151 / 514
15-15
しおりを挟む
黒崎がビールを飲み始めて、俺はキシヤマの味噌汁を飲んでいる。ワカメ増量とパッケージに書かれていた通り、けっこう多い。悠人のプロデュースだ。
カツサンド半分、九条ネギの酢味噌和え、スパニッシュオムレツを食べつつテレビを観ていると、CMが入った。千尋製菓のクッキー、トラのユーリの宣伝だった。今やっている”マーリン先生が来た”のスポンサー企業には、黒崎製菓があるのに。
「わああ、ライバル企業だよね?」
「番組は孝則社長の個人的な応援だったが、今回から企業として参加された。ライバルというよりも、切磋琢磨する企業同士の関係になった」
「そうなんだね。いいね。そういうのって。懐が大きく見えるよ」
「そうか。そう受け取ったか」
「おかしいかな?そりゃあ、いい顔ばかりは出来ないって知っているよ?」
「いや。お前の見方は狙ったとおりのものだ。黒崎製菓と千尋製菓が合併する噂が出ているが、それはないと思っておけ。何か聞かれるとは思う。仕事関係問わずだ。いいな?」
「うん。”そういう話題には疎いので”。こう切り出しておくよ」
「いい子だ。二度聞かれた相手は教えてくれ」
テーブル越しに、頭を撫でられた。子供扱いが心地よく思ったのは、一人前に見られ始めたからだろうか?バレンタインデーのイベントが、キッカケだと思う。あの時、俺は黒崎達のことを見守った。そして、悠人という親友が迎えが来た。3メートル離れた距離なのに、初めて別々に帰った日だったと言える。
「夏樹。歌が始まるぞ」
「うちのお父さん、マーリン先生に似ていると思わない?連絡を取らないとなあ。懐かしくなったよ。ああ、わあああ、きたよーー」
挿入歌が始まった。収録で何度も歌ったし、完成形も聴いているのに、自分以外が歌っているように思えた。家の中で歌っている感覚で進めたのに。TDDの歌い方は習った方法だ。思いのままに歌う歌い方ではないのに、TDDの方が自然で馴染んでいるのが不思議だ。そっちの方が自分だと分かる。思い切り楽しそうに歌っているのに。
「どうしてかな?気に入っているけど」
「それだけ今の歌い方が馴染んでいるという事じゃないか?俺には家の中と変わりなく聴こえる。いい歌じゃないか」
「”Dearly memories”。心からの思い出。今の心境に合っているよ。こうやって歌ってきたんだなって。……っ」
どうして涙が出るのだろう。チャンスと拠りどころを贈られた上に、自由に歌わせてもらえた。高校の礼拝堂の讃美歌からスタートして、黒崎の演奏に合わせて歌い始めた。
当時の歌声と今の歌唱を、こういう機会で知ることが出来た。あの当時が還って来ない気がして涙が出て、その反対に、頑張って来れたことへの嬉しさで、ごちゃ混ぜになった。
あの時、勇気を出してよかった。バンドに入って良かった。そして、久弥と悠人の手を取った時、怖くて堪らなかった。全くダメで、歯が立たない状況に追い込まれて、歌うのが好きだという気持ちまで奪われるのが嫌で、立ち止まろうとした。
「夏樹。俺がいるから、大泣きしろ」
「うん……っ。コショウが目に入ったんだ……っ」
「ああ、悠人君から電話だぞ。そうじゃないのか?」
カウンターのスマホを取ると、確かに悠人からの電話だった。俺と同じように泣いており、何キロも離れた距離で、お互いにわあわあ泣いた。悠人も同じ思いを抱えて来た。不安で堪らなくて、控え室で泣いていた。お互いに話題に出さずにいたのに、今は素直になれた。
すっかり頬がふやけた頃に、隣に座っている黒崎から、温かいキスをもらった。よかったな。よく頑張った。その短い言葉が黒崎らしくて、また涙が溢れてきた。
泣き止んだ頃に番組が終わり、気分を変える映像が、目に飛び込んで来た。面白い映像を集めた番組の予告であり、俺がクマの着ぐるみに驚かされたものだった。これは聞いていないと驚いた俺の事を、黒崎が笑い続けていたのだった。
カツサンド半分、九条ネギの酢味噌和え、スパニッシュオムレツを食べつつテレビを観ていると、CMが入った。千尋製菓のクッキー、トラのユーリの宣伝だった。今やっている”マーリン先生が来た”のスポンサー企業には、黒崎製菓があるのに。
