上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 するとその時だ。控え室から驚きの声が上がった。スタッフから、ステージの音響機材のトラブルが起きたと知らされた。聡太郎と並んでモニターの前に立った。パーティー会場だけではなく、そばにある部屋も映し出された。そこに機材を置いてある。

「直るのかな……」
「代替機材を用意してあるから、セッティング中だろう。ほら、見てごらん。舞台裏が映っている。ただなー、あんまり時間が経つと場がシラケるからね……。やりづらくなる」
「頑張ろうよ」
「うん」

 メンバー同士で励まし合っていると、久弥が控え室へ戻って来た。早瀬さんも入って来た。聡太郎の練習に付き添ってくれることになったからだ。

「30分以内には作業が完了する。その間に練習をしてもらいたい。なつきー、こっちへ……」
「……どうしたの?」
「このままだと、場がシラケる。黒崎製菓側とIKUで考えて、黒崎さんにピアノ演奏をお願いしたら、自分が目立つわけにはいかないからって、辞退された。でも、一番いい方法だ。説得してもらえないか?深川社長からも話をしているけどな」

 すぐに返事ができなかった。主役の一人とはいっても、招いた側、祝ってもらっている側だ。ここは正直に首を振ろう。俺が頼むと引き受けざるを得なくなる。

「ごめん。俺からは勧められない。引き受けるしかなくなるから」
「よーーし。よく言った!……嫌な顔をすると思ったのか?ここぞという時に冷静になれる、”NO” が言える奴がいい」

 とても嬉しい言葉なのに、喜んでいる余裕がなかった。アイデアを出し合う中、俺がアカペラで歌うと提案した。しかし、久弥からは反対された。TDDとして登場させたいからだ。その代わりに、久弥が即興ステージをやると言い出したから、それこそ、全員で止めた。

 そこへ、羽音さんが手を上げた。控え室のスタッフが、一斉にざわついた。アカペラのステージをやると提案されたからだ。それにはもっと頷けない。TDDの前座を務めさせることになる。

「みんなー、いいことを思いついたよー。時間を遅らせても、シラけないやつ!」
「……悠人、ええ?」
「ははははーー」

 悠人からの提案を聞いた後、ドッと笑いが起こった。メンバーが食べ過ぎでお腹を壊し、トイレから出て来れなくなったという口実だ。司会者からイジられた後で登場できる。そのメンバーになると言い出した。

「ステージに立たせてもらっているんだ。不義理なことは出来ない。それで上手くいくなら、かっこ悪さは吹き飛ぶよー。……腰痛とか怪我なら、心配かけるだろ?食べすぎなら笑うだろーー?立食パーティー中だけど……。久弥、やらせてよ!」
「そうか。よっしゃー、話し合って来る。練習を始めてくれ」

 OKが出るといいねと話していると、黒崎が部屋へ入って来た。背後にはグループ側のスタッフがいて、何やら話をしている。そして、俺達の方へやって来た。

「すまなかった。ピアノ演奏を務めさせてもらう。その口実を聞くと、拒めなくなった。……悠人君、気にするな」
「黒崎さん……」
「妙な意地を張っていた。久弥さん、打ち合わせをお願いします」
「了解しました」

 ドアのそばでは、深川さんが微笑んでいた。周りからは、安堵のため息が広がった。黒崎が俺の方を向いて苦笑した後、顎を持ち上げられた。

「夏樹。何て顔をしているんだ?主催者側として、前座を務めさせてもらう。いいな?」
「うん。ありがとう」

 周りから拍手が起きたから、黒崎が困って苦笑した。そこまで期待するとやりづらいと言いながら。

 俺の隣には聡太郎がいて、何かを話しかけた。口だけの動きで、その声は聞こえない。きっと仕事のことだろう。それに対して、黒崎が首を振った。

「今回の話を通しておいた。いい演奏をお願いしたい」
「ありがとうございました……」
「桜木君、夢を見たいのか?目を開けて見れば、夢じゃなくなる。一度諦めたものを、再開させるからだ。……いいな?」

 聡太郎が力強く頷いた。すぐに準備に入るからと、黒崎が部屋から出て行った。ありがとう。がんばろうね。頑張ってね。そういう意味を込めて手を振ると、とても優しい微笑みを返してくれた。

 大きな勇気を受け取った以上、もっと踏ん張っていこう。メンバー同士で肩を叩き合い、本番に備えた準備を再開させた。
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