95 / 283
13-7
しおりを挟む
15時半。
手続きが終わり、これから帰るところだ。さっき森本と悠人と山崎のことを正門まで見送ってきた。これから聡太郎に会って帰る。今、その聡太郎を待っているところだ。
桜並木の下をゆっくりと歩いていると、湿った空気が鼻をくすぐった。昨日の雨が残り、まだ乾いていない土の匂いだと分かった。テントの場所から離れているのに、サークル歓迎の声が響いてきた。周りを見ると、どこもかしこも学生だらけだ。開明高校の全校生徒は400人だ。この大学は、もっと多い学生が在籍している。その数からも、高校時代とは大きな違いだ。いろんな生徒がいると思う。今日は悠人と山崎と森本と聡太郎との5人で昼ご飯を食べてきた。彼らから北添達のことは気にするなと言われて、励まされた。その時に悠人が言っていたことを思い出した。
(あのさ。並川さんから聞いたんだけど。入学したばかりの時は、同じ学校の出身者が集団を作っているんだよ。その他は塾が一緒だったり、予備校の模試で名前を見たことがあったりする。高校時代からお互いに名前を知っているんだよ。そのうち変わってくるよ。夏樹のことを守るよ。平気だからね!)
(ありがとう。これからもよろしく)
(まかせておけよーー)
悠人の笑顔が印象的だった。するとその時だ。ぼんやりと桜の花を見上げていると、聡太郎から声をかけられた。おまたせ。そう言いながら歩いて来る光景を眺めて、中学時代のことを思い出して懐かしくなった。俺が喧嘩をして家に帰ろうとした時、聡太郎が一緒に着いて来てくれていた。その待ち合わせ場所が、近所にある聡太郎の家だった。
「まだ桜が残っているよ。見ていく?」
「うん。向こうはもう散っていたんだ」
「ああ、そうだね。暖かいからね」
すると、春風に吹かれた桜の木から、花びらが飛んできた。それが聡太郎の頬と髪の毛に付いた。黒と白、淡いピンクとのコントラストが綺麗だと思い、また昔のことを思い出した。聡太郎が小学校の劇に出た時に、桜の木の精を演じた。最初はその役をやるのを嫌がっていた聡太郎だったけれど、伊吹が言った一言で気が変わり、演じたという思い出がある。
「覚えている?お兄ちゃんが、聡太郎君に、聡太郎は桜の妖精だよって言ったこと」
「覚えているよ。桜の木の精を演じたときだ。俺の名字で選ばれたんだ。桜木だからね。嫌だった。でも、伊吹がそう言ったから、やる気が出たんだよ」
「お兄ちゃんのことが好きだよね~」
「うん、素直になれないけどね」
「冷たくして、ちょうどいいぐらいだよ。図々しくて暑苦しいもん。大人しくなってほしい」
「さらに冷たくしようか。……人見知りを直したいの?」
「うん。働くようになったら、今のままじゃダメだと思うからさ」
「やるべき時に、気合を持って振舞えればいいと思っているよ。それ以外では、夏樹君のままがいい。泣き虫、人見知り、引っ込み思案。実はケンカが強いとかね」
「はは……。悪い過去だよ……」
「今の夏樹君は、泣いて笑っている。素直にそういうことが出来る人は少ないんだよ?特技だと思えばいい。欠点じゃないからね」
「うん……」
聡太郎のことが大好きだと思った。悩んでいる時に、自然と手を差し出してくれる。伊吹は、ねじ込んでくるタイプだ。黒崎は手を繋いでくれる。だったら俺は、どんなタイプだろう?自然と呟いた言葉に、聡太郎が笑った。
「夏樹君はね。心の中に入ることが出来る子だよ」
「嬉しいよ。聡太郎君、学校の先生になりたくないの?」
「なりたい気持ちはあるよ。研究者になる夢もある。……そうだ。バンドメンバーで集まる日を決めたい。入学式の前がいいけど、いつがいい?」
「水曜日が空いているよ」
「決まったら連絡する。俺の方から、黒崎さんへ電話しようか?勝手に決めるなって、言われない?」
「それは大丈夫だよ~。保護者なのか嫉妬深いのか、分からない人なんだよ」
「その気持ちは分かる。そうだ、コンパの誘いは断っていいからね。出なくても問題ない。……さあ、行こうか」
「あ……。伊吹の弟だって言われた」
「今日は何回目かな?」
「5回目だよーーー」
正門へ向かう間、俺のことを見かけた上級生達から、伊吹の弟だと声を上げられた。伊吹は何をやったのだろう。怖いもの見たさで質問をすると、聡太郎から意味深な微笑みを返された。もう聞くのをやめようと思った。そして、お義父さんとの約束通りに迎えの車を呼んで、大学を後にした。
手続きが終わり、これから帰るところだ。さっき森本と悠人と山崎のことを正門まで見送ってきた。これから聡太郎に会って帰る。今、その聡太郎を待っているところだ。
桜並木の下をゆっくりと歩いていると、湿った空気が鼻をくすぐった。昨日の雨が残り、まだ乾いていない土の匂いだと分かった。テントの場所から離れているのに、サークル歓迎の声が響いてきた。周りを見ると、どこもかしこも学生だらけだ。開明高校の全校生徒は400人だ。この大学は、もっと多い学生が在籍している。その数からも、高校時代とは大きな違いだ。いろんな生徒がいると思う。今日は悠人と山崎と森本と聡太郎との5人で昼ご飯を食べてきた。彼らから北添達のことは気にするなと言われて、励まされた。その時に悠人が言っていたことを思い出した。
(あのさ。並川さんから聞いたんだけど。入学したばかりの時は、同じ学校の出身者が集団を作っているんだよ。その他は塾が一緒だったり、予備校の模試で名前を見たことがあったりする。高校時代からお互いに名前を知っているんだよ。そのうち変わってくるよ。夏樹のことを守るよ。平気だからね!)
