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午前10時。
黒崎を連れて、駅の近くにある御園クリニックへ着いた。受付へ行くと、俺の方が患者だと間違われた。お馴染みさんだからだ。黒崎の方はいつものことながら、具合が悪くてもピシッとしている。周りが気づかないから損をしているだろう。本人はその方がいいと言っている。
今、黒崎の代わりに問診票を書いている。細かいことを書いていると、ふらふらして気持ちが悪くなるかも知れない。そういうものだ。
「いつから具合が悪いですか?……昨日のお昼すぎ。熱は38.0。朝は37.5。どこが痛いですか?……心が痛い。食事はしましたか?何を食べましたか?……お菓子。……嘘だよ。うるさかった?」
「いや。和んでいる。個性的な字だな。うらやましい」
「サインを偽造できないレベルだもん。憧れるの?」
「その字を貫いている意思の強さだ。コンプレックスだと受け取らなかったそうだな?」
「うーん。そうでもないよ。すんなり読めたら楽だもん。どうしても直らなくって。黒崎さんの字が綺麗なんだよねえ。並べて書きたくない。これも嘘だよ~。違いが分かって好きだよ」
黒崎圭一。名前だけは本人が書いた。習ったことがないというのに、癖のない字をしている。本人がクセのある人だから、ここでバランスを取ったのか。そこまで思いついて、自分を振り返った。クセのない中身だとは言えない。黒崎の方を見ると、笑われていた。どうも通じたようだ。
「気難しい性格の持ち主が一生懸命に書いたな。なるべく読めるように」
「そういう考え方があるのか~。ポジティブだね。言われた方は嬉しいよ」
「そうか……」
普段と変わりなく笑っている。それでも、俺としては納得いかない。黒崎の心の中に詰まっているものがありそうだ。パーティーは楽しそうだった。大学時代の話の時も変わらない。何かあるとすれば、パーティーの前後だと思う。
「今日は具合が悪いから、週末に話を聞きたいよ。何が詰まっているのかな?って」
「詰まっていない。お前のことでしか悩まない。目の届かない場所で起こることに警戒している」
「大した事はないよね。のんびり座っているもん。だってさ、あんたが一番怖いよ。早瀬さんから聞いたよ。飲み会でも影口を叩けなかったはずだって。やり返されるのが分かっているから。もう少し様子を見ようかなんて、あり得ないよって……」
「相手を記憶するだけだ。急に強くなったな。俺が頼りないのか?」
「ううん。あんたがいるから怖くないだけ。対策を立てすぎだよ。うっうっ」
「……できる限りだ」
今朝の学生ウェブサイトを見て驚いた。講演セミナーの予定表には、黒崎製菓と、R&W社の講師が載っていた。黒崎製菓は栄養素の学会発表をしているから、うちの大学と縁がある。新しい人材確保をしたいからと、大学へ出向くのは知っている。ワタベ電機は工学部へだ。去年よりも頻繫になったのは偶然だろうか。今、スマホでサイトを表示させて、もう一度見た。そして、雑誌を手に取った。黒崎のインタビュー記事が載っているはずだ。
「黒崎さん。あんたのことは分かっているよ」
「好きな事をさせてもらう。呼ばれた。おい、それは閉じておけ」
「ううん。写真だけでも見ておく。うへへ。電子版も買うよ。あ、それなら診察室に付き添うよ?見なくて済むから」
「行って来る」
諦めて診察室へ行く後ろ姿を見つめた。ビジネス雑誌を広げて、彼のインタビュー記事を探した。これも早瀬さんから教えてもらった。
黒崎を連れて、駅の近くにある御園クリニックへ着いた。受付へ行くと、俺の方が患者だと間違われた。お馴染みさんだからだ。黒崎の方はいつものことながら、具合が悪くてもピシッとしている。周りが気づかないから損をしているだろう。本人はその方がいいと言っている。
今、黒崎の代わりに問診票を書いている。細かいことを書いていると、ふらふらして気持ちが悪くなるかも知れない。そういうものだ。
「いつから具合が悪いですか?……昨日のお昼すぎ。熱は38.0。朝は37.5。どこが痛いですか?……心が痛い。食事はしましたか?何を食べましたか?……お菓子。……嘘だよ。うるさかった?」
「いや。和んでいる。個性的な字だな。うらやましい」
「サインを偽造できないレベルだもん。憧れるの?」
「その字を貫いている意思の強さだ。コンプレックスだと受け取らなかったそうだな?」
「うーん。そうでもないよ。すんなり読めたら楽だもん。どうしても直らなくって。黒崎さんの字が綺麗なんだよねえ。並べて書きたくない。これも嘘だよ~。違いが分かって好きだよ」
黒崎圭一。名前だけは本人が書いた。習ったことがないというのに、癖のない字をしている。本人がクセのある人だから、ここでバランスを取ったのか。そこまで思いついて、自分を振り返った。クセのない中身だとは言えない。黒崎の方を見ると、笑われていた。どうも通じたようだ。
「気難しい性格の持ち主が一生懸命に書いたな。なるべく読めるように」
「そういう考え方があるのか~。ポジティブだね。言われた方は嬉しいよ」
「そうか……」
普段と変わりなく笑っている。それでも、俺としては納得いかない。黒崎の心の中に詰まっているものがありそうだ。パーティーは楽しそうだった。大学時代の話の時も変わらない。何かあるとすれば、パーティーの前後だと思う。
「今日は具合が悪いから、週末に話を聞きたいよ。何が詰まっているのかな?って」
「詰まっていない。お前のことでしか悩まない。目の届かない場所で起こることに警戒している」
「大した事はないよね。のんびり座っているもん。だってさ、あんたが一番怖いよ。早瀬さんから聞いたよ。飲み会でも影口を叩けなかったはずだって。やり返されるのが分かっているから。もう少し様子を見ようかなんて、あり得ないよって……」
「相手を記憶するだけだ。急に強くなったな。俺が頼りないのか?」
「ううん。あんたがいるから怖くないだけ。対策を立てすぎだよ。うっうっ」
「……できる限りだ」
今朝の学生ウェブサイトを見て驚いた。講演セミナーの予定表には、黒崎製菓と、R&W社の講師が載っていた。黒崎製菓は栄養素の学会発表をしているから、うちの大学と縁がある。新しい人材確保をしたいからと、大学へ出向くのは知っている。ワタベ電機は工学部へだ。去年よりも頻繫になったのは偶然だろうか。今、スマホでサイトを表示させて、もう一度見た。そして、雑誌を手に取った。黒崎のインタビュー記事が載っているはずだ。
「黒崎さん。あんたのことは分かっているよ」
「好きな事をさせてもらう。呼ばれた。おい、それは閉じておけ」
「ううん。写真だけでも見ておく。うへへ。電子版も買うよ。あ、それなら診察室に付き添うよ?見なくて済むから」
「行って来る」
諦めて診察室へ行く後ろ姿を見つめた。ビジネス雑誌を広げて、彼のインタビュー記事を探した。これも早瀬さんから教えてもらった。
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