上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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19-12

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 18時半。

 パーティー会場の孔雀の間では、パーティーが始まっている。この会場はジャズ祭典等のイベントに使用されているから、バンド演奏が出来る仕様になっている。すでに機材がセットされて、いつでも会場のステージに移動させる段取りが済んでいた。俺達TDDのメンバーは出番まで打ち合わせをやって、本番に備える流れになった。 

 久しぶり、今夜はよろしくお願いします。短い挨拶をした後、控え室の椅子に座ってメンバーと向かい合い、打ち合わせに入った。新メンバーのことで知りたいことは沢山あるが、終わった後で話をすることになった。

 TDDのドラムサポートは3人いて、今夜は原田さんが来てくれた。サポーターとして有名な人で、2つのバンドを掛け持ちしている。今夜も頼りにしている状況だ。久弥はプロデューサーとして、主催運営側との調整役も進めている。TDD側のスタッフが揃い、IKUからも到着した。

「打ち合わせ完了しましたーー。同時に音合わせも完了です。各パートの調整に入りまーーす!」
「了解しましたーー」

 打ち合わせ等が終わり、俺が今夜のスタッフ一同へ知らせた。普段は久弥の役目だ。誰が言うのか決めたわけではなく、ごく自然に分担ができて進んでいる。この時点で、メンバー同士の息が合うと思った。やりやすいはずだと、久弥がひと言だけ残して、後方支援へ入った。

 そばのモニター画面では、パーティーの様子が映し出されている。主催者や来賓の挨拶へ進み、新体制メンバーのお披露目に入った。深川さんと黒崎の挨拶スピーチは、打ち合わせ中に流れていた。

 今俺は、たまにモニター画面を見るぐらいしか出来ない程、気持ちが切羽詰まっている。緊張感だ。それに加えて、わくわくする気持ちもある。さらに、大和が楽しそうに笑い出したから、メンバーの緊張した空気が吹き飛んだ。

 ベースはドラムとは相方同士だ。原田さんに合わせてリズムを刻み、楽しそうに話している。おかげで、悠人の緊張感が一気に解けた。差し入れされた、お饅頭を食べられたからだ。さっき、大和が悠人の分を横取りした。

(悠人君、食べないのかー。いただきまーーす。おいしいっ)
(げえええっ。後に残していたのにーー)
(食欲が沸いたんだ。ありがとう) 

 メンバーに笑いが起こった。あんな笑顔を見せられた以上、ネガティブになれない。聡太郎は淡々としたペースを崩すことなく、時計の針のように佇み、安定した空気感を作り出した。打てば響きまくるのに、まったりしている。

 悠人が聡太郎と向かい合い、ギターの練習を始めた。悠人の両目からは、聡太郎と演奏できるという感激の涙が溢れ出し、それを拭いてやるのが俺の役目になった。

 そして、久弥とスタッフ、メンバーとの調整役をやっているから、大学の研究授業の錯覚を起こしそうだと思った。メンバーの能力をかき集めた後のレポート作成が、ステージまでの準備に変わったかのようだ。下書きをメンバーで見直して完成させた後、提出する。それが、今夜のステージということだ。

 ボーカルの練習には、羽音さんが付き添ってくれている。EDENと、80年代に流行った楽曲を披露する。女性歌手が歌ったもので、ほぼ全員の招待客が知っているから選ばれた。黒崎のことを誘惑するつもりで歌う予定だ。観客からの評判がいいからだ。今、羽音さんとその話をしているところだ。

「黒崎さんを翻弄する目的だよ。そう考えると楽になっただろう?」
「羽音さん。ありがとうございます。加湿器まで……」
「こんなことしか出来ないよ。EDENの後に、誘惑ステージか。黒崎さんは後方へ立っているから、招待客は、自分が誘惑されている気分になる。これで上手くいく。その本人は抵抗したんだけどね」
「嫌がったんですか?もう……」
「公開の誘惑だからね。帰るまで我慢できるかな?」
「それは大丈夫です。家でイチャついてきたので」
「はははは。引っかかったねーー!」
「ああ、それは……っ。うっうっ」

 毎度のように羽音さんの質問に引っかかっている。恥ずかしくて顔を隠した。
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