「わああ、ライバル企業だよね?」
「番組は孝則社長の個人的な応援だったが、今回から企業として参加された。ライバルというよりも、切磋琢磨する企業同士の関係になった」
「そうなんだね。いいね。そういうのって。懐が大きく見えるよ」
「そうか。そう受け取ったか」
「おかしいかな?そりゃあ、いい顔ばかりは出来ないって知っているよ?」
「いや。お前の見方は狙ったとおりのものだ。黒崎製菓と千尋製菓が合併する噂が出ているが、それはないと思っておけ。何か聞かれるとは思う。仕事関係問わずだ。いいな?」
「うん。”そういう話題には疎いので”。こう切り出しておくよ」
「いい子だ。二度聞かれた相手は教えてくれ」
テーブル越しに、頭を撫でられた。子供扱いが心地よく思ったのは、一人前に見られ始めたからだろうか?バレンタインデーのイベントが、キッカケだと思う。あの時、俺は黒崎達のことを見守った。そして、悠人という親友が迎えが来た。3メートル離れた距離なのに、初めて別々に帰った日だったと言える。
「夏樹。歌が始まるぞ」
「うちのお父さん、マーリン先生に似ていると思わない?連絡を取らないとなあ。懐かしくなったよ。ああ、わあああ、きたよーー」
挿入歌が始まった。収録で何度も歌ったし、完成形も聴いているのに、自分以外が歌っているように思えた。家の中で歌っている感覚で進めたのに。TDDの歌い方は習った方法だ。思いのままに歌う歌い方ではないのに、TDDの方が自然で馴染んでいるのが不思議だ。そっちの方が自分だと分かる。思い切り楽しそうに歌っているのに。
「どうしてかな?気に入っているけど」
「それだけ今の歌い方が馴染んでいるという事じゃないか?俺には家の中と変わりなく聴こえる。いい歌じゃないか」
「”Dearly memories”。心からの思い出。今の心境に合っているよ。こうやって歌ってきたんだなって。……っ」
どうして涙が出るのだろう。チャンスと拠りどころを贈られた上に、自由に歌わせてもらえた。高校の礼拝堂の讃美歌からスタートして、黒崎の演奏に合わせて歌い始めた。
当時の歌声と今の歌唱を、こういう機会で知ることが出来た。あの当時が還って来ない気がして涙が出て、その反対に、頑張って来れたことへの嬉しさで、ごちゃ混ぜになった。
あの時、勇気を出してよかった。バンドに入って良かった。そして、久弥と悠人の手を取った時、怖くて堪らなかった。全くダメで、歯が立たない状況に追い込まれて、歌うのが好きだという気持ちまで奪われるのが嫌で、立ち止まろうとした。
「夏樹。俺がいるから、大泣きしろ」
「うん……っ。コショウが目に入ったんだ……っ」
「ああ、悠人君から電話だぞ。そうじゃないのか?」
カウンターのスマホを取ると、確かに悠人からの電話だった。俺と同じように泣いており、何キロも離れた距離で、お互いにわあわあ泣いた。悠人も同じ思いを抱えて来た。不安で堪らなくて、控え室で泣いていた。お互いに話題に出さずにいたのに、今は素直になれた。
すっかり頬がふやけた頃に、隣に座っている黒崎から、温かいキスをもらった。よかったな。よく頑張った。その短い言葉が黒崎らしくて、また涙が溢れてきた。
泣き止んだ頃に番組が終わり、気分を変える映像が、目に飛び込んで来た。面白い映像を集めた番組の予告であり、俺がクマの着ぐるみに驚かされたものだった。これは聞いていないと驚いた俺の事を、黒崎が笑い続けていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
没落令息はクラスメイトの執着に救われる
夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。
「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。
アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。
※FANBOXからの転載です。
※他サイトにも投稿しています。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる