上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 向かった先は、大きな噴水がある場所だ。アスファルト舗装の地面が広がり、ビルからの灯りに反射した水しぶきが輝く姿が見える。ここは暗いから、赤くなった顔を見られずに済んだ。そう思ったのに、ビルからの灯りで丸わかりになった。

 黒崎の肩を小突いて誤魔化して、ずかずかと歩いて行った。振り返ると笑っていたから、別の意味で顔が赤くなった。あの場を楽しんでいた様子だ。

「よっぽどのショックだったのか?外灯から遠くて見えなかった」
「楽しんでいただろ?除夜の鐘を小突いて来いよ~」
「だから連れて来なかった。社会勉強になったか?夜遅くまで外に出ているなという話だ」
「子供じゃないよ~。わざわざ選んでベンチへ座らせただろ?偶然じゃないよね?こういう状況だぞっと教えながら通ればいいじゃん。せめてもの方法だよ……」
「言い出すと聞かないからだ。これで、夜に来る気がなくなっただろう?」
「もちろんだよ。今日は楽しいから、もう言わない」

 噴水の周りを通り、夜の公園は静まり返って怖いということが分かった。黒崎が満足そうにしているのが引っかかる。そんなに子ども扱いをしたいのか。

 何も声をかけずに背後から抱きつき、強制的に背負ってもらった。すると、抵抗せずに立ち止まり、いくらでも抱きついておけと言い返された。

「いつ来るか決めたら降りるよ~」
「このままで構わない。自分から降りたら、置き去りにして帰る」
「いいよ。一人で帰るから」
「オバケが出るぞ?……真っ直ぐ歩いても、大通りに出られない。迂回した道になっている。さっきの場所を通るのか?古い建物があるぞ。窓に光が乱反射している」
「ここから通りが見えるから、迷わないよ。遠回りして歩くよ」
「帰れないだろう。荷物の中には、何が入っている?コンタクトレンズぐらいだろう?」
「うっうっ。現実を突き付けられたよ……」
 
 一人で出歩けないのが確定したようなものだ。黒崎と出かける時は荷物は身軽だ。スマホとコンタクト、ハンカチしか持っていない。効率の良さという盾の、黒崎からの誘導に流されてしまっている。

「今日は財布を持っているから帰れるよ。遊びに行く時も持つよー。何かの冗談かって、大和に笑われたんだよ。お付きの人に任せてある、大昔のお坊ちゃまみたいだって」
「浮世離れしておけ。それが持ち味になって個性的だ」
「都合のいい表現だよ。久弥から似たことを言われたよ。それでいいって。黒崎さんが俗世にまみれているから、バランスが取れるぞーって」
「さすがだ。的を得ている」
「俺、これでも頑張っているんだよ?コツコツと、顕微鏡をのぞいているんだよ?地質のサンプルとか、池の中のやつとか」
「興味があるからだ。やりたくないことを、頭ごなしに強制されたくないだろう?……俺は散歩する」
「一緒に行くよ。降りるよ。一人にしないだろ?」

 背負われたままで耳元で呟くと、くすぐったそうに首を振った。さらに続けようとしてやめた。ここで襲われたくないし、その可能性が捨てきれない。
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