141 / 514
15-5
しおりを挟む
午前5時。
もう朝になったのか。うっすら目を開くと、カーテンを引いていない寝室の窓からは、微かな光が差し込んでいた。ぼんやりした視界の向こうでは、白み始めた空が見えている。もうすぐで夜明けになるだろう。
時計を見なくても時間が分かるのは、毎日の習慣だ。普段なら起きる頃だが、遅めに起きようと、昨日、黒崎が言った。疲れているのではなく、不純な動機に決まっている。
一昨日から、イチャつくのは禁止にしてある。喧嘩のタネがあるからだ。前回の心臓の検診の前日に、キスというよりも吸い付かれた結果、背中と太ももの後ろ側に、何か所も赤い跡がついてしまった。
その日の朝のシャワーでは気づかなくて、検診の時に、お医者さんから言われて知った。どうしたのかな?と。診察室には黒崎もいて、堂々と理由を話していた。俺は全身が赤くなる思いをして、病院を出るまで口が聞けなかった。
「聞かなかったんじゃない……、んだよ」
人前では手を繋ぐことを嫌がる時があるのに、キスマークを付けたことを、堂々と言えるのが理解できない。しかも、現物を見ている状況の中でだ。会話の中なら冗談だと受け取れても。想像するじゃないか。俺達のことを。
「うーー。もう……。離せってば……」
今朝は寝起きが悪いのか、肩のあたりが凝っている。朝が早いのは平気なのに。早めに寝たから大丈夫だと思う。体調も良くなった。
寝返りを打つと、黒崎から抱き寄せられた。相変わらずの体温の高さだ。冬場は温かくて助かるが、春になり暑くなってきた。シーツの中は湯気が立っている。
ずるずると腕の中から抜け出して、端の方へ移動した。冷たさのあるシーツが気持ちいい。頬ずりをするように寝転がると、背中全体が熱くなった。しかも全身を包み込まれているから、身動きすらできない。
「黒崎さん。暑いから離れてよ……」
「昨日は抱いていない。我慢しろ」
「当たり前だよ。“蕁麻疹”を付けられたら困るよ。触るなって……」
「色気のない話だ。キスマークだろう」
「堂々と言う方が色気がないよ……。ヒゲがちくちくするよ~」
「このままだ。逃げるな」
「わざとやっているよね?もう起きるよ……」
「今朝は寝坊をするんだろう?アンも寝ている」
「あんたが寝ているからだって。いたたた」
朝になって伸びた黒崎のヒゲが当たって痛い。そして、朝っぱらから遊んでいる時間はない。そう口実をつけて起き上がると、黒崎が寝返りを打った。
気だるそうに髪をかき上げて、俺の方を見た。力強い腕と、逞しい胸元のラインを眺めて、胸がどきっとした。今更のように胸の鼓動を高鳴らせているのは、黒崎からの魔力に違いない。
「黒崎さん。向こうを見てて」
「どうしてだ?おはよう」
「おはよう。もう起きるからね~」
「キスぐらいさせろ。着替えるなら脱いでおけ」
引きずり込むようにして、腕の中に閉じ込められた。このまま脱がされるにはいかない。黒崎の胸の上に這い上がり、形勢逆転してやった。
すると、目を細めて笑い声を立てられた。腰の辺りを撫でながら、耳元で囁かれた。これからの展開は?と。ここで誘惑に負けると、後悔する展開になる。吸い付くなと言いつけても、わざとやろうとするからだ。
「夏樹。どうしたんだ?」
「何でもないってば。”半年使った布きん”だもん。俺と黒崎さんの関係はね」
「どういうことだ?」
「とっくにボロが出て、100%白く戻らないってこと。こうなれば使い切ろうって。いてて、つねるなって。こういうところだよ~。優しくないじゃん」
「憎まれ口を成長させるな」
「どさくさに紛れて触るなって。その手には乗らないからね!」
俺の方もイチャつきたいのに。寝転がっている人を叩き起こしてやろうと、シーツをはぐろうとした。それが空振りに終わったのは、さっと起き上がられたからだ。寝起きがいいから、完全に目を覚ましている。
「さっきは寝ぼけたふりをしていたのかなー?すけべじじい」
「お前の寝起きの顔が好きだからだ。綺麗とはまた違う」
「ななな、何を言っているんだよ……。その手には乗らないからね。ふん……」
朝ごはんの支度をしようと、キッチンへ降りて行った。Tシャツを脱いだ後の、黒崎の逞しい上半身を見て、ニヤけながら。
もう朝になったのか。うっすら目を開くと、カーテンを引いていない寝室の窓からは、微かな光が差し込んでいた。ぼんやりした視界の向こうでは、白み始めた空が見えている。もうすぐで夜明けになるだろう。
時計を見なくても時間が分かるのは、毎日の習慣だ。普段なら起きる頃だが、遅めに起きようと、昨日、黒崎が言った。疲れているのではなく、不純な動機に決まっている。
