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礼拝堂の両扉の向こうには、あめ色に変わった長い木の椅子が並び、正面の高い位置には、ステンドグラスが飾られている。なんて高い天井だろう?4階ぐらいの高さがありそうだ。派手ではない造りだから、圧迫感がない。
ここの大きなパイプオルガンが有名で、コンサートも開かれている。一度だけ聴きに来たことがある。黒崎なら弾けるようになりそうで、弾かないかと、三河さんから声を掛けられたことがあった。熱中すると仕事に支障をきたすからと、苦笑いして断っていた。つまりは弾きたいという事だ。
「黒崎さんにオルガンを勧めてみるか?」
「うん。誰もいないし……」
お互いに同じことを思い出し、含み笑いをした。どうも俺達は気が合うようだ。さっそく中に入り、黒崎の元へ向かった。この空間の中で、彼の周りだけが空気が違う。迫力があるからだ。
「黒崎さん。ゆっくり出来た?」
「ああ。三河さん。お邪魔しています」
「こんにちは。パイプオルガンの調整が完了しました。良かったら試して頂けませんか。ピアノの要領で……」
「夏樹ですか?言い出したのは」
「聴いてみたいもん。今日は予定がないし。この後の」
黒崎は弾きたがっているはずだ。俺しか分からない勘が教えてくれた。文字通りに背中を両手で押してやり、ぐいぐいと前へ押して行った。三河さんがオルガンの前に立ち、椅子を引いて待っている。これでは断ることができないだろう。
言いたいことを我慢しないくせに、変なところでブレーキをかける。これをやったらいけません。そう教わり続けて育ったのかと思ったが、誰もブレーキをかけていなかったようだ。
「黒崎さん。こんな事をしてはいけませんなんて、誰も言っていないよ~」
「求められることが嫌ですか?」
「三河さん?ええ?」
「ずばり当たりましたか?すみません……」
「いえ……」
黒崎が無言になったから、正解のようだ。頼りにされるのが好きだし、面倒見がいいのに。期待されるのが嫌だったことは知っているが、今もそうなのかな?知らなかった。
なんだか恥ずかしいような、寂しいような気持ちになった。それはそれだ。これで分かったから、さっそく活用しておきたい。
「夏樹。そういう顔をするな。俺でも遠慮をする」
「苦手意識があるなら、無理強いはしないよ?そのままの黒崎さんが大好き」
「あのなあ……」
「悠人の呪文だよ~。ああ、俺が弾こうかな?少しだけなら、ピアノが弾けるし」
「そうだったな……」
演奏を見ているうちに、指の動きを覚えていた。せっかくだから、俺にも弾かせてもらいたい。もちろん三河さんからはOKが出て、先に椅子に座った。そして、たどたどしく鍵盤に指を置くと、どう弾けばいいのか分からなくなった。
「うーーん……。当たり前か」
「あれにしておけ。私のお父さんか、我汝に呼ばわるだ」
「よーーし、タンタン、タタタ、ダンダダダン……」
ふざけているわけではない。これでも真剣に鍵盤を押している。それを口にすると、二人から笑われた。弾くという表現ではないからだ。だんだん悠人が憑依してきて、あのフレーズが出てきそうだ。そして、我慢できずに口にした。
「きいいいいっ」
「弾いてやるから機嫌を直せ。こっちへ……」
「はーーい」
さっそく黒崎に交代した。少し全体を眺めた後、勝手知ったる何とやらという言葉が当てはまる光景が広がった。ごく普通に弾くことができたからだ。三河さんが、やっぱりですねと話しかけると、見よう見まねですと言って笑っていた。
「あんたねえ。有能すぎるんだよ~。だから周りが頼るんだってば」
「それも悪くない。お前の面倒をみて分かったことだ」
「ふうん?へえ。そうなんだ?ふふん」
俺の方も悪い気がしない。背後から抱きついた後、ここが礼拝堂だと思い出した。すっかり二人の世界になったから、三河さんが知らぬふりをしてくれていた。
ここの大きなパイプオルガンが有名で、コンサートも開かれている。一度だけ聴きに来たことがある。黒崎なら弾けるようになりそうで、弾かないかと、三河さんから声を掛けられたことがあった。熱中すると仕事に支障をきたすからと、苦笑いして断っていた。つまりは弾きたいという事だ。
「黒崎さんにオルガンを勧めてみるか?」
「うん。誰もいないし……」
お互いに同じことを思い出し、含み笑いをした。どうも俺達は気が合うようだ。さっそく中に入り、黒崎の元へ向かった。この空間の中で、彼の周りだけが空気が違う。迫力があるからだ。
「黒崎さん。ゆっくり出来た?」
「ああ。三河さん。お邪魔しています」
「こんにちは。パイプオルガンの調整が完了しました。良かったら試して頂けませんか。ピアノの要領で……」
「夏樹ですか?言い出したのは」
「聴いてみたいもん。今日は予定がないし。この後の」
黒崎は弾きたがっているはずだ。俺しか分からない勘が教えてくれた。文字通りに背中を両手で押してやり、ぐいぐいと前へ押して行った。三河さんがオルガンの前に立ち、椅子を引いて待っている。これでは断ることができないだろう。
言いたいことを我慢しないくせに、変なところでブレーキをかける。これをやったらいけません。そう教わり続けて育ったのかと思ったが、誰もブレーキをかけていなかったようだ。
「黒崎さん。こんな事をしてはいけませんなんて、誰も言っていないよ~」
「求められることが嫌ですか?」
「三河さん?ええ?」
「ずばり当たりましたか?すみません……」
「いえ……」
黒崎が無言になったから、正解のようだ。頼りにされるのが好きだし、面倒見がいいのに。期待されるのが嫌だったことは知っているが、今もそうなのかな?知らなかった。
なんだか恥ずかしいような、寂しいような気持ちになった。それはそれだ。これで分かったから、さっそく活用しておきたい。
「夏樹。そういう顔をするな。俺でも遠慮をする」
「苦手意識があるなら、無理強いはしないよ?そのままの黒崎さんが大好き」
「あのなあ……」
「悠人の呪文だよ~。ああ、俺が弾こうかな?少しだけなら、ピアノが弾けるし」
「そうだったな……」
演奏を見ているうちに、指の動きを覚えていた。せっかくだから、俺にも弾かせてもらいたい。もちろん三河さんからはOKが出て、先に椅子に座った。そして、たどたどしく鍵盤に指を置くと、どう弾けばいいのか分からなくなった。
「うーーん……。当たり前か」
「あれにしておけ。私のお父さんか、我汝に呼ばわるだ」
「よーーし、タンタン、タタタ、ダンダダダン……」
ふざけているわけではない。これでも真剣に鍵盤を押している。それを口にすると、二人から笑われた。弾くという表現ではないからだ。だんだん悠人が憑依してきて、あのフレーズが出てきそうだ。そして、我慢できずに口にした。
「きいいいいっ」
「弾いてやるから機嫌を直せ。こっちへ……」
「はーーい」
さっそく黒崎に交代した。少し全体を眺めた後、勝手知ったる何とやらという言葉が当てはまる光景が広がった。ごく普通に弾くことができたからだ。三河さんが、やっぱりですねと話しかけると、見よう見まねですと言って笑っていた。
「あんたねえ。有能すぎるんだよ~。だから周りが頼るんだってば」
「それも悪くない。お前の面倒をみて分かったことだ」
「ふうん?へえ。そうなんだ?ふふん」
俺の方も悪い気がしない。背後から抱きついた後、ここが礼拝堂だと思い出した。すっかり二人の世界になったから、三河さんが知らぬふりをしてくれていた。
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