アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 20時。

 お義父さんと黒崎が書斎で話している間、同じ2階にある図書室で2人のことを待っている。見るからに古い本や、最新刊の天文学系の本が、大きな棚に並べられている。その多さに圧倒された。この家は大昔から建っていて、お義父さんが改築して、今の洋館になった。だから、古い本が残っているそうだ。

「うーん、すごいとしか言いようがない。これは60年前の雑誌かな?……トイレに行きたくなった」

 受験の時に泊まったのは、一階の客間だった。その部屋にはトイレもお風呂もあったから歩き回っていなくて、この家の中をよく知らない。二階に上がったのも、今回が初めてだ。

 図書室を出た。階段へ向かう手前に、灯りが漏れている部屋があった。その前を通りかかると、黒崎の話し声がした。この部屋が書斎だろう。そのまま通り過ぎようとしたら、自分の名前が出たから足を止めた。立ち聞きは悪いと思いつつも、どうしても気になった。

「……法的に繋がりがない。病院へ運ばれても、家族以外には病状を伝えない場合もある。相続にも問題がある」
「……私も賛成だ。黒崎家の養子として迎えたい。夏樹ちゃんが納得すると思うか?」
「……新しい環境に慣れた後で話す。黒崎夏樹になってもらいたい。長く掛かっても説得する」
「……次は私の相談だ。二葉のことだ。こちらへ呼びたい」
「……経営に興味を持っているが、倉口家の家族がいる。俺が相談相手になる」
「……償いをしたい。夏樹ちゃんのことも育てたい。子育てという意味ではない」
「……将来のことは決めていない。大学生らしい生活をさせる」

 2人の話を聞いてしまった。決して嫌なものではない。自分のことを考えてくれているのが分かる。ただ、展開についていけなかった。俺よりも年上の2人には、沢山のものが見えているのだろう。

 それよりも、二葉のことだ。彼女は何も知らないはずだ。家族にしか分からない時間を過ごして来た。本当の事を聞かされて、何になるというのだろう。彼女はそう言いそうだと思った。将来の希望が叶うなら、サポートは良いことだろう。しかしそれには、心の問題がある。

「二葉ちゃんに話さないと、前に進まないよね。将来のことだもん。彼女が決めることだし。でも、家族がギクシャクするんじゃないかな……」

 こうして心配しても仕方のないことだ。自分のことも考えられないのに。そっとドアから離れて、階段へ向かった。

 吹き抜けになっているから、階段の踊り場から玄関が見渡せる。ふと、大きな花瓶の花が視界に入った。赤と白の花が飾られている。

「あれって、ノースウィンド・カーネーションだ。母の日が近いからかな?」

 赤い花は何だろう?近くまで行くと、カーネーションを包んでいる紙だと分かった。ふんわりしているから花に見えた。花瓶の手前の方には綺麗な結び目があり、応援されている気分になった。
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