アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 黒崎に全てを話し終えた時には、タクシーが停車していた。到着した場所はマンションではなく、レインボーブリッジが目の前にあった。俺に見せたかったと黒崎が言った。そして、近くの公園でタクシーを降り、歩いた。

「ここから眺めると橋の下になる。下からの眺めもいいだろう?」
「うん……」

 手を引かれて公園内を歩き進むと、橋の真下からの風景が広がっていた。そして、端の方まで歩いて行くと、大きな橋が頭の上にあった。対岸には、お台場が見えている。橋の下を屋形船も通っていた。

「レインボーブリッジには遊歩道がある。30分ぐらいの散歩が出来るぞ。この時間は営業終了だ。今月中に来よう。クルーズ船も体験してみないか?美味しいスイーツもあるぞ」
「黒崎さん……」
「こっちにおいで」
「うん……」

 すっぽりと腕の中に入った。今からはパートナーだと言われた。黒崎の肩に額を預けると、耳元で低い声が響いた。

「ありがとう。お前が頑張っているのは分かっている。そうやって、不安に思っていることが嬉しかった。俺のことを、真剣に考えてくれているということだ。半泣きでな。……さっき話した内容は、俺のことを思ってのことだった。今までのお前なら『うるさい』と言って、蹴飛ばしていたはずだ。……今は出来ない。それは、俺がいるからだ。こんなに嬉しいことを、打ち明けてもらえた。我儘を聞いてやる。ひとつだけだ」
「黒崎さん……」

 黒崎の名前を呼ぶだけで、精一杯だ。彼の体に、ぎゅっとしがみついた。

「早く言わないと、気が変わるぞ?シンデレラの魔法は22時で解ける」
「え……、今は……」
「21時53分だ。早くしろ」
「せっかちだよ~っ」

 思わず文句を言い返すと、黒崎が目を見張った後で、大笑いをした。どうしてそこまで可笑しいのか分からずにいると、ネタ晴らしをされた。会社で付けられたあだ名が、せっかち常務だという話だった。それを聞いた途端に、こっちも笑いが込み上げてきた。

「せっかち常務……?」
「まだあるぞ。俺の人物像だ。『さっさと用件を告げて、回れ右すべし』だ」
「はははー」

 黒崎の言い方まで面白い。陰口のようなものに受け取れるのに、今夜の歓迎会で逆手に取ってしまったようだ。おかげで笑いが起こったそうだ。黒崎のことを、さすがだと思った。

「思い切り派手な格好で行ってみろ。目立つコーディネートを用意してやる」
「うんっ。クルクル回ってよー。周りに人がいるけどさ」
「……」
「いいじゃん」
「はいはい……。しっかり掴まれ」
「うんっ」

 黒崎にしがみついた。そして、ふわっと体が軽くなり、クルクルと回転し始めた。

 レインボーブリッジが輝いている。対岸のお台場の夜景と、巨大観覧車のライトアップが綺麗だ。そして、この場所全体が、メリーゴーランドのようだ。魔法使いの魔法が解ける時間まで、クルクルと回ってもらった。
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