上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
214 / 514

18-18

しおりを挟む
 そういう理由なら進んでやりたい。お義父さんが黒崎の言うことを聞いたのは、過去に一回のみだ。常務から代表取締役社長へ就くのではなく、副社長としてサポート役をやりたいという件だ。それが叶えられた後、普段の生活の中、些細なことでも黒崎の言うことを聞かなくなった。意固地ともいう。

 俺の方から頼まれることが分かったのか、先に首を振られてしまった。それでもいいから、強引に押し進める。文字通りに、壁の方へ追い込んであげた。

「お父さん。就任式に出てよ。退任式を済ませても、新しい人を応援する意味で出席してほしい。お父さんの晴れ姿を見たいんだ」
「遠藤さんと出かける用事がある。ライブ中継で観させてもらうよ」
「あのスーツを着てよ~」
「もうスーツを着たくない」
「羽織袴姿にすればいいよ。一回も着ていない分があるんだよね?黒崎さんにあげるの?やめてよ~。この人が着たら……、いたたた。つねるなよ!拓海さんの真似をしてよ……」
「化けても、親父には通用しない」
「……」

 お義父さんが無言になった。黒崎のことを見つめて軽く首を振った。今からしなくていいと言いながら。何の事だろう?このまま見守っていると、黒崎が笑い声を立てた。その姿が、この部屋にある拓海さんの写真と似ている。

「……圭一。拓海の真似をするな。ああなれとは教えたが、本人になれという意味じゃない」
「何もしていない。今はくつろいでいる。その違いだ」
「黒崎さん……。真似をしていなかったんだね。拓海さんに似ているのを、隠していたの?」 
「……ああ。お前は気づいたはずだ。明るい色味が似合うと、日頃から話している」
「うん。雰囲気が合うからだよ。拓海さんとは思わなかったよ」

 いつ頃からなのかは分からないが、ふとした時に映り込んだ自分の姿を見て、拓海さんに似ていることに気がついたそうだ。俺から明るい色のスーツを勧められて着た時に、はっきりと分かった。あえて選ばないようにして来たのは、お義父さん達に気遣ったからではない。面影があれば嬉しいぐらいだろう。

「拓海兄さんが亡くなったことを、やっと受け入れられたからだ。今日からは無理をしない。……親父。そういうことだ。泣いているのか?」 
「そんな言い方をするなよー。お父さん。こっちにおいでよ。泣いていないんだね。……怒っているの?」
「圭一。早く言え。この件は分かった。就任おめでとう」
「ここに居てよー」

 お義父さんが部屋から出ようとしたから、慌てて押し留めた。恥ずかしくなったのか?怒った顔をして誤魔化している。深川さんが笑い出し、歴代の副社長の写真を眺め始めた。目を逸らしたなら、やっぱり泣いているのか。

 黒崎にも引き留めてもらいたい。振り返って呼んだ後、胸の鼓動が高鳴った。優しい顔をしている。今の表情を、お義父さんに向けたことがないと思う。見ているだけで胸が痛くなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...