれないけどね」
「冷たくして、ちょうどいいぐらいだよ。図々しくて暑苦しいもん。大人しくなってほしい」
「さらに冷たくしようか。……人見知りを直したいの?」
「うん。働くようになったら、今のままじゃダメだと思うからさ」
「やるべき時に、気合を持って振舞えればいいと思っているよ。それ以外では、夏樹君のままがいい。泣き虫、人見知り、引っ込み思案。実はケンカが強いとかね」
「はは……。悪い過去だよ……」
「今の夏樹君は、泣いて笑っている。素直にそういうことが出来る人は少ないんだよ?特技だと思えばいい。欠点じゃないからね」
「うん……」

 聡太郎のことが大好きだと思った。悩んでいる時に、自然と手を差し出してくれる。伊吹は、ねじ込んでくるタイプだ。黒崎は手を繋いでくれる。だったら俺は、どんなタイプだろう?自然と呟いた言葉に、聡太郎が笑った。

「夏樹君はね。心の中に入ることが出来る子だよ」
「嬉しいよ。聡太郎君、学校の先生になりたくないの?」
「なりたい気持ちはあるよ。研究者になる夢もある。……そうだ。バンドメンバーで集まる日を決めたい。入学式の前がいいけど、いつがいい?」
「水曜日が空いているよ」
「決まったら連絡する。俺の方から、黒崎さんへ電話しようか?勝手に決めるなって、言われない?」
「それは大丈夫だよ~。保護者なのか嫉妬深いのか、分からない人なんだよ」
「その気持ちは分かる。そうだ、コンパの誘いは断っていいからね。出なくても問題ない。……さあ、行こうか」
「あ……。伊吹の弟だって言われた」
「今日は何回目かな?」
「5回目だよーーー」

 正門へ向かう間、俺のことを見かけた上級生達から、伊吹の弟だと声を上げられた。伊吹は何をやったのだろう。怖いもの見たさで質問をすると、聡太郎から意味深な微笑みを返された。もう聞くのをやめようと思った。そして、お義父さんとの約束通りに迎えの車を呼んで、大学を後にした。
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