(ありがとう。これからもよろしく)
(まかせておけよーー)
悠人の笑顔が印象的だった。するとその時だ。ぼんやりと桜の花を見上げていると、聡太郎から声をかけられた。おまたせ。そう言いながら歩いて来る光景を眺めて、中学時代のことを思い出して懐かしくなった。俺が喧嘩をして家に帰ろうとした時、聡太郎が一緒に着いて来てくれていた。その待ち合わせ場所が、近所にある聡太郎の家だった。
「まだ桜が残っているよ。見ていく?」
「うん。向こうはもう散っていたんだ」
「ああ、そうだね。暖かいからね」
すると、春風に吹かれた桜の木から、花びらが飛んできた。それが聡太郎の頬と髪の毛に付いた。黒と白、淡いピンクとのコントラストが綺麗だと思い、また昔のことを思い出した。聡太郎が小学校の劇に出た時に、桜の木の精を演じた。最初はその役をやるのを嫌がっていた聡太郎だったけれど、伊吹が言った一言で気が変わり、演じたという思い出がある。
「覚えている?お兄ちゃんが、聡太郎君に、聡太郎は桜の妖精だよって言ったこと」
「覚えているよ。桜の木の精を演じたときだ。俺の名字で選ばれたんだ。桜木だからね。嫌だった。でも、伊吹がそう言ったから、やる気が出たんだよ」
「お兄ちゃんのことが好きだよね~」
「うん、素直になれないけどね」
「冷たくして、ちょうどいいぐらいだよ。図々しくて暑苦しいもん。大人しくなってほしい」
「さらに冷たくしようか。……人見知りを直したいの?」
「うん。働くようになったら、今のままじゃダメだと思うからさ」
「やるべき時に、気合を持って振舞えればいいと思っているよ。それ以外では、夏樹君のままがいい。泣き虫、人見知り、引っ込み思案。実はケンカが強いとかね」
「はは……。悪い過去だよ……」
「今の夏樹君は、泣いて笑っている。素直にそういうことが出来る人は少ないんだよ?特技だと思えばいい。欠点じゃないからね」
「うん……」
聡太郎のことが大好きだと思った。悩んでいる時に、自然と手を差し出してくれる。伊吹は、ねじ込んでくるタイプだ。黒崎は手を繋いでくれる。だったら俺は、どんなタイプだろう?自然と呟いた言葉に、聡太郎が笑った。
「夏樹君はね。心の中に入ることが出来る子だよ」
「嬉しいよ。聡太郎君、学校の先生になりたくないの?」
「なりたい気持ちはあるよ。研究者になる夢もある。……そうだ。バンドメンバーで集まる日を決めたい。入学式の前がいいけど、いつがいい?」
「水曜日が空いているよ」
「決まったら連絡する。俺の方から、黒崎さんへ電話しようか?勝手に決めるなって、言われない?」
「それは大丈夫だよ~。保護者なのか嫉妬深いのか、分からない人なんだよ」
「その気持ちは分かる。そうだ、コンパの誘いは断っていいからね。出なくても問題ない。……さあ、行こうか」
「あ……。伊吹の弟だって言われた」
「今日は何回目かな?」
「5回目だよーーー」
正門へ向かう間、俺のことを見かけた上級生達から、伊吹の弟だと声を上げられた。伊吹は何をやったのだろう。怖いもの見たさで質問をすると、聡太郎から意味深な微笑みを返された。もう聞くのをやめようと思った。そして、お義父さんとの約束通りに迎えの車を呼んで、大学を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
嘘つき王と影の騎士
篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」
国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。
酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。
そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。
代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。
死を待つためだけに辿り着いた冬の山。
絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。
守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。
無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。
なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。
これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。
とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~
冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。
「道路やばくない? 整備しよ」
「孤児院とか作ったら?」
「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」
貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。
不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。
孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。
元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち――
濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。
気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。
R8.1.20 投稿開始
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
悠と榎本
暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか
そいつの事を 無意識に探してしまう
見ているだけで 良かったものの
2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる