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午前10時。
聖加世病院の中にいる。心電図の検査を受けた後、循環器内科の待合のソファーで診察を待っているところだ。沢山の患者さんの姿がみえるけれど、落ち着いた雰囲気のフロアだ。
雑誌を読み終わり、マガジンラックへ戻しに行った。そこには、経済係の雑誌のバックナンバーが置かれていた。半年前の号を手にして、見覚えのある表紙に、こっそり笑った。黒崎に気づかれないようにしようと思った。彼は今、電話をするために外に行っている。
「……黒崎ホールディングス。黒崎製菓とのタッグ。スペシャル・インタビュー。黒崎圭一・黒崎ホールディングス代表取締役社長……、うへへ」
黒崎が出た雑誌だ。本屋で買おうとしたら止められたから、こっそり電子書籍で買った。すでに読んでいるが、紙媒体でも味わいたいと思っていた。インタビューページの中には、黒崎の写真が載っていた。黒崎社長の姿としてだ。
「かっこいいな……。ええ?」
ボソッと呟くと、雑誌が目の前から消えてしまった。眉間に皺を寄せた黒崎が、雑誌を手にして立っている。いつのまにいたのだろう。全く気づかなかった。時々気配を消す時がある。
「こら、読むな」
「照れるなよ~」
「うるさい」
「かっこいいじゃん~」
「いくらでも見ているだろう。ここにもいる」
「仕事中の黒崎さんは別人だよ~」
追いすがっても無駄だった。さっさと雑誌を片づけられてしまった。
「いいじゃん……」
「だめだ……」
「中山夏樹さーーん」
「はーーい」
コソコソと言い合いをしていると、診察室から呼ばれた。黒崎も一緒に診察室へ入った。俺のことを見て、主治医の南里先生が微笑んでいた。そして、顔色がいいわねと言われた。
「入学したばかりで、落ち着かないでしょう?」
「はい。分からないことばかりで」
「甥っ子が在学しているのよ。農学部の4年生よ」
「幼馴染が農学部の院生になりました」
「世間は狭いのねえ。……息苦しくなったのは、この3回ね。引っ越した後は?睡眠中に、胸が押された感じで目が覚めたとかは?」
「ありました。えーっと」
「3月26日の深夜です。寝付いて2時間後でした」
黒崎が俺の代わりに答えて、先生がパソコンへ記録し始めた。転んだ日、咳き込んだ日、微熱が出た日、食欲が落ちた日。黒崎の中で、細かく記憶されていた。まるで保護者と小さな子供だと思い、恥ずかしくなった。
南里先生は穏やかな表情のままで記録して、俺の方へ向き直った。心臓の雑音があることと、今後の検査についての説明を受けた。
その間、黒崎の表情が硬くなっていた。心配を掛け通しだ。その気持ちが嬉しくて胸が痛んだ。それなのに、昨日した喧嘩のことまで話された。俺が怒って息苦しくなったからだ。先生はゆっくりと話を聞いてくれた。そして、診察が終わり、黒崎と二人で診察室を出た。
「お大事に」
「失礼します……」
顔が熱くて堪らない。恥ずかしかったからだ。会計を待つ間、黒崎とは目を合わさずにいる。喧嘩になりそうだからだ。
「夏樹。喧嘩の後のことは大事なことだ。息苦しくなっていただろう?」
「うん。でも……」
「ちゃんと話をしないといけない」
「ふん……」
何かを口走りそうだから、無言を貫いた。黒崎の方はクルーズ船のページを見ながら、何かを確認していた。今日のプランを立ててくれたのに、こんなことで困らせたくない。ああいう恥ずかしいことを言われたが、もう腹を立てたくない。そっと手に触れて重ねた。黒崎の口元が笑みの形になり、悔しく思いながらも胸がキュンとした。
聖加世病院の中にいる。心電図の検査を受けた後、循環器内科の待合のソファーで診察を待っているところだ。沢山の患者さんの姿がみえるけれど、落ち着いた雰囲気のフロアだ。
雑誌を読み終わり、マガジンラックへ戻しに行った。そこには、経済係の雑誌のバックナンバーが置かれていた。半年前の号を手にして、見覚えのある表紙に、こっそり笑った。黒崎に気づかれないようにしようと思った。彼は今、電話をするために外に行っている。
「……黒崎ホールディングス。黒崎製菓とのタッグ。スペシャル・インタビュー。黒崎圭一・黒崎ホールディングス代表取締役社長……、うへへ」
黒崎が出た雑誌だ。本屋で買おうとしたら止められたから、こっそり電子書籍で買った。すでに読んでいるが、紙媒体でも味わいたいと思っていた。インタビューページの中には、黒崎の写真が載っていた。黒崎社長の姿としてだ。
「かっこいいな……。ええ?」
ボソッと呟くと、雑誌が目の前から消えてしまった。眉間に皺を寄せた黒崎が、雑誌を手にして立っている。いつのまにいたのだろう。全く気づかなかった。時々気配を消す時がある。
「こら、読むな」
「照れるなよ~」
「うるさい」
「かっこいいじゃん~」
「いくらでも見ているだろう。ここにもいる」
「仕事中の黒崎さんは別人だよ~」
追いすがっても無駄だった。さっさと雑誌を片づけられてしまった。
「いいじゃん……」
「だめだ……」
「中山夏樹さーーん」
「はーーい」
コソコソと言い合いをしていると、診察室から呼ばれた。黒崎も一緒に診察室へ入った。俺のことを見て、主治医の南里先生が微笑んでいた。そして、顔色がいいわねと言われた。
「入学したばかりで、落ち着かないでしょう?」
「はい。分からないことばかりで」
「甥っ子が在学しているのよ。農学部の4年生よ」
「幼馴染が農学部の院生になりました」
「世間は狭いのねえ。……息苦しくなったのは、この3回ね。引っ越した後は?睡眠中に、胸が押された感じで目が覚めたとかは?」
「ありました。えーっと」
「3月26日の深夜です。寝付いて2時間後でした」
黒崎が俺の代わりに答えて、先生がパソコンへ記録し始めた。転んだ日、咳き込んだ日、微熱が出た日、食欲が落ちた日。黒崎の中で、細かく記憶されていた。まるで保護者と小さな子供だと思い、恥ずかしくなった。
南里先生は穏やかな表情のままで記録して、俺の方へ向き直った。心臓の雑音があることと、今後の検査についての説明を受けた。
その間、黒崎の表情が硬くなっていた。心配を掛け通しだ。その気持ちが嬉しくて胸が痛んだ。それなのに、昨日した喧嘩のことまで話された。俺が怒って息苦しくなったからだ。先生はゆっくりと話を聞いてくれた。そして、診察が終わり、黒崎と二人で診察室を出た。
「お大事に」
「失礼します……」
顔が熱くて堪らない。恥ずかしかったからだ。会計を待つ間、黒崎とは目を合わさずにいる。喧嘩になりそうだからだ。
「夏樹。喧嘩の後のことは大事なことだ。息苦しくなっていただろう?」
「うん。でも……」
「ちゃんと話をしないといけない」
「ふん……」
何かを口走りそうだから、無言を貫いた。黒崎の方はクルーズ船のページを見ながら、何かを確認していた。今日のプランを立ててくれたのに、こんなことで困らせたくない。ああいう恥ずかしいことを言われたが、もう腹を立てたくない。そっと手に触れて重ねた。黒崎の口元が笑みの形になり、悔しく思いながらも胸がキュンとした。
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