一昨日から、イチャつくのは禁止にしてある。喧嘩のタネがあるからだ。前回の心臓の検診の前日に、キスというよりも吸い付かれた結果、背中と太ももの後ろ側に、何か所も赤い跡がついてしまった。
その日の朝のシャワーでは気づかなくて、検診の時に、お医者さんから言われて知った。どうしたのかな?と。診察室には黒崎もいて、堂々と理由を話していた。俺は全身が赤くなる思いをして、病院を出るまで口が聞けなかった。
「聞かなかったんじゃない……、んだよ」
人前では手を繋ぐことを嫌がる時があるのに、キスマークを付けたことを、堂々と言えるのが理解できない。しかも、現物を見ている状況の中でだ。会話の中なら冗談だと受け取れても。想像するじゃないか。俺達のことを。
「うーー。もう……。離せってば……」
今朝は寝起きが悪いのか、肩のあたりが凝っている。朝が早いのは平気なのに。早めに寝たから大丈夫だと思う。体調も良くなった。
寝返りを打つと、黒崎から抱き寄せられた。相変わらずの体温の高さだ。冬場は温かくて助かるが、春になり暑くなってきた。シーツの中は湯気が立っている。
ずるずると腕の中から抜け出して、端の方へ移動した。冷たさのあるシーツが気持ちいい。頬ずりをするように寝転がると、背中全体が熱くなった。しかも全身を包み込まれているから、身動きすらできない。
「黒崎さん。暑いから離れてよ……」
「昨日は抱いていない。我慢しろ」
「当たり前だよ。“蕁麻疹”を付けられたら困るよ。触るなって……」
「色気のない話だ。キスマークだろう」
「堂々と言う方が色気がないよ……。ヒゲがちくちくするよ~」
「このままだ。逃げるな」
「わざとやっているよね?もう起きるよ……」
「今朝は寝坊をするんだろう?アンも寝ている」
「あんたが寝ているからだって。いたたた」
朝になって伸びた黒崎のヒゲが当たって痛い。そして、朝っぱらから遊んでいる時間はない。そう口実をつけて起き上がると、黒崎が寝返りを打った。
気だるそうに髪をかき上げて、俺の方を見た。力強い腕と、逞しい胸元のラインを眺めて、胸がどきっとした。今更のように胸の鼓動を高鳴らせているのは、黒崎からの魔力に違いない。
「黒崎さん。向こうを見てて」
「どうしてだ?おはよう」
「おはよう。もう起きるからね~」
「キスぐらいさせろ。着替えるなら脱いでおけ」
引きずり込むようにして、腕の中に閉じ込められた。このまま脱がされるにはいかない。黒崎の胸の上に這い上がり、形勢逆転してやった。
すると、目を細めて笑い声を立てられた。腰の辺りを撫でながら、耳元で囁かれた。これからの展開は?と。ここで誘惑に負けると、後悔する展開になる。吸い付くなと言いつけても、わざとやろうとするからだ。
「夏樹。どうしたんだ?」
「何でもないってば。”半年使った布きん”だもん。俺と黒崎さんの関係はね」
「どういうことだ?」
「とっくにボロが出て、100%白く戻らないってこと。こうなれば使い切ろうって。いてて、つねるなって。こういうところだよ~。優しくないじゃん」
「憎まれ口を成長させるな」
「どさくさに紛れて触るなって。その手には乗らないからね!」
俺の方もイチャつきたいのに。寝転がっている人を叩き起こしてやろうと、シーツをはぐろうとした。それが空振りに終わったのは、さっと起き上がられたからだ。寝起きがいいから、完全に目を覚ましている。
「さっきは寝ぼけたふりをしていたのかなー?すけべじじい」
「お前の寝起きの顔が好きだからだ。綺麗とはまた違う」
「ななな、何を言っているんだよ……。その手には乗らないからね。ふん……」
朝ごはんの支度をしようと、キッチンへ降りて行った。Tシャツを脱いだ後の、黒崎の逞しい上半身を見て、ニヤけながら。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
没落令息はクラスメイトの執着に救われる
夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。
「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。
アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。
※FANBOXからの転載です。
※他サイトにも投稿しています。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる