上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 午前7時。

 俺のことを早瀬さんの家に送った後、黒崎はお寺へ向かう。アンとユリウスの荷物を積み込んで、助手席に乗り込んだ。ゆっくりと正面の門が開き、車が進み出た。そして、黒崎から運転の仕方を忘れていると冗談を言われて、吹き出して笑った。まさかと言い返すと、目的地の道順まで忘れたとまで返ってきた。

「真面目な顔で言うなよ。ナビを付けたらいいじゃん。うひゃひゃ」
「テレビでも見ていろ。”マーリン先生が来た” をやっているぞ」
「この時間だっけ?つけてみるよ」

 そばに置いたタンブラーからは、温かいココアの匂いがしている。普段なら嫌がるくせに、今日は飲みながら行けと言われた。ミルクを多めにしたから、甘い匂いがマシだと思ったのに、大して変化がなかった。窓を開けたそうにしているのが笑えた。

「何を笑っているんだ?」
「あんたが我慢をしているからだよ~。寒いから窓を開けないんだよね?俺が風邪を引くからだよね?」
「さっさと飲み終われ」

 なんて言い方をするのか?おまけにタイミングよく信号待ちだから、ふんぞり返っている。こんなに偉そうな人には、最大限のお仕置きをしてやる。

「マリーズカフェに寄ってよ。お土産を持って行きたいから。ココアのおかわりが飲みたいし。……え?ここで飲むんだよ。……飲みたいんだって。我儘を言わせろよ~」
「その意気だ。帰った後、何でも聞いてやる」
「優しくするなよ……」

 俯いていると腕を伸ばしてきて、頬に触れられた。もっと頬を膨らませて、面白い顔をしろと笑われた。信号待ちの度に何かされて、いじめっ子かと言い返すと、もっとされた。

 元気づけるようとしているのは分かっている。嬉しさと寂しさ、往生際の悪い自分に恥ずかしくなった。相手にしないでいると、マーリン先生のオープニング曲が流れた。これは見逃し番組の分だ。わざわざ登録してくれたのか。胸がきゅんとしたから、偉そうな言い方は許してあげた。

「ありがとう。おかわりをしないからね」
「それは助かった」
「別にいいよ……。到着したね。空いてるねえ」

 マリーズカフェに到着した。駐車場は空いていた。ガラス張りの向こうには、数人が珈琲を飲んでいる。空いている時間に来たことが無かったから、新鮮に感じた。
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