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照れくさいじゃん。何か言えよ。そばのゴミ箱にティッシュを入れながら文句を言うと、嗚咽が聞こえて来た。やっと本領発揮したのか。
これが伊吹の“変な男の仮面”だ。常識的な気配りの出来る人が、周りの人と円滑に進めるために身に着けている物だ。仕事をする中で理解できた。
「あのさ……、何でもできる若き経営者は、年上の人から煙たがられるんだよね?少々は物足りなさとか、愛嬌がないと可愛くないって。若い人なら繋がりを持っていようって、フレンドリーに来る。本当に仲のいい人も出来ると思うけど……。しんどかったよね?」
「夏樹。ここで言うな。うなぎ登りの一歩を踏み出した俺には、おだては必要ない。縁起が悪い」
「うひゃひゃ。ごほっ。調子に乗ると罰が当たるんだよね?二葉に教えたんだろ?話していたよ」
「自分に向けた言葉だ。弟子に言えば引っ込みがつかなくなる。お前は良い短所の持ち主だ。引っ込み思案のことだ。元から引っ込んでいるから、抜きん出てきても、普通程度だと思われる。今のお前が”物足りなさ”を感じさせる。実際は燃え上がっている。……同業者から嫉妬されているか?」
「まだだよ。黒崎製菓のバックがある奴だってことだけ。歌唱力のことは言われていないよ。うっうっ」
羽音さんは嫉妬の渦に立っていた。それを引き上げたのが、大先輩の歌手、勅使河原さんだ。本当によく似た状況だったと笑っていた。一緒にいて懐かしんでいる羽音さんも。まだ続いているけどねと言いながら。
「カッコいい人に囲まれているんだよ~。羨む環境だと分かっているんだよ?悠人もすごい子だし、佐伯久弥がいるし、可愛がってくれる先輩もいる。歌い方が変な箇所があるって、指摘してくれたんだ。ボイストレーナーの先生は言わないのに」
「それがすごいところだ。お前の長所だ。さすがは元問題児だ。叱られるのも指摘されるのも平気だろう?」
「うん。耳が痛くて、心強い長所だよ。高宮プロデューサーから、恐れ入ったって笑われたんだ。俺は必死だよ。早く帰りたいし、やめたくって……」
「フタバッコリーから聞いたことがある。番組の挿入歌のレコーディングの話だったな?」
「二葉のこと?」
「ああ、フタバッコリーと名付けた」
高宮さんからは、幾度となくボーカル収録でダメ出しを受けた。そうだろうなと自覚しているから、ショックが少ない。高宮さんを杉本先生の居るレッスン教室へ連れて行き、どんな練習をするべきかと細かく打ち合わせた。自分で考えろとは言われなかった。正論だそうだ。
(そういえば。あの時に嫉妬されたかも?)
思い出すと胸が熱くなり、体まで震えて来た。同じフロアのスタジオで収録していたボーカルから、簡単にクリアできる奴が羨ましいと、陰口を叩かれた日があった。聞こえるぐらいの声だから、大して気にしていなかった。一人前に近づいて来たのか。
じーんと感慨にふけっていると、伊吹から寝るように促された。
「夏樹!?具合が悪くなったのか。ごめんな、話につき合わせて。ああー、寝ておけ。山崎さんに冷却シートを頼んでくる」
「お兄ちゃん、違うんだ。嫉妬された日があったよ。その収録の時に、簡単にクリアできる奴はいいなって……。隣のスタジオで撮っていたボーカルに、陰口を叩かれたんだ」
「夏樹!?それは真実なのか?聞き間違いじゃないのか?」
「ううん?マジで言っていたよ。やっと……、うっうっ、くしゅん」
「夏樹!よく顔を見せてくれ。一つの目標をクリアした男の姿を。お母さんから頼まれている。どんな表情をしているのかと。ビデオ通話じゃ隠すだろう?……お兄ちゃんが逐一報告してある。この間の渋谷では、お前と悠人君が感動しているシーンを動画に収めた。……あの日はなー、久弥さんが同行してくれてなー、あの辺に立っているはずだと教えてくれた。俺達はマルマル・カフェで待機していた。灯台下暗しだろう?ファンは現場にいるから、まさか店にいるとは思うまい!俺達はマブダチになった」
「やめろよーー」
「こうして人の輪は広がるものだ。俺が出過ぎているから、次に生まれたお前が引っ込み思案ということだ。自然なことだから、気に病むことはない。神さまの采配だ。プロテスタント系のスクール出身者としては、千差万別の考え方をだな。うんたらかんたら……」
「ああー、久弥と気が合うんだね。マジで……」
その話は後にしよう。興奮したせいで、頭がふらついて来た。伊吹が飲み物と冷却シートを取りに行った。これでクールダウンが出来るから、落ち着きを取り戻すことが出来た。
