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13時半。
理学部の図書館へやって来た。来週からの基礎演習に向けて、資料を探すためだ。入館カードはどこだったかな?と、バッグの中を探った。奥の方に入り込んでいたから、そばの机に荷物を置いた。これから帰るだけだ。入れ直さなくてもいいか。そう思いながら、入館ゲートの読み取り部にカードをタッチした。
「夏樹!」
「ん?……ノア、こんにちは~」
声を掛けられて振り向くと、ノア・バーテルスが立っていた。俺と同じ年で、半年前から留学している、バーテルスさんの従兄弟だ。年末の再会をきっかけにして、ノアの話題が出た。世間は狭いと驚いたのは、お互い様だ。何度かすれ違った程度で、話したことがなかった。海外からの学生が増えて、目立たないからだと、本人が言っていた。
奥の方からは、真羽と森本と山崎も出てきた。ノアと同じく、情報物理学科だ。3人が秋からインターンへ出ていたから、すれ違っていた。
「夏樹、久しぶりだなー。ラストライブから会ってなかったな」
「そうだったね。大学にも来れてなかったし。……どんな感じだよ?R&W社のインターン」
それがなーと、真羽が抱え込んだ資料ごと、床にしゃがみ込んだ。
「思っていたよりも大変だけど、やりがいがあるよ。もし入社できてもなー、周りについていけるか心配だ。みんなの動作が早いし、すぐに答えが出て来るし……。俺なんかあたふたするだけだ」
大げさじゃないぞと言いながら、俺達を見上げて来た。学内では研究発表で優秀だと認められても、違う世界へ入る。何のスキルもないことを思い知ったと言っている。
本当はブロッコリー社を志望していた。真羽にとっては尊敬する先輩の会社だからだ。しかし、伊吹からは即座に断られた。是非ともR&W社で腕を磨き、わが社へ転職してくれ。新人を育てる手間を省いて、それなりの給与と待遇で迎えるからと。
おまけに伊吹の噂を、ノアまでが知っていた。バーテルスさんが勤める出版社との商談で、ドイツへ出張した。その時に観光客向けのイベントに参加し、取材に来ていた現地のメディアを使って、会社を宣伝したそうだ。俺と似た顔でやめてほしい。それを黒崎に報告すると、如何にもやりそうだし、言いそうなことだと笑っていた。見習いたいとまで。本気だった。
「夏樹。開発部でバイトをするって聞いたけど。……理久君も志望しているよな?黒崎製菓グループに集まって来たな」
「そうだねえ。一年生の時は想像もしていなかったよ」
「こっちへ来い。ノア、行くな」
「どうしたの?」
森本から促されて書棚の方へ移動した。ノアが肩をすくめて向こうを見た。すると、閲覧デスクにいる生徒たちが視界に入った。そう離れた距離ではないから、話し声が聞こえて来た。俺達が話していたことに反応して、嫌味を言っている。
ーー黒崎家の息子だから苦労しない。音楽の仕事が駄目になっても、黒崎製菓へ入社できるもんな。お飾りなんだろ?と。
さらに囁かれた言葉に、すーっと体温が下がる感覚が起きた。そして、真羽のことを言い出した。
--うまく取り入ったんだな。黒崎と仲がいいから。分かってたけど、入り込む余地がなかったし?久田と森本と山崎で固まってたし。そう囁いている。
ここで腹を立てないでおこう。相手がどんな反応をしようが、俺にとっては必要ない人だ。こうしてふるいに掛けるのか。こういう風に考えることも、高校時代にタイムスリップしたかのようだ。
嫌われることは怖くない。嫌いたいならそうすればいい。こっちも視界の隅にも入れない。相手がどう思って口にしたのか、考える余地はない。勝手に判断を下すための評価など、何か基準でもあるのか?だから俺には必要ない。
「夏樹。おーい」
森本から肩を叩かれた。いつの間にか悠人が来ており、外へ促された。怒ってもいないし笑ってもいない。ただ俺へ手を差し出してきた。
「なつきー。一緒に帰ろうね」
「はいはい。行こっか。生協に新商品が入っていたぞー。とろけるカフェオレの姉妹品だ。こくのまろやかカフェオレ。リンゴと蜂蜜を使用したやつだった」
「ふむふむ……。それはカレールーのことだね」
あの頃とは大きく違うことがある。こうして人に寄りかかることを覚えたからだ。悠人から握られた手と、みんなから背中に添えられた手が温かい。あの時、黒崎の手を握り返してよかった。心からそう思った。
