アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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14-5(夏樹視点)

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 21時半。

 店から出たところだ。藤沢と二人で立ち話した。これから俺達はタクシーに乗って帰る。藤沢が住んでいるマンションは、俺達の家から近い場所にある。途中まで一緒に乗っていこうという話になった。

「俺が住んでいるマンションは、うちの父が持っているんだ。前に、父の恋人が住んでいたんだよ。住みたくなかったけれど、家賃が勿体ないし。早く自立するために我慢するよ」
「そうだったのか。薫子ちゃんを呼ぶんだよね?」
「うん。こっちの大学を受験させるよ。実家は心配だから。俺が居ないと心配だよ」

 藤沢は両親のことを嫌っている。彼がモデルの仕事をしているのは、自立のためだ。そして、妹の薫子のことを守るためだ。不在しがちな両親の代わりに、藤沢が薫子の食事を作っていた。仲の良い兄妹だ。彼が都内に来た後、ちゃんと食べているのか心配になっているそうだ。藤沢は大学入学を期に、活動の幅を広げると言っている。俺が誘われている事務所は、彼も所属している。話を聞けて良かったと思っている。

「カメラテストは入学式後だったね。見に行くよ」
「ありがとう。いい経験にするよ」
「乗り気じゃないね。それはそうか。黒崎さんに褒めてもらうといいよ。ああ、電話が鳴っているよ?」
「ああ、黒崎さんからだ……」

 慌ててスマホを取り出した。人が多くて騒がしいから、着信音に気がつかないところだった。

「お疲れさまーー」
(店の中にいるのか?)
「お店の前だよ。これからタクシーを呼ぶよ」
(迎えに行く。そこで待て)
「うん……」

 黒崎の方も歓迎会が終わったようだ。黒崎が迎えが来るまでの短い時間で、藤沢に、これから先のことを話した。モデル、バンド、大学のことを。藤沢からは、引っかかっていることは黒崎に話すべきだと、アドバイスされた。自分としては泣き言になるから、なるべくなら言いたくない。

「夏樹。黒崎さんが寂しがるよ。話してあげなよ」
「そうなんだけどさ。大学で苛められたって報告するみたいでかっこ悪いよ」
「そう言わずにさ。みんな、誰かに話していると思うよ。ほら、ここを通っている人に聞いてみようか。パートナーにも話すべきだって、言われると思うよ」
「そうだね」

 俺たちの前を、沢山の人が行き交っている。通り過ぎて行く車、仕事帰りの人、酔っ払った人。花束を持ってタクシーに乗り込む人、駅へ向かう人。この中には自分と同じ悩みを抱えている人が居ると思うよと、藤沢が言った。そして、悩みを打ち明ける人がいるからよかったと言われた。その通りだと思う。

 するとその時だ。俺達の前に、タクシーが停まった。黒崎が乗っていた。
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