上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
242 / 514

19-15

しおりを挟む
 まだスタンバイが続きそうだ。聡太郎が久弥のパートの練習を続けた。早瀬さんが付き添い、細かいズレを直した。これでよし。本人が笑顔になった後、ピアノ演奏が始まるアナウンスが流れた。

「なつきー。こっちから、黒崎さんが弾いているところが見えるよー」
「わあー、開けてくれたんですね!ありがとうございます」

 ロールスクリーンが天井まで上げられて、透明ガラス壁が現れた。照明効果で青色系に光ったり、暗くしたりするそうだ。黒崎がピアノの前に座っているのが見えている。

 すると、黒崎の身体が動き、演奏が始まった。スピーカーから旋律が流れ出して、嬉しさで気持ちが高揚した。10年以上先にならないと、ピアニストの道を再開させないと黒崎が言っていたそうだ。しかし、深川さんがフライングしろと発破をかけて、それに苛立って引き受けたのが、真相だと知った。すると、悠人が俺の隣に立った。

「かっこいいねーー。話したら駄目だよね?聴いてるところだから」
「いいよ、気にするなよ~。演奏風景を見るのがメインだからさ。ステージの位置が高いから、あんまり見えないね……」
「そうだ、いいことを思いついたよ!大和、来てよーー。学校の騎馬戦みたいに、夏樹を抱え上げて欲しいんだ。見せてあげたいから」
「面白そうだな!よーし!」
「いいよ、駄目だよ。怪我したらいけないから。わああー」

 さっそく大和がやって来た。あっという間に全身を持ち上げられた。大和が右足、悠人が左足側だ。疲れたら交代するぞとメンバーが集まり、お言葉に甘えさせてもらった。

 すると、ステージ照明が変化して、黒崎の顔がはっきり見え始めた。ヨロけないようにと、ガラス壁にすがりつき、その姿を応援した。 

「黒崎さんが、こっちを見たよ。分からないよね?だって……」
「げえええっ。映っているんですかーー?」
「ぎゃはははーー。大和からなら、モニター画面が見えるだろ?」
「はい!えーっと……。おおーー」

 ステージの照明効果が変わった後、俺たちの姿が丸見えになり、観客席から見えているし、モニターにも映っていることを知った。黒崎にも見えているはずだ。

「やばい!」
「わーーーー」

 急いで後ろに下がりかけた時、バランスを崩しかけて、壁にすがりついた。ここで落ちると、2人に怪我をさせてしまうだろう。必死で体勢を立て直していると、それを支えるために後ろに下がるという、悪循環が起きた。

「わあああー、下がらないでよ~っ」
「げえええっ。笑いが起きているよー。裕理さん!笑っていないで助けてよーー」
「このまま見ていろよ。余計に恥ずかしいからなー。演出ってことで。よいしょっと。ははは」

 大和が笑いながら、力を込めた。俺と悠人だけが慌てている状況だ。久弥が原田さんと笑い転げて、聡太郎がスマホで撮り始めた。微笑んでいるから怒れない。そして、早瀬さんがそばに来て、転ばないようにしてくれた。スピーカーからはピアノの旋律が流れて、観客からの笑い声も入っていた。

「黒崎さんが笑っているよ~。ひっく、うっうっ」

 ガラス壁の向こうでは、黒崎が笑いながら演奏を続けている。早瀬さんが支えているから、安心しているのだろう。そして、俺達に嫌味たらしい笑顔を向けた後、TDDの楽曲”resumption、再開” を演奏し始めた。普通に見ている時なら感激したのに。

「ぎゃははは。resumptionには、”帰着”の意味もあるぞー。スピーカーのセット完了だ。ヴォーカルを床へ帰着させろ!」

 久弥の言葉で、せーので降りようとすると、さらに笑い声が聞こえて来た。無事に床に降りた後、恥ずかしがる間もなく、ステージサイドへ向かった。

 俺たちが待機したタイミングで、EDENの旋律が奏でられ始めた。照明効果を使って観客から見えなくさせた状況の中、メンバーがスタンバイした。

 黒崎との初共演に感激し、こういう演出まで起こしたなら、もう開き直るしかない。出席者からの大きな拍手を送られて、ステージを交代した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...