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新居に到着した。外壁には足場が組まれて、大きな窓から家の中が見えた。沢山のシートが貼りつけられている。誕生日前から工事が始まり、庭のイメージは3月終わりに作っていたそうだ。
「ありがとう。こんなにしてもらって……」
「当然のことだ。これから住み続ける家だぞ。快適にしておきたい。一階のリビングなら入れる。庭はどうだ?」
「十分だよ。生活感があるよ。全体がおとぎの国みたいだね?」
「そのイメージだ。この樹がナツツバキだ。子供の頃、絵を描きに来ていた。白い花を咲かせていた」
「もう咲いているよ?ここにあるよ~」
「そうか……」
「あ、黒崎さん。ううん。何でも無いよ」
今は何も言わないでおこう。黒崎が嬉しそうな顔をしているし、何か思い出そうとしている。その間に、家庭菜園の畑を眺めた。6畳ぐらいの広さだ。あれこれとイメージを膨らませた。
何を育てるのかは決めている。九条ねぎとミニトマトだ。黒崎の好きな酢味噌和えを作る。ミネストローネには、自家製トマトを使いたい。プランターには、大葉やバジルを植えておく。いつでも使えるように。
実家にいた時は、ここまで料理が好きではなかった。万理と2人でサンドイッチを作り、家族それぞれのランチボックスに詰めていた。面倒くさいな。そんな事も思っていたのに。
「食事は基本だね~。あんたが穏やかになったのは、栄養が取れたからかも?デートの食事だとね……」
「否定しない。苛めても構わない」
「ふん。そう言われると面白くないんだよね……」
ノスタルジックな外観を眺めた後、家の中に入った。張り替えたばかりの、壁のクロスの匂いがした。写真で見るよりも広かった。
リビングに入ると、テラスに面した暖かな空間があった。ゆったりした作りだ。大きな作りつけの家具が、あめ色に変わっている。この家に住んでいた、お義父さんの妹さんに会いたくなった。写真はないだろうか。
「妹さんには、本当に会ったことがないの?」
「ああ。この家にも来たことがない。絵を描きに来た場所からは近い。子供にとっては遠くだろう。……古い家具だが、いい物だから使える」
「懐かしい感じがするよ。マンションの家具、どうしようか?」
「持って来られるぞ。ピアノは隣の部屋に置く」
リビングのテラスから庭に降りて行くと、さっき外から見た時とは印象が変わった。落ち着いた感じに見えた。そして、畑の周りを歩いて、どんなふうにするのかを話した。その度に黒崎が相づちを打って微笑んでいる。
「黒崎さ~ん。ここに九条ネギを植えるよ。トマトも。煉瓦道にはプランターを置くんだ。バジルと大葉。パセリもほしい」
「そうか。美味しい野菜が出来るだろう」
「うん。タワーマンションは景色が綺麗だけど、こうやって土の上に立つと、安心するんだよ。あーー、蚊に刺されたよ。庭の醍醐味だね~」
「子供の頃の自分に会ってみたい。22年後には戻って来ると教えてやりたい。エデンになっていると」
「それが面白いよ。あんたのは発想が豊かだね。どこに隠していたんだよ?」
「22年前に置いて来た。開封したばかりだ。……泣くな、冗談だ」
泣くわけがない。こんなに素敵な場所へ迎えられて、家族になれるのだから。
「黒崎さーん。お義父さんを追い出すのかよ?3年後に海外へ……」
「ああ。そのつもりだ」
この嘘つき。そう呟いて抱きついた。そのつもりがないのは分かっている。こんなに嬉しそうに笑っているのだから。
さっそく庭の写真を撮り、悠人達へラインを送った。そこには、引っ越し予定は5月末だと書いた。
「ありがとう。こんなにしてもらって……」
「当然のことだ。これから住み続ける家だぞ。快適にしておきたい。一階のリビングなら入れる。庭はどうだ?」
「十分だよ。生活感があるよ。全体がおとぎの国みたいだね?」
「そのイメージだ。この樹がナツツバキだ。子供の頃、絵を描きに来ていた。白い花を咲かせていた」
「もう咲いているよ?ここにあるよ~」
「そうか……」
「あ、黒崎さん。ううん。何でも無いよ」
今は何も言わないでおこう。黒崎が嬉しそうな顔をしているし、何か思い出そうとしている。その間に、家庭菜園の畑を眺めた。6畳ぐらいの広さだ。あれこれとイメージを膨らませた。
何を育てるのかは決めている。九条ねぎとミニトマトだ。黒崎の好きな酢味噌和えを作る。ミネストローネには、自家製トマトを使いたい。プランターには、大葉やバジルを植えておく。いつでも使えるように。
実家にいた時は、ここまで料理が好きではなかった。万理と2人でサンドイッチを作り、家族それぞれのランチボックスに詰めていた。面倒くさいな。そんな事も思っていたのに。
「食事は基本だね~。あんたが穏やかになったのは、栄養が取れたからかも?デートの食事だとね……」
「否定しない。苛めても構わない」
「ふん。そう言われると面白くないんだよね……」
ノスタルジックな外観を眺めた後、家の中に入った。張り替えたばかりの、壁のクロスの匂いがした。写真で見るよりも広かった。
リビングに入ると、テラスに面した暖かな空間があった。ゆったりした作りだ。大きな作りつけの家具が、あめ色に変わっている。この家に住んでいた、お義父さんの妹さんに会いたくなった。写真はないだろうか。
「妹さんには、本当に会ったことがないの?」
「ああ。この家にも来たことがない。絵を描きに来た場所からは近い。子供にとっては遠くだろう。……古い家具だが、いい物だから使える」
「懐かしい感じがするよ。マンションの家具、どうしようか?」
「持って来られるぞ。ピアノは隣の部屋に置く」
リビングのテラスから庭に降りて行くと、さっき外から見た時とは印象が変わった。落ち着いた感じに見えた。そして、畑の周りを歩いて、どんなふうにするのかを話した。その度に黒崎が相づちを打って微笑んでいる。
「黒崎さ~ん。ここに九条ネギを植えるよ。トマトも。煉瓦道にはプランターを置くんだ。バジルと大葉。パセリもほしい」
「そうか。美味しい野菜が出来るだろう」
「うん。タワーマンションは景色が綺麗だけど、こうやって土の上に立つと、安心するんだよ。あーー、蚊に刺されたよ。庭の醍醐味だね~」
「子供の頃の自分に会ってみたい。22年後には戻って来ると教えてやりたい。エデンになっていると」
「それが面白いよ。あんたのは発想が豊かだね。どこに隠していたんだよ?」
「22年前に置いて来た。開封したばかりだ。……泣くな、冗談だ」
泣くわけがない。こんなに素敵な場所へ迎えられて、家族になれるのだから。
「黒崎さーん。お義父さんを追い出すのかよ?3年後に海外へ……」
「ああ。そのつもりだ」
この嘘つき。そう呟いて抱きついた。そのつもりがないのは分かっている。こんなに嬉しそうに笑っているのだから。
さっそく庭の写真を撮り、悠人達へラインを送った。そこには、引っ越し予定は5月末だと書いた。
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