アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
98 / 283

14-2

しおりを挟む
 6階でエレベーターを降り、店に入った。通されたのは個室だ。あちこちから賑やかな声が上がっている。今日集まったメンバーは、ドラムの並川さんと、ベースの悠人、ギターの聡太郎と藤沢。俺との五人だ。全員が集まれてよかった。藤沢は聡太郎とは顔見知りだ。彼と俺以外のメンバーとは初めて会う。でも、すぐに打ち解けられていた。開明高校に入学した時は人見知りするタイプだと言っていたけれど、今は違うと思う。藤沢のことを見て憧れた。

「藤沢、すごいなあ」
「現場で初めて会った人と仕事をすることが多いからだよ。自然に慣れたよ。夏樹。カメラテストを受けるんだって?」
「うん。記念写真のつもりで撮って貰うよ」
「それがいい」

 今日決まったことは、バンドの練習日と時間だ。週一回のペースで、池袋のスタジオで練習する。そして、コンテストに出場することも聞いて驚いた。まだ結成したばかりだし、そもそも演奏すらしていないからだ。しかも、出場することは、もう決まっているそうだ。その理由を並川さんが教えてくれた。

「実はね。俺と桜木君が入っていたバンドで出場することが決まっていたんだけど、その後で解散したんだ。新しいバンドで出ることができるか来てみたら、OKが出たよ。出場をやめることもできるよ。よかったら出ないか?」
「わあ。緊張するなあ」
「悠人君はコンテスト経験者だったね」
「はい。今度出るコンテストって……。トライコンテストですか?マジカルコンテストかもって思っていたんですけど」
「ミライ・アマチュアバンドコンテストだよ……」
「ええ?な、並川さん……っ。いきなりは難しいですーーー」
「悠人君。出ようよ」
「で、でも……」

 悠人から聞いたのは、そのコンテストが有名で、全国から上手なグループばかりが出るということだ。悠人が座ったままで後ずさりをして、言葉を失った。そっと彼の背中をさすってやると、ぼんやりと俺の方を見た。

「俺、自信が無いよ」
「悠人。これでも飲めよ……」
「う、うん。ありがとう!あああーー」

 バシャン!悠人がジュースを取ろうとした時、聡太郎が飲んでいるビールのグラスに彼の手が当たった。半分ぐらい残っていたから、ビールが聡太郎の着ているTシャツに掛かってしまった。

「すみません!!」
「大丈夫だよ」

 悠人が大慌てで謝り出して、聡太郎が彼の背中をさすった。そして、聡太郎が店からタオルを借りて上半身をふき取り、気にするなと言い、さらに悠人のことを励ました。誰かもっと元気づけてあげてほしいというから、藤沢がスマホカメラを向けて悠人のことを撮ろうとすると、並川さんと聡太郎から笑いが起きた。さらに聡太郎が、悠人に、藤沢の方を向くように勧めた。

「悠人君、カメラに向かって笑って。大丈夫だよー。洗えばいいし」
「桜木さん。よかったら、使ってください」
「いいの?」
「撮影で貰ったTシャツです。一回俺が着ているんですけど……」
「大丈夫だよ。ありがとう」

 藤沢が聡太郎に持っているTシャツを渡した。そして、聡太郎が興味深そうに、Tシャツの柄を見つめた。

「変わった柄だね」
「はい。リンゴを食べている動物の柄です」
「ありがとう。助かるよ」
「貰ってきてよかったです」
「どこに動物が出ているの?」
「ここの部分だよ」

 聡太郎がTシャツを広げて見せてくれたけれど、動物は見当たらないと思った。字があるだけだ。すると、聡太郎が字を指でたどり、ここの部分に動物がいるのだと教えてくれて、やっと分かった。まるでトリックアートだ。それを口にするとみんなから笑いが起きた。そして、聡太郎がTシャツに着替えるために洗面所に行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

悠と榎本

暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか そいつの事を 無意識に探してしまう 見ているだけで 良かったものの 2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

純白のレゾン

雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》 この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。 親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...