上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
254 / 514

20-4

しおりを挟む
 午前10時。

 黒崎を連れて、駅の近くにある御園クリニックへ着いた。受付へ行くと、俺の方が患者だと間違われた。お馴染みさんだからだ。黒崎の方はいつものことながら、具合が悪くてもピシッとしている。周りが気づかないから損をしているだろう。本人はその方がいいと言っている。

 今、黒崎の代わりに問診票を書いている。細かいことを書いていると、ふらふらして気持ちが悪くなるかも知れない。そういうものだ。

「いつから具合が悪いですか?……昨日のお昼すぎ。熱は38.0。朝は37.5。どこが痛いですか?……心が痛い。食事はしましたか?何を食べましたか?……お菓子。……嘘だよ。うるさかった?」
「いや。和んでいる。個性的な字だな。うらやましい」
「サインを偽造できないレベルだもん。憧れるの?」
「その字を貫いている意思の強さだ。コンプレックスだと受け取らなかったそうだな?」
「うーん。そうでもないよ。すんなり読めたら楽だもん。どうしても直らなくって。黒崎さんの字が綺麗なんだよねえ。並べて書きたくない。これも嘘だよ~。違いが分かって好きだよ」

 黒崎圭一。名前だけは本人が書いた。習ったことがないというのに、癖のない字をしている。本人がクセのある人だから、ここでバランスを取ったのか。そこまで思いついて、自分を振り返った。クセのない中身だとは言えない。黒崎の方を見ると、笑われていた。どうも通じたようだ。

「気難しい性格の持ち主が一生懸命に書いたな。なるべく読めるように」
「そういう考え方があるのか~。ポジティブだね。言われた方は嬉しいよ」
「そうか……」

 普段と変わりなく笑っている。それでも、俺としては納得いかない。黒崎の心の中に詰まっているものがありそうだ。パーティーは楽しそうだった。大学時代の話の時も変わらない。何かあるとすれば、パーティーの前後だと思う。

「今日は具合が悪いから、週末に話を聞きたいよ。何が詰まっているのかな?って」
「詰まっていない。お前のことでしか悩まない。目の届かない場所で起こることに警戒している」
「大した事はないよね。のんびり座っているもん。だってさ、あんたが一番怖いよ。早瀬さんから聞いたよ。飲み会でも影口を叩けなかったはずだって。やり返されるのが分かっているから。もう少し様子を見ようかなんて、あり得ないよって……」
「相手を記憶するだけだ。急に強くなったな。俺が頼りないのか?」
「ううん。あんたがいるから怖くないだけ。対策を立てすぎだよ。うっうっ」
「……できる限りだ」

 今朝の学生ウェブサイトを見て驚いた。講演セミナーの予定表には、黒崎製菓と、R&W社の講師が載っていた。黒崎製菓は栄養素の学会発表をしているから、うちの大学と縁がある。新しい人材確保をしたいからと、大学へ出向くのは知っている。ワタベ電機は工学部へだ。去年よりも頻繫になったのは偶然だろうか。今、スマホでサイトを表示させて、もう一度見た。そして、雑誌を手に取った。黒崎のインタビュー記事が載っているはずだ。

「黒崎さん。あんたのことは分かっているよ」
「好きな事をさせてもらう。呼ばれた。おい、それは閉じておけ」
「ううん。写真だけでも見ておく。うへへ。電子版も買うよ。あ、それなら診察室に付き添うよ?見なくて済むから」
「行って来る」

 諦めて診察室へ行く後ろ姿を見つめた。ビジネス雑誌を広げて、彼のインタビュー記事を探した。これも早瀬さんから教えてもらった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...