上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 そういえば、深川さんからのアドバイスも同じ内容だったと思う。ここは受け流させて、喧嘩をやめさせておく方がいいだろう。

「黒崎さん。そう言うことだからさー。カステラを食べようよ。せっかくなのに、干からびるよ?」
「……さっきの内容は、俺の方から親父にしたアドバイスだ。反対だ」
「いいからさ~。お父さん、こっちに座ってよ。ミザワ亭のカステラだよ。一口サイズだから、ポイポイといってよ。美味しいよ~。黒崎さんもね、食べてね!」

 こうなれば、正しい方を決めずに流していこう。時間が経てば落ち着くし、甘い物を食べて話題を変えられる。お茶を注ぎ入れながら眺めると、お義父さんも黒崎も面白がっているのが分かった。いそいそと茶托から取って、ぐいぐい押し付けた。そう熱くない。

「お父さん。俺が淹れたやつだよ?飲んでくれないの?」
「是非とも飲ませてもらう。……ああ、美味しい。可愛らしい子だ。うちで育てた息子とは、大違いだ」
「そうだろうな。しっかりした家で育ったからだ。夏樹の方だぞ」
「……なんだと?」
「……言葉どおりだ」
「2人とも!やめろって!」

 お茶を奪い取り、茶托の上に戻した。少し零れた場所をふき取り、布きんを端に置いた。お義父さんのカステラをつまんだままの指先が落ちそうだから支えて、お互いの口元へ運んだ。

 お義父さんは素直に食べてくれたが、黒崎は意地悪そうに笑っているだけだ。さっきまで似ていた拓海さんの笑顔の行方を捜すふりをして、深川さんに助けを求めた。

「今も拓海君と似ているぞ?そういう顔をする青年だった」
「ええ?マジで?」
「圭一君には優しい兄貴でいたいから、嫌味を向けたことがないと聞いた。驚いたのか?ははは」
「……親父。本当なのか?」
「……その通りだ。お前の嫌味たらしさを誇りに思っている」
「……そうか」

 黒崎が静かになり、カステラを食べ始めた。一瞬だけ眉を動かしただけで平常心に戻ったが、俺の方を見ている。これはお仕置きだと囁きかけて、目を伏せがちにして名前を呼んだ。視線を向けて来ないから、布きんを取りながら、唇を尖らせて振り向いた。ちょうど小首を傾げるポーズになり、黒崎の眉が動いたタイミングで、上目遣いをして言った。黒崎が俺に弱くなる動作だ。

「黒崎さん。お父さんに謝ってね?」
「夏樹。これは両成敗だ……」
「ふうーん。そうは見えないけどね?どっちが先なのかはいいけどさ。お茶を飲まないの?……飲むんだね。取ってあげるよ。冷ましてあげる……。ふうー」
「……向こうに座れ」
「今週中、口を聞かないけど?」
「……許してくれ」
「それはどっちに対してなの?」
「親父、すまない。……夏樹。この部屋を出るまで、親父の隣に座ってくれ」
「いいよ~。お茶をどうぞ」

 しばらく使える手だと、心の中でガッツポーズをした。握りしめた布きんをテーブルに置いて、お義父さんの方に向き直った。そして、就任式に出てもらいたいと話しかけると、首を横に振られた。
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