アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
102 / 283

14-6

しおりを挟む
 黒崎と藤沢が短い会話をした後、タクシーのドアが静かに閉まり、静かに発進した。藤沢は俺達に遠慮して、一緒に乗っていかなかった。

 タクシーに乗った後、黒崎に、バンドのこと、モデル事務所のこと、店の中で出た話題を話した。普通に話していたつもりなのに、黒崎が何かを感じ取ったのか、頭を抱き寄せられた。その瞬間、黒崎の匂いが鼻をくすぐり、ホッとして、彼の肩に額を寄せた。

 この間の北添達の話をまだしていない。このまま黙っていようかと思いながらも、相談しようかとも思っている。俺が言葉に詰まっていると、黒崎から見つめられた。

「大学で何かあったんだな?」
「何もないよ」
「嘘つけ。大したことがなくても話せ」

 いつもなら偉そうに言うのに、今の声は優しいものだった。ゆっくりと頭を撫でられていくうちに、ザワついていた気持ちが落ち着いていった。それでも言えない。甘えだ。黒崎は、もっと大変なはずだ。こんなことで、足を引っ張るわけにはいかない。

「こら。肝心なことを話さないのは、悪い癖だ。大したことがないと判断するのも、自己完結の悪い癖だぞ」
「あ……」
「パートナーだ。何でも話せ。これでも15年長く生きている。アドバイスは出来るぞ?」
「うん……っ」

 情けないことに、涙が出てしまった。どう見られようと平気だったのに、人目を気にしていることと、パートナーとして気が張っていることの、全部を正直に話した。

「パートナーには話しづらいのか。そうだ。こうしよう。話し終わるまでは、俺はパートナーじゃない。兄貴だと思え。遠慮はいらない」
「うん。あのね……」

 話している間、黒崎は静かに相づちを打ってくれた。さっきのように頭は撫でられなかった。だから、今回のことを甘えだと思わずに、話すことが出来た。話を聞いてくれている人は、15歳年上の黒崎だ。俺よりもたくさんの経験をしている。話して良かったと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

悠と榎本

暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか そいつの事を 無意識に探してしまう 見ているだけで 良かったものの 2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

純白のレゾン

雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》 この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。 親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...