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14-4(黒崎視点)
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19時半。
営業企画部内の歓迎会に参加している。新入社員と異動者のためのものだ。前の営業企画部長の送別会は、3月中旬に開いたと聞いた。
俺が座っている席の左右には、課長クラスの社員が座っている。斜め目には話し上手な男女の社員がいる。この席を円滑に行うためだ。司会者が開会の挨拶をした。この次に代表挨拶をする。
「……これより、株式会社黒崎製菓営業企画部の歓迎会を行ないます。まず初めに、黒崎常務より、ご挨拶をいただきます」
司会者から紹介された後、立ち上がり、マイクを手に取った。
「……ご指名に預かりました。黒崎と申します。初日より『せっかち常務』との、ニックネームをつけてくださって、ありがとうございます。また『さっさと用件を告げて、回れ右』という、心温まる人物像を流して頂いたことも、光栄です」
会場から拍手が起こり、軽く会釈をした後、今夜の歓迎会に協力して貰いたい社員を選んだ。今回は枝川を選んだ。状況を飲み込んだ彼が、大げさなリアクションを取った。俺に何の用ですかという言葉付きだ。そのパフォーマンスに笑いが起こり、会場内が沸いた。
挨拶が終わり、くだけた空気に包まれた会場内を確認しつつ、営業企画部の役職者との話を始めた。課長やチーフを含むグループだ。斜め向かいの枝川を見ると、上手く話を回すことが出来ていると思った。枝川が、プライベートの話題を持ち出してきた。その流れで、家族の写真を見せ合うことになった。向かいに座っている社員から夏樹の話題が出た。
「黒崎常務のパートナーさんは、どんな方ですか?」
「この子だよ」
彼女にスマホの画面を見せた。家庭菜園のプチトマトをバッグに写している夏樹の写真だ。そして、アンを抱いている写真と、ビデオ通話の映像を俺が編集したものを見せた。
「わあ。綺麗な子……」
「ほう……」
「可愛いでしょう?我儘を聞いてやりたくなります」
「常務が笑っている時って、パートナーさんのことを考えている時ですか?」
「そのとおりだよ」
指摘の通りだと認めると、この場にいる者から一斉に笑いが起きた。そして、さらに写真を見せた。夏樹と聡太郎が写っているものだ。
「夏樹の兄のパートナーだ。枝川も知っているだろう?」
「あ……っ」
枝川が写真を見て目を丸くさせた。そして、また俺に何か言われると思ったのか、落ち着きをなくた。このリアクションが欲しかった。この場にいる者達が、枝川にどうしたのかと言い出した。その答えを、枝川の同期の浜村が言った。
「枝川の好きな相手ですよー」
「そうだったんですねーー」
「恋人がいても、諦めきれないんだよな?」
「あ、ああ。もういいだろーー」
「枝川。また何かあったのか?」
「じ、常務……」
枝川の動揺ぶりは違和感があった。その理由を浜村から聞かされた。昨日、聡太郎のバイト先へ会いに行き、伊吹と鉢合わせをしたとのことだった。そして、もうデートには誘わないと聡太郎に伝えるはずが、また誘いに来たのだと伊吹に誤解されてしまったという話だ。俺はそれを聞いて吹き出して笑いかけて、やめた。俺も同じ事が起きるかも知れないと思ったからだ。
(こうやって、夏樹のことを好きになる相手が出てくるはずだ。気が抜けない……)
頭の中には夏樹の姿が浮かんだ。そろそろ向こうも、お開きになる頃だ。俺も帰ろうと思う。二次会への参加は遠慮した方がいいだろう。
歓迎会の締めの挨拶の後、二次会へ行く者、帰宅する者に別れた。ほろ酔いの課長と挨拶を交わした後、早瀬の方を向くと、微笑みかけられた。そして、タクシーの手配はしませんよと言われた。当初の予定より早く、来週月曜から早瀬は秘書ではなくなることになった。マーケティング推進室の室長になる。
「これから夏樹の迎えに行く」
「常務。お気を付けて」
「ああ……」
