上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 副社長室へ入ると、歴代の副社長の写真が掛けられていた。就任後、一ヶ月間飾っておくそうだ。社長室にある写真よりも、ずっと若い年代が多い。意外に思った。古い企業なら年功序列があり、50代ぐらいで就任するのかと思っていたのに。黒崎家の人は居るだろうか?話題に出たことが無い。

「この中に知っている人はいる?若い人が多いね」
「深川さんと拓海兄さん、叔母さんだ。深川さんの2代前になる」
「女性?叔母さんだもんね……」
「当時は珍しいと言われていた。その分、軋轢も多かっただろう。家のイメージが変わっただろう?」
「それはそうだよ。女の人を遠ざけているだろ?」

 法事に出席するルールのインパクトが大きい。出席する女性は本妻か、黒崎家で生まれた者のみ。親族間で結婚した時代があり、その家族から一人しか法事に出られない。女性は出られないことが多い。悪い方に解釈するしかない。黒崎が苦笑いして、その通りだと言い切った。

「……黒崎純白ましろさんだ。俺達の住んでいる家の持ち主だった。当時37歳で副社長に就任した。前の年には、親父が社長へ就いた。叔母さんが副社長だったのは正月に知った」
「あんたに隠していたの?悪い言い方だけど。どうして?」
「本人の希望らしい。就任の5年後に、黒崎製菓から身を引いた。縁談を拒み続けて、独身を貫いた人だ。存在しないかのような扱いになったのは、本人が望んだことだ。……親父は縁談を強要していない。守った立場だ。俺には持ち込んだがな……」
「あんたを思ってのことだよ。とんでもないもん。いたたっ。……叔母さんに会ったことがあるんだろ?」
「絵を見に来てくれた人がいた。叔母さんだったかもしれない。ナツツバキの絵しか描いていなかった頃だ。……やっと来たか」
「なんて言い方をするんだよ」

 深川さんと笑い合いながら、お義父さんが入って来た。ラフな格好をしていたから、笑い声が漏れた。そして、黒崎から頼まれた。就任式に出るように、末っ子の我儘を言ってくれと。
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