101 / 283
14-5(夏樹視点)
しおりを挟む
21時半。
店から出たところだ。藤沢と二人で立ち話した。これから俺達はタクシーに乗って帰る。藤沢が住んでいるマンションは、俺達の家から近い場所にある。途中まで一緒に乗っていこうという話になった。
「俺が住んでいるマンションは、うちの父が持っているんだ。前に、父の恋人が住んでいたんだよ。住みたくなかったけれど、家賃が勿体ないし。早く自立するために我慢するよ」
「そうだったのか。薫子ちゃんを呼ぶんだよね?」
「うん。こっちの大学を受験させるよ。実家は心配だから。俺が居ないと心配だよ」
藤沢は両親のことを嫌っている。彼がモデルの仕事をしているのは、自立のためだ。そして、妹の薫子のことを守るためだ。不在しがちな両親の代わりに、藤沢が薫子の食事を作っていた。仲の良い兄妹だ。彼が都内に来た後、ちゃんと食べているのか心配になっているそうだ。藤沢は大学入学を期に、活動の幅を広げると言っている。俺が誘われている事務所は、彼も所属している。話を聞けて良かったと思っている。
「カメラテストは入学式後だったね。見に行くよ」
「ありがとう。いい経験にするよ」
「乗り気じゃないね。それはそうか。黒崎さんに褒めてもらうといいよ。ああ、電話が鳴っているよ?」
「ああ、黒崎さんからだ……」
慌ててスマホを取り出した。人が多くて騒がしいから、着信音に気がつかないところだった。
「お疲れさまーー」
(店の中にいるのか?)
「お店の前だよ。これからタクシーを呼ぶよ」
(迎えに行く。そこで待て)
「うん……」
黒崎の方も歓迎会が終わったようだ。黒崎が迎えが来るまでの短い時間で、藤沢に、これから先のことを話した。モデル、バンド、大学のことを。藤沢からは、引っかかっていることは黒崎に話すべきだと、アドバイスされた。自分としては泣き言になるから、なるべくなら言いたくない。
「夏樹。黒崎さんが寂しがるよ。話してあげなよ」
「そうなんだけどさ。大学で苛められたって報告するみたいでかっこ悪いよ」
「そう言わずにさ。みんな、誰かに話していると思うよ。ほら、ここを通っている人に聞いてみようか。パートナーにも話すべきだって、言われると思うよ」
「そうだね」
俺たちの前を、沢山の人が行き交っている。通り過ぎて行く車、仕事帰りの人、酔っ払った人。花束を持ってタクシーに乗り込む人、駅へ向かう人。この中には自分と同じ悩みを抱えている人が居ると思うよと、藤沢が言った。そして、悩みを打ち明ける人がいるからよかったと言われた。その通りだと思う。
するとその時だ。俺達の前に、タクシーが停まった。黒崎が乗っていた。
店から出たところだ。藤沢と二人で立ち話した。これから俺達はタクシーに乗って帰る。藤沢が住んでいるマンションは、俺達の家から近い場所にある。途中まで一緒に乗っていこうという話になった。
「俺が住んでいるマンションは、うちの父が持っているんだ。前に、父の恋人が住んでいたんだよ。住みたくなかったけれど、家賃が勿体ないし。早く自立するために我慢するよ」
「そうだったのか。薫子ちゃんを呼ぶんだよね?」
「うん。こっちの大学を受験させるよ。実家は心配だから。俺が居ないと心配だよ」
藤沢は両親のことを嫌っている。彼がモデルの仕事をしているのは、自立のためだ。そして、妹の薫子のことを守るためだ。不在しがちな両親の代わりに、藤沢が薫子の食事を作っていた。仲の良い兄妹だ。彼が都内に来た後、ちゃんと食べているのか心配になっているそうだ。藤沢は大学入学を期に、活動の幅を広げると言っている。俺が誘われている事務所は、彼も所属している。話を聞けて良かったと思っている。
「カメラテストは入学式後だったね。見に行くよ」
「ありがとう。いい経験にするよ」
「乗り気じゃないね。それはそうか。黒崎さんに褒めてもらうといいよ。ああ、電話が鳴っているよ?」
「ああ、黒崎さんからだ……」
慌ててスマホを取り出した。人が多くて騒がしいから、着信音に気がつかないところだった。
「お疲れさまーー」
(店の中にいるのか?)
「お店の前だよ。これからタクシーを呼ぶよ」
(迎えに行く。そこで待て)
「うん……」
黒崎の方も歓迎会が終わったようだ。黒崎が迎えが来るまでの短い時間で、藤沢に、これから先のことを話した。モデル、バンド、大学のことを。藤沢からは、引っかかっていることは黒崎に話すべきだと、アドバイスされた。自分としては泣き言になるから、なるべくなら言いたくない。
「夏樹。黒崎さんが寂しがるよ。話してあげなよ」
「そうなんだけどさ。大学で苛められたって報告するみたいでかっこ悪いよ」
「そう言わずにさ。みんな、誰かに話していると思うよ。ほら、ここを通っている人に聞いてみようか。パートナーにも話すべきだって、言われると思うよ」
「そうだね」
俺たちの前を、沢山の人が行き交っている。通り過ぎて行く車、仕事帰りの人、酔っ払った人。花束を持ってタクシーに乗り込む人、駅へ向かう人。この中には自分と同じ悩みを抱えている人が居ると思うよと、藤沢が言った。そして、悩みを打ち明ける人がいるからよかったと言われた。その通りだと思う。
するとその時だ。俺達の前に、タクシーが停まった。黒崎が乗っていた。
0
あなたにおすすめの小説
嘘つき王と影の騎士
篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」
国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。
酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。
そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。
代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。
死を待つためだけに辿り着いた冬の山。
絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。
守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。
無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。
なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。
これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
悠と榎本
暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか
そいつの事を 無意識に探してしまう
見ているだけで 良かったものの
2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる