アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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14-8(黒崎視点)

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 23時。

 マンションに帰宅した。夏樹のことを少し休ませた後、クローゼットから服を運んできた。大学で着るためのものだ。初日から目立っていたようだから、もっと地味に見える服がいいと夏樹が言った。ではどんな服が良いのか考えるために、クローゼットの中から選んでコーディネートして、試着させている。夏樹の可愛さが増して満足しているが、本人は首を縦に振らない。どれも目立つようだと言っている。

「これはどうだ?」
「うーん。カッコいいけどなあ。グッとくるものがないよ。これよりもさ……」
「そうか。どれがいい?」
「このシャツは?」
「これにしろ」

 柔らかい色合いのシャツに、ジャケットを組み合わせて差し出した。夏樹が首を傾げて考え事をした後、パッと表情を明るくさせた。そして、部屋へ走って行こうとした。

「どうしたんだ?」
「いい物があるんだよ。待っていてよ」
「そうか……」

 一体どんなことを思いついたのだろう。夏樹は服装に頓着していないし、興味すら持っていない。そのおかげで、ウサギ模様の部屋着や、スリッパを使えてもらえている。これをきっかけにして、自分の意見を言うようになると、俺がさせたい格好をしてもらえなくなるかもしれない。しかし、それでもいいかと思った。

 しばらくして、スリッパの音が近づいた。視線を向けた瞬間、吹き出した。夏樹がモデルのようにポーズを決めて、得意満面の顔をしている。彼が着ているのは、沙耶からプレゼントされた、虎の顔がプリントされたTシャツだ。そして、さらに持って来た服を広げた。

「これだよ~。カッコイイよね?」
「ああ……」
「この間、あんたと行った浅草で買ったパーカーだよ。『商売繫盛』てプリントされているんだ。これなら目立つし、カッコいいよね?」
「ああ……」
「浅草&大阪ミックスカジュアルだよ~」
「ああ、良い名前だ……」

 正直、俺としては選ばない格好だが、それは言わないでおこうと思った。この服装で大学へ行けば目立つだろう。やはり、地味にするより良いのかも知れない。今抱えている悩みが解消されるだろう。そして、中山伊吹の弟だと、もっと広まれば効果的だ。

「似合い過ぎて言葉が出なかった」
「そうだったんだ?また気に入らないかと思っていたよ~」
「いや、驚いただけだ。斬新なコーディネートだ。……こうしないか?大学以外は、俺が選んだものを着るというのは」
「うん、そうするよ。あんたが喜ぶ顔も見たいし。んん、黒崎さん?」
「……可愛い。抱いてもいいのか?」
「はっきり言うなよ~。……可愛いって?そ、そう。ふうん。早めに寝ようね」
「ああ。なるべくそうする」
「ふうん?あ、そう……。これを置いて来るよー」

 夏樹が機嫌よく鼻歌を歌い始めた。彼のことを上手に導いていこうと思った。たくさん笑ってもらうために。
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