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6階でエレベーターを降り、店に入った。通されたのは個室だ。あちこちから賑やかな声が上がっている。今日集まったメンバーは、ドラムの並川さんと、ベースの悠人、ギターの聡太郎と藤沢。俺との五人だ。全員が集まれてよかった。藤沢は聡太郎とは顔見知りだ。彼と俺以外のメンバーとは初めて会う。でも、すぐに打ち解けられていた。開明高校に入学した時は人見知りするタイプだと言っていたけれど、今は違うと思う。藤沢のことを見て憧れた。
「藤沢、すごいなあ」
「現場で初めて会った人と仕事をすることが多いからだよ。自然に慣れたよ。夏樹。カメラテストを受けるんだって?」
「うん。記念写真のつもりで撮って貰うよ」
「それがいい」
今日決まったことは、バンドの練習日と時間だ。週一回のペースで、池袋のスタジオで練習する。そして、コンテストに出場することも聞いて驚いた。まだ結成したばかりだし、そもそも演奏すらしていないからだ。しかも、出場することは、もう決まっているそうだ。その理由を並川さんが教えてくれた。
「実はね。俺と桜木君が入っていたバンドで出場することが決まっていたんだけど、その後で解散したんだ。新しいバンドで出ることができるか来てみたら、OKが出たよ。出場をやめることもできるよ。よかったら出ないか?」
「わあ。緊張するなあ」
「悠人君はコンテスト経験者だったね」
「はい。今度出るコンテストって……。トライコンテストですか?マジカルコンテストかもって思っていたんですけど」
「ミライ・アマチュアバンドコンテストだよ……」
「ええ?な、並川さん……っ。いきなりは難しいですーーー」
「悠人君。出ようよ」
「で、でも……」
悠人から聞いたのは、そのコンテストが有名で、全国から上手なグループばかりが出るということだ。悠人が座ったままで後ずさりをして、言葉を失った。そっと彼の背中をさすってやると、ぼんやりと俺の方を見た。
「俺、自信が無いよ」
「悠人。これでも飲めよ……」
「う、うん。ありがとう!あああーー」
バシャン!悠人がジュースを取ろうとした時、聡太郎が飲んでいるビールのグラスに彼の手が当たった。半分ぐらい残っていたから、ビールが聡太郎の着ているTシャツに掛かってしまった。
「すみません!!」
「大丈夫だよ」
悠人が大慌てで謝り出して、聡太郎が彼の背中をさすった。そして、聡太郎が店からタオルを借りて上半身をふき取り、気にするなと言い、さらに悠人のことを励ました。誰かもっと元気づけてあげてほしいというから、藤沢がスマホカメラを向けて悠人のことを撮ろうとすると、並川さんと聡太郎から笑いが起きた。さらに聡太郎が、悠人に、藤沢の方を向くように勧めた。
「悠人君、カメラに向かって笑って。大丈夫だよー。洗えばいいし」
「桜木さん。よかったら、使ってください」
「いいの?」
「撮影で貰ったTシャツです。一回俺が着ているんですけど……」
「大丈夫だよ。ありがとう」
藤沢が聡太郎に持っているTシャツを渡した。そして、聡太郎が興味深そうに、Tシャツの柄を見つめた。
「変わった柄だね」
「はい。リンゴを食べている動物の柄です」
「ありがとう。助かるよ」
「貰ってきてよかったです」
「どこに動物が出ているの?」
「ここの部分だよ」
聡太郎がTシャツを広げて見せてくれたけれど、動物は見当たらないと思った。字があるだけだ。すると、聡太郎が字を指でたどり、ここの部分に動物がいるのだと教えてくれて、やっと分かった。まるでトリックアートだ。それを口にするとみんなから笑いが起きた。そして、聡太郎がTシャツに着替えるために洗面所に行った。
「藤沢、すごいなあ」
「現場で初めて会った人と仕事をすることが多いからだよ。自然に慣れたよ。夏樹。カメラテストを受けるんだって?」
「うん。記念写真のつもりで撮って貰うよ」
「それがいい」
今日決まったことは、バンドの練習日と時間だ。週一回のペースで、池袋のスタジオで練習する。そして、コンテストに出場することも聞いて驚いた。まだ結成したばかりだし、そもそも演奏すらしていないからだ。しかも、出場することは、もう決まっているそうだ。その理由を並川さんが教えてくれた。
「実はね。俺と桜木君が入っていたバンドで出場することが決まっていたんだけど、その後で解散したんだ。新しいバンドで出ることができるか来てみたら、OKが出たよ。出場をやめることもできるよ。よかったら出ないか?」
「わあ。緊張するなあ」
「悠人君はコンテスト経験者だったね」
「はい。今度出るコンテストって……。トライコンテストですか?マジカルコンテストかもって思っていたんですけど」
「ミライ・アマチュアバンドコンテストだよ……」
「ええ?な、並川さん……っ。いきなりは難しいですーーー」
「悠人君。出ようよ」
「で、でも……」
悠人から聞いたのは、そのコンテストが有名で、全国から上手なグループばかりが出るということだ。悠人が座ったままで後ずさりをして、言葉を失った。そっと彼の背中をさすってやると、ぼんやりと俺の方を見た。
「俺、自信が無いよ」
「悠人。これでも飲めよ……」
「う、うん。ありがとう!あああーー」
バシャン!悠人がジュースを取ろうとした時、聡太郎が飲んでいるビールのグラスに彼の手が当たった。半分ぐらい残っていたから、ビールが聡太郎の着ているTシャツに掛かってしまった。
「すみません!!」
「大丈夫だよ」
悠人が大慌てで謝り出して、聡太郎が彼の背中をさすった。そして、聡太郎が店からタオルを借りて上半身をふき取り、気にするなと言い、さらに悠人のことを励ました。誰かもっと元気づけてあげてほしいというから、藤沢がスマホカメラを向けて悠人のことを撮ろうとすると、並川さんと聡太郎から笑いが起きた。さらに聡太郎が、悠人に、藤沢の方を向くように勧めた。
「悠人君、カメラに向かって笑って。大丈夫だよー。洗えばいいし」
「桜木さん。よかったら、使ってください」
「いいの?」
「撮影で貰ったTシャツです。一回俺が着ているんですけど……」
「大丈夫だよ。ありがとう」
藤沢が聡太郎に持っているTシャツを渡した。そして、聡太郎が興味深そうに、Tシャツの柄を見つめた。
「変わった柄だね」
「はい。リンゴを食べている動物の柄です」
「ありがとう。助かるよ」
「貰ってきてよかったです」
「どこに動物が出ているの?」
「ここの部分だよ」
聡太郎がTシャツを広げて見せてくれたけれど、動物は見当たらないと思った。字があるだけだ。すると、聡太郎が字を指でたどり、ここの部分に動物がいるのだと教えてくれて、やっと分かった。まるでトリックアートだ。それを口にするとみんなから笑いが起きた。そして、聡太郎がTシャツに着替えるために洗面所に行った。
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