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18時45分。
大学から戻った後、疲れと高揚感で落ち着かず、まずはソファーへ寝転がった。そして、書類の整理は夜にやろうと思い、晩ご飯の支度を始めた。黒崎から今夜は外食にしようと言われたが、家の方が落ち着けるから、家で食べることになった。黒崎の方こそ、帰ってきた後はゆっくりしてもらいたい。明日は会食があり、週末は歓迎会があるからだ。
リクエストされた筑前煮と厚焼き玉子を作った。アサリとキャベツの酒蒸し、味噌汁、サラダも用意した。朝ごはんの下ごしらえも済ませておいた。
「朝ごはんは、これじゃ足りないなあ。他に何にしようかな。あ……」
冷蔵庫を開いた時、玄関の方から物音がした。黒崎が帰ってきたようだ。アンが玄関へ走って行った。俺も迎えに行こうとして振り向いた時に、床に置いていた段ボールにつまずいてしまった。カウンターに手を付いて転ばずに済んだけれど、足をぶつけてしまった。今朝からこんな調子だ。
「いたたっ。ああ、黒崎さん……」
「どうした?」
「おかえり~」
「苦しいのか?」
俺がしゃがみ込んでいたからだろう。返事をする前に黒崎から抱き上げられて、ソファーに寝かされた。そして、心配そうに顔を覗き込まれた。
「いつからだ?今はどうだ?」
「痛みは治まったよ」
「そうか、また起きるかもしれない。病院へ連絡をする」
「痛いのは膝の下だよ」
「……ん?」
「そこの段ボールに躓いたんだ。ごめん。人騒がせで」
「そうだったのか。送り迎えが出来ない分、心配になっている」
「俺も落ち着かないよ。いつも一緒だったから。おかえりなさい」
「ただいま。土産があるぞ」
背中を支えられて起き上がった。キッチンカウンターの上に、茶色の箱が置かれていた。『Charlotte's kitchen』と書いてある。さっそく開封すると、色とりどりのスイーツが入っていた。
「会社の一階あるカフェだ。黒崎製菓で扱っている菓子をコンセプトに、メニューを展開している。ワッフルとスコーンを買って来た」
「わあー。美味しそうだよ。ここって有名だよ。黒崎製菓の本社にしか、お店がないから」
「そうだな。今日は観光客が多かった」
「ありがとう。お風呂へ入ってきてよ。新しい入浴剤を入れているよ。聡太郎君から貰ったんだ。疲れが取れやすい薬草配合のやつ。いい匂いがしているよ」
「ありがとう」
黒崎が上着を脱いでネクタイを外し、シャツを脱いだ。脱いだものを無造作に置いておいていく姿を見つめた。相変わらずの脱ぎっぷりだ。スーツの保管には気を遣っているけれど、一日が終われば、こんな状態だ。
「そんなに脱ぎ散らかすなよ~」
「汗をかいた。後で片づける」
「気になるからやるよ」
脱いだものを拾い集めて、大きなカゴへ入れた。キッチンへ戻ろうとすると、黒崎の両腕に包み込まれて何度もキスを受け取った。今日のことを聞かれながらだった。
夕方、ラインで簡単に報告してあった。悠人に会ったことと、聡太郎を見て人波が消えた事も報告した。そして、バンドメンバーで集まる日が決定したこともだ。ただし、北添達から喧嘩をふっかけられた話はしていない。何かあったと見抜かれるから話したいのに、どうしても躊躇した。
「夏樹。落ち着いた後で聞かせてくれ。金曜日にメンバーで集まるんだろう?」
「うん。創作料理店の『焔』で集まるんだよ。和洋中の料理が揃っているんだってさ」
「そうか。楽しみだな」
「うん」
「風呂に入ってくる」
黒崎がバスルームへ入り、すぐにシャワーの音が聞こえて来た。黒崎は俺のことを分かっているから、大学で何か問題があったことに気づかれていると思う。まずは楽しい話から始めたい。だんだんとわくわくした気分に変わり、鼻歌を歌いながら、晩ご飯の支度を続けた。こうして一日が過ぎていった。
