アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
100 / 283

14-4(黒崎視点)

しおりを挟む
 19時半。

 営業企画部内の歓迎会に参加している。新入社員と異動者のためのものだ。前の営業企画部長の送別会は、3月中旬に開いたと聞いた。

 俺が座っている席の左右には、課長クラスの社員が座っている。斜め目には話し上手な男女の社員がいる。この席を円滑に行うためだ。司会者が開会の挨拶をした。この次に代表挨拶をする。

「……これより、株式会社黒崎製菓営業企画部の歓迎会を行ないます。まず初めに、黒崎常務より、ご挨拶をいただきます」

 司会者から紹介された後、立ち上がり、マイクを手に取った。

「……ご指名に預かりました。黒崎と申します。初日より『せっかち常務』との、ニックネームをつけてくださって、ありがとうございます。また『さっさと用件を告げて、回れ右』という、心温まる人物像を流して頂いたことも、光栄です」

 会場から拍手が起こり、軽く会釈をした後、今夜の歓迎会に協力して貰いたい社員を選んだ。今回は枝川を選んだ。状況を飲み込んだ彼が、大げさなリアクションを取った。俺に何の用ですかという言葉付きだ。そのパフォーマンスに笑いが起こり、会場内が沸いた。

 挨拶が終わり、くだけた空気に包まれた会場内を確認しつつ、営業企画部の役職者との話を始めた。課長やチーフを含むグループだ。斜め向かいの枝川を見ると、上手く話を回すことが出来ていると思った。枝川が、プライベートの話題を持ち出してきた。その流れで、家族の写真を見せ合うことになった。向かいに座っている社員から夏樹の話題が出た。

「黒崎常務のパートナーさんは、どんな方ですか?」
「この子だよ」

 彼女にスマホの画面を見せた。家庭菜園のプチトマトをバッグに写している夏樹の写真だ。そして、アンを抱いている写真と、ビデオ通話の映像を俺が編集したものを見せた。

「わあ。綺麗な子……」
「ほう……」
「可愛いでしょう?我儘を聞いてやりたくなります」
「常務が笑っている時って、パートナーさんのことを考えている時ですか?」
「そのとおりだよ」

 指摘の通りだと認めると、この場にいる者から一斉に笑いが起きた。そして、さらに写真を見せた。夏樹と聡太郎が写っているものだ。

「夏樹の兄のパートナーだ。枝川も知っているだろう?」
「あ……っ」

 枝川が写真を見て目を丸くさせた。そして、また俺に何か言われると思ったのか、落ち着きをなくた。このリアクションが欲しかった。この場にいる者達が、枝川にどうしたのかと言い出した。その答えを、枝川の同期の浜村が言った。

「枝川の好きな相手ですよー」
「そうだったんですねーー」
「恋人がいても、諦めきれないんだよな?」
「あ、ああ。もういいだろーー」
「枝川。また何かあったのか?」
「じ、常務……」

 枝川の動揺ぶりは違和感があった。その理由を浜村から聞かされた。昨日、聡太郎のバイト先へ会いに行き、伊吹と鉢合わせをしたとのことだった。そして、もうデートには誘わないと聡太郎に伝えるはずが、また誘いに来たのだと伊吹に誤解されてしまったという話だ。俺はそれを聞いて吹き出して笑いかけて、やめた。俺も同じ事が起きるかも知れないと思ったからだ。

(こうやって、夏樹のことを好きになる相手が出てくるはずだ。気が抜けない……)

 頭の中には夏樹の姿が浮かんだ。そろそろ向こうも、お開きになる頃だ。俺も帰ろうと思う。二次会への参加は遠慮した方がいいだろう。

 歓迎会の締めの挨拶の後、二次会へ行く者、帰宅する者に別れた。ほろ酔いの課長と挨拶を交わした後、早瀬の方を向くと、微笑みかけられた。そして、タクシーの手配はしませんよと言われた。当初の予定より早く、来週月曜から早瀬は秘書ではなくなることになった。マーケティング推進室の室長になる。

「これから夏樹の迎えに行く」
「常務。お気を付けて」
「ああ……」

 今日の店は、夏樹がいる店から近い。迎えに行くことができそうだ。さっそく夏樹に電話をかけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

悠と榎本

暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか そいつの事を 無意識に探してしまう 見ているだけで 良かったものの 2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・

とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~

冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。 「道路やばくない? 整備しよ」 「孤児院とか作ったら?」 「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」 貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。 不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。 孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。 元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち―― 濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。 気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。 R8.1.20 投稿開始

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

純白のレゾン

雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》 この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。 親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...