上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
208 / 514

18-12

しおりを挟む
 一瞬だけ迷った結果、アイスクリームの感想を語ることにした。ソーダアイスの滑らかさ、口触り、似ている商品、どこのメーカーか。甘さが欲しい。色んな感想を口にすると、黒崎が静かに聞いてくれた。相づちのみで、少し微笑んだままだ。一通り話し終わり、連川さんがメモを取っていた。和やかになった後、黒崎が笑った。俺の首筋を見ている。

「それは蕁麻疹か?」
「どこでしょうか?出ていないと思いますが」
「左側の首筋、後ろの方だ。右側の分は、シャツで隠れている。気がつかなかったのか?」
「あの……、ちょっと」
「身だしなみには気をつけろ」
「はい……」

 なんて人なのか。せっかく立て直したというのに。おまけに嫌味たらしく笑われて、別の意味で顔が熱くなって来た。

 しかし、ここは取り繕うべきではない。素直に頷いた後、眼鏡をかけ直した。これでいいはずなのに、黒崎から見つめられたままだ。何か言われる前に、聡太郎へ声をかけた。

「桜木さん。美味しいソーダでしたね」
「俺のことが美味しかったの?ありがとう。お兄ちゃんに話しておくよ」

 聡太郎の冗談に笑った。緊張感の中で。そして、黒崎からも話しかけられた。家での話し方よりも丁寧だと思った。

「……黒崎君」
「はい。常務……」
「どうして顔が赤いんだ?恥ずかしいものじゃないだろう。虫刺されだろう?」
「あんたが……、ふう……」
「君から訳を聞いた時、赤いものが出来ていたと言っていた」
「あの……」
「今朝、誰に付けられたんだ?」
「覚えていません」
「ネクタイを外す前に言っていたじゃないか。アレルギーだと心配された時だ」
「聞き間違いではないでしょうか?」
「その窓が開いていたからだ。聞こえた。誰に付けられたんだ?」

 黒崎が肩を揺らして笑い出したから、枝川さんがチーフの方を見て首を傾げた。そういう話をしていたか?と。とぼけてくれている。しかし、巻き込んでしまう。黒崎の方へ向き直り、テーブルの下で、足先を蹴ってやった。今度はシャツの襟を直す仕草をしたから、嫌な予感がした。

「僕も同じだから恥ずかしがるな。身だしなみが整っていない。ネクタイが……」
「黒崎さんっ」
「こら……、座れ。行儀の悪い子だ」
「座れないよ!」
「……こういうわけだ。可愛がられて、我儘に育った子だ」
「何を言ってんだよ~っ」
「こら、カップを投げるな。……桜木君。すまない」
「いいええ。これも投げていいよ。こっちなら大丈夫」

 プラスチックカップを受け取り、黒崎へ放り投げた。しかし、途中で落ちるから腹が立った。きいいいいっと、まるで悠人のよう声を上げた後、黒崎から両手を取られて制止された。

 黒崎の体を小突いた。カップを片づけせると、笑いが起きるというよりも、みんなから驚き顔が向けられた。もういいやと鼻息を荒くしていると、枝川さんから微笑まれた。そこで、やっと仕込まれた話だと理解した。俺の殻を破るためのものだった。

 一旦休憩した間に、悠人へラインを送った。イジられて声をあげたよと。すると、可哀想にと返事が入り、今晩電話すると返した。

 悠人の方も久弥からイジられて、きいいいいっと声を上げたそうだ。ギタリストの祭典の準備中でスタジオ入りをしているから、お互いに似た感じだねと、送り合った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...