これが伊吹の“変な男の仮面”だ。常識的な気配りの出来る人が、周りの人と円滑に進めるために身に着けている物だ。仕事をする中で理解できた。
「あのさ……、何でもできる若き経営者は、年上の人から煙たがられるんだよね?少々は物足りなさとか、愛嬌がないと可愛くないって。若い人なら繋がりを持っていようって、フレンドリーに来る。本当に仲のいい人も出来ると思うけど……。しんどかったよね?」
「夏樹。ここで言うな。うなぎ登りの一歩を踏み出した俺には、おだては必要ない。縁起が悪い」
「うひゃひゃ。ごほっ。調子に乗ると罰が当たるんだよね?二葉に教えたんだろ?話していたよ」
「自分に向けた言葉だ。弟子に言えば引っ込みがつかなくなる。お前は良い短所の持ち主だ。引っ込み思案のことだ。元から引っ込んでいるから、抜きん出てきても、普通程度だと思われる。今のお前が”物足りなさ”を感じさせる。実際は燃え上がっている。……同業者から嫉妬されているか?」
「まだだよ。黒崎製菓のバックがある奴だってことだけ。歌唱力のことは言われていないよ。うっうっ」
羽音さんは嫉妬の渦に立っていた。それを引き上げたのが、大先輩の歌手、勅使河原さんだ。本当によく似た状況だったと笑っていた。一緒にいて懐かしんでいる羽音さんも。まだ続いているけどねと言いながら。
「カッコいい人に囲まれているんだよ~。羨む環境だと分かっているんだよ?悠人もすごい子だし、佐伯久弥がいるし、可愛がってくれる先輩もいる。歌い方が変な箇所があるって、指摘してくれたんだ。ボイストレーナーの先生は言わないのに」
「それがすごいところだ。お前の長所だ。さすがは元問題児だ。叱られるのも指摘されるのも平気だろう?」
「うん。耳が痛くて、心強い長所だよ。高宮プロデューサーから、恐れ入ったって笑われたんだ。俺は必死だよ。早く帰りたいし、やめたくって……」
「フタバッコリーから聞いたことがある。番組の挿入歌のレコーディングの話だったな?」
「二葉のこと?」
「ああ、フタバッコリーと名付けた」
高宮さんからは、幾度となくボーカル収録でダメ出しを受けた。そうだろうなと自覚しているから、ショックが少ない。高宮さんを杉本先生の居るレッスン教室へ連れて行き、どんな練習をするべきかと細かく打ち合わせた。自分で考えろとは言われなかった。正論だそうだ。
(そういえば。あの時に嫉妬されたかも?)
思い出すと胸が熱くなり、体まで震えて来た。同じフロアのスタジオで収録していたボーカルから、簡単にクリアできる奴が羨ましいと、陰口を叩かれた日があった。聞こえるぐらいの声だから、大して気にしていなかった。一人前に近づいて来たのか。
じーんと感慨にふけっていると、伊吹から寝るように促された。
「夏樹!?具合が悪くなったのか。ごめんな、話につき合わせて。ああー、寝ておけ。山崎さんに冷却シートを頼んでくる」
「お兄ちゃん、違うんだ。嫉妬された日があったよ。その収録の時に、簡単にクリアできる奴はいいなって……。隣のスタジオで撮っていたボーカルに、陰口を叩かれたんだ」
「夏樹!?それは真実なのか?聞き間違いじゃないのか?」
「ううん?マジで言っていたよ。やっと……、うっうっ、くしゅん」
「夏樹!よく顔を見せてくれ。一つの目標をクリアした男の姿を。お母さんから頼まれている。どんな表情をしているのかと。ビデオ通話じゃ隠すだろう?……お兄ちゃんが逐一報告してある。この間の渋谷では、お前と悠人君が感動しているシーンを動画に収めた。……あの日はなー、久弥さんが同行してくれてなー、あの辺に立っているはずだと教えてくれた。俺達はマルマル・カフェで待機していた。灯台下暗しだろう?ファンは現場にいるから、まさか店にいるとは思うまい!俺達はマブダチになった」
「やめろよーー」
「こうして人の輪は広がるものだ。俺が出過ぎているから、次に生まれたお前が引っ込み思案ということだ。自然なことだから、気に病むことはない。神さまの采配だ。プロテスタント系のスクール出身者としては、千差万別の考え方をだな。うんたらかんたら……」
「ああー、久弥と気が合うんだね。マジで……」
その話は後にしよう。興奮したせいで、頭がふらついて来た。伊吹が飲み物と冷却シートを取りに行った。これでクールダウンが出来るから、落ち着きを取り戻すことが出来た。
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