理学部の図書館へやって来た。来週からの基礎演習に向けて、資料を探すためだ。入館カードはどこだったかな?と、バッグの中を探った。奥の方に入り込んでいたから、そばの机に荷物を置いた。これから帰るだけだ。入れ直さなくてもいいか。そう思いながら、入館ゲートの読み取り部にカードをタッチした。
「夏樹!」
「ん?……ノア、こんにちは~」
声を掛けられて振り向くと、ノア・バーテルスが立っていた。俺と同じ年で、半年前から留学している、バーテルスさんの従兄弟だ。年末の再会をきっかけにして、ノアの話題が出た。世間は狭いと驚いたのは、お互い様だ。何度かすれ違った程度で、話したことがなかった。海外からの学生が増えて、目立たないからだと、本人が言っていた。
奥の方からは、真羽と森本と山崎も出てきた。ノアと同じく、情報物理学科だ。3人が秋からインターンへ出ていたから、すれ違っていた。
「夏樹、久しぶりだなー。ラストライブから会ってなかったな」
「そうだったね。大学にも来れてなかったし。……どんな感じだよ?R&W社のインターン」
それがなーと、真羽が抱え込んだ資料ごと、床にしゃがみ込んだ。
「思っていたよりも大変だけど、やりがいがあるよ。もし入社できてもなー、周りについていけるか心配だ。みんなの動作が早いし、すぐに答えが出て来るし……。俺なんかあたふたするだけだ」
大げさじゃないぞと言いながら、俺達を見上げて来た。学内では研究発表で優秀だと認められても、違う世界へ入る。何のスキルもないことを思い知ったと言っている。
本当はブロッコリー社を志望していた。真羽にとっては尊敬する先輩の会社だからだ。しかし、伊吹からは即座に断られた。是非ともR&W社で腕を磨き、わが社へ転職してくれ。新人を育てる手間を省いて、それなりの給与と待遇で迎えるからと。
おまけに伊吹の噂を、ノアまでが知っていた。バーテルスさんが勤める出版社との商談で、ドイツへ出張した。その時に観光客向けのイベントに参加し、取材に来ていた現地のメディアを使って、会社を宣伝したそうだ。俺と似た顔でやめてほしい。それを黒崎に報告すると、如何にもやりそうだし、言いそうなことだと笑っていた。見習いたいとまで。本気だった。
「夏樹。開発部でバイトをするって聞いたけど。……理久君も志望しているよな?黒崎製菓グループに集まって来たな」
「そうだねえ。一年生の時は想像もしていなかったよ」
「こっちへ来い。ノア、行くな」
「どうしたの?」
森本から促されて書棚の方へ移動した。ノアが肩をすくめて向こうを見た。すると、閲覧デスクにいる生徒たちが視界に入った。そう離れた距離ではないから、話し声が聞こえて来た。俺達が話していたことに反応して、嫌味を言っている。
ーー黒崎家の息子だから苦労しない。音楽の仕事が駄目になっても、黒崎製菓へ入社できるもんな。お飾りなんだろ?と。
さらに囁かれた言葉に、すーっと体温が下がる感覚が起きた。そして、真羽のことを言い出した。
--うまく取り入ったんだな。黒崎と仲がいいから。分かってたけど、入り込む余地がなかったし?久田と森本と山崎で固まってたし。そう囁いている。
ここで腹を立てないでおこう。相手がどんな反応をしようが、俺にとっては必要ない人だ。こうしてふるいに掛けるのか。こういう風に考えることも、高校時代にタイムスリップしたかのようだ。
嫌われることは怖くない。嫌いたいならそうすればいい。こっちも視界の隅にも入れない。相手がどう思って口にしたのか、考える余地はない。勝手に判断を下すための評価など、何か基準でもあるのか?だから俺には必要ない。
「夏樹。おーい」
森本から肩を叩かれた。いつの間にか悠人が来ており、外へ促された。怒ってもいないし笑ってもいない。ただ俺へ手を差し出してきた。
「なつきー。一緒に帰ろうね」
「はいはい。行こっか。生協に新商品が入っていたぞー。とろけるカフェオレの姉妹品だ。こくのまろやかカフェオレ。リンゴと蜂蜜を使用したやつだった」
「ふむふむ……。それはカレールーのことだね」
あの頃とは大きく違うことがある。こうして人に寄りかかることを覚えたからだ。悠人から握られた手と、みんなから背中に添えられた手が温かい。あの時、黒崎の手を握り返してよかった。心からそう思った。
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