大学から戻った後、疲れと高揚感で落ち着かず、まずはソファーへ寝転がった。そして、書類の整理は夜にやろうと思い、晩ご飯の支度を始めた。黒崎から今夜は外食にしようと言われたが、家の方が落ち着けるから、家で食べることになった。黒崎の方こそ、帰ってきた後はゆっくりしてもらいたい。明日は会食があり、週末は歓迎会があるからだ。
リクエストされた筑前煮と厚焼き玉子を作った。アサリとキャベツの酒蒸し、味噌汁、サラダも用意した。朝ごはんの下ごしらえも済ませておいた。
「朝ごはんは、これじゃ足りないなあ。他に何にしようかな。あ……」
冷蔵庫を開いた時、玄関の方から物音がした。黒崎が帰ってきたようだ。アンが玄関へ走って行った。俺も迎えに行こうとして振り向いた時に、床に置いていた段ボールにつまずいてしまった。カウンターに手を付いて転ばずに済んだけれど、足をぶつけてしまった。今朝からこんな調子だ。
「いたたっ。ああ、黒崎さん……」
「どうした?」
「おかえり~」
「苦しいのか?」
俺がしゃがみ込んでいたからだろう。返事をする前に黒崎から抱き上げられて、ソファーに寝かされた。そして、心配そうに顔を覗き込まれた。
「いつからだ?今はどうだ?」
「痛みは治まったよ」
「そうか、また起きるかもしれない。病院へ連絡をする」
「痛いのは膝の下だよ」
「……ん?」
「そこの段ボールに躓いたんだ。ごめん。人騒がせで」
「そうだったのか。送り迎えが出来ない分、心配になっている」
「俺も落ち着かないよ。いつも一緒だったから。おかえりなさい」
「ただいま。土産があるぞ」
背中を支えられて起き上がった。キッチンカウンターの上に、茶色の箱が置かれていた。『Charlotte's kitchen』と書いてある。さっそく開封すると、色とりどりのスイーツが入っていた。
「会社の一階あるカフェだ。黒崎製菓で扱っている菓子をコンセプトに、メニューを展開している。ワッフルとスコーンを買って来た」
「わあー。美味しそうだよ。ここって有名だよ。黒崎製菓の本社にしか、お店がないから」
「そうだな。今日は観光客が多かった」
「ありがとう。お風呂へ入ってきてよ。新しい入浴剤を入れているよ。聡太郎君から貰ったんだ。疲れが取れやすい薬草配合のやつ。いい匂いがしているよ」
「ありがとう」
黒崎が上着を脱いでネクタイを外し、シャツを脱いだ。脱いだものを無造作に置いておいていく姿を見つめた。相変わらずの脱ぎっぷりだ。スーツの保管には気を遣っているけれど、一日が終われば、こんな状態だ。
「そんなに脱ぎ散らかすなよ~」
「汗をかいた。後で片づける」
「気になるからやるよ」
脱いだものを拾い集めて、大きなカゴへ入れた。キッチンへ戻ろうとすると、黒崎の両腕に包み込まれて何度もキスを受け取った。今日のことを聞かれながらだった。
夕方、ラインで簡単に報告してあった。悠人に会ったことと、聡太郎を見て人波が消えた事も報告した。そして、バンドメンバーで集まる日が決定したこともだ。ただし、北添達から喧嘩をふっかけられた話はしていない。何かあったと見抜かれるから話したいのに、どうしても躊躇した。
「夏樹。落ち着いた後で聞かせてくれ。金曜日にメンバーで集まるんだろう?」
「うん。創作料理店の『焔』で集まるんだよ。和洋中の料理が揃っているんだってさ」
「そうか。楽しみだな」
「うん」
「風呂に入ってくる」
黒崎がバスルームへ入り、すぐにシャワーの音が聞こえて来た。黒崎は俺のことを分かっているから、大学で何か問題があったことに気づかれていると思う。まずは楽しい話から始めたい。だんだんとわくわくした気分に変わり、鼻歌を歌いながら、晩ご飯の支度を続けた。こうして一日が過ぎていった。
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