今日の店は、夏樹がいる店から近い。迎えに行くことができそうだ。さっそく夏樹に電話をかけた。
営業企画部内の歓迎会に参加している。新入社員と異動者のためのものだ。前の営業企画部長の送別会は、3月中旬に開いたと聞いた。
俺が座っている席の左右には、課長クラスの社員が座っている。斜め目には話し上手な男女の社員がいる。この席を円滑に行うためだ。司会者が開会の挨拶をした。この次に代表挨拶をする。
「……これより、株式会社黒崎製菓営業企画部の歓迎会を行ないます。まず初めに、黒崎常務より、ご挨拶をいただきます」
司会者から紹介された後、立ち上がり、マイクを手に取った。
「……ご指名に預かりました。黒崎と申します。初日より『せっかち常務』との、ニックネームをつけてくださって、ありがとうございます。また『さっさと用件を告げて、回れ右』という、心温まる人物像を流して頂いたことも、光栄です」
会場から拍手が起こり、軽く会釈をした後、今夜の歓迎会に協力して貰いたい社員を選んだ。今回は枝川を選んだ。状況を飲み込んだ彼が、大げさなリアクションを取った。俺に何の用ですかという言葉付きだ。そのパフォーマンスに笑いが起こり、会場内が沸いた。
挨拶が終わり、くだけた空気に包まれた会場内を確認しつつ、営業企画部の役職者との話を始めた。課長やチーフを含むグループだ。斜め向かいの枝川を見ると、上手く話を回すことが出来ていると思った。枝川が、プライベートの話題を持ち出してきた。その流れで、家族の写真を見せ合うことになった。向かいに座っている社員から夏樹の話題が出た。
「黒崎常務のパートナーさんは、どんな方ですか?」
「この子だよ」
彼女にスマホの画面を見せた。家庭菜園のプチトマトをバッグに写している夏樹の写真だ。そして、アンを抱いている写真と、ビデオ通話の映像を俺が編集したものを見せた。
「わあ。綺麗な子……」
「ほう……」
「可愛いでしょう?我儘を聞いてやりたくなります」
「常務が笑っている時って、パートナーさんのことを考えている時ですか?」
「そのとおりだよ」
指摘の通りだと認めると、この場にいる者から一斉に笑いが起きた。そして、さらに写真を見せた。夏樹と聡太郎が写っているものだ。
「夏樹の兄のパートナーだ。枝川も知っているだろう?」
「あ……っ」
枝川が写真を見て目を丸くさせた。そして、また俺に何か言われると思ったのか、落ち着きをなくた。このリアクションが欲しかった。この場にいる者達が、枝川にどうしたのかと言い出した。その答えを、枝川の同期の浜村が言った。
「枝川の好きな相手ですよー」
「そうだったんですねーー」
「恋人がいても、諦めきれないんだよな?」
「あ、ああ。もういいだろーー」
「枝川。また何かあったのか?」
「じ、常務……」
枝川の動揺ぶりは違和感があった。その理由を浜村から聞かされた。昨日、聡太郎のバイト先へ会いに行き、伊吹と鉢合わせをしたとのことだった。そして、もうデートには誘わないと聡太郎に伝えるはずが、また誘いに来たのだと伊吹に誤解されてしまったという話だ。俺はそれを聞いて吹き出して笑いかけて、やめた。俺も同じ事が起きるかも知れないと思ったからだ。
(こうやって、夏樹のことを好きになる相手が出てくるはずだ。気が抜けない……)
頭の中には夏樹の姿が浮かんだ。そろそろ向こうも、お開きになる頃だ。俺も帰ろうと思う。二次会への参加は遠慮した方がいいだろう。
歓迎会の締めの挨拶の後、二次会へ行く者、帰宅する者に別れた。ほろ酔いの課長と挨拶を交わした後、早瀬の方を向くと、微笑みかけられた。そして、タクシーの手配はしませんよと言われた。当初の予定より早く、来週月曜から早瀬は秘書ではなくなることになった。マーケティング推進室の室長になる。
「これから夏樹の迎えに行く」
「常務。お気を付けて」
「ああ……」
今日の店は、夏樹がいる店から近い。迎えに行くことができそうだ。さっそく夏樹に電話をかけた。
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