上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 アートや音楽の紹介コーナーを見て、ここにもお馴染みの人を見つけた。赤い髪の毛と、エスニックファッション姿で写っている。久弥だ。ディアドロップ時代に体調を崩した話題が載っていた。

「……“一番は母に感謝しています。手作りサンドイッチを用意してくれました。時間がない時でも、コンビニのサンドイッチを皿に盛り付けて、部屋へ持って来てくれたんです。元気になる、そう決めました。……母は今年で50歳です。腰が重くて旅行へ行かない。僕とは反対です”……」

 思い浮かんだのは、黒崎とママとの関係だ。2月から一度も話をしていない。ママの方から電話が入ったとは思う。今の状態のままいると、また波に押されて離れてしまいそうだ。ママには何かと優しくしてもらった。実家の母が倒れた時に駆けつけてもらった。黒崎には絵本をプレゼントされた。子供時代に呼んでいたタイトルだ。ママは覚えていた。

 今回の争いは、ママが二葉の話を全く聞こうとしないという事が発端だ。二葉が話そうとしないから、黒崎が話題を振って、話を組み立てて行った結果だ。誤解も入っただろう。

 積もり積もったものが溢れたとはいえ、自分の体を傷つける理由になるだろうか?23歳で社会人でもある。親とは距離が持てる。

 黒崎が命令だと言って黒崎家に連れて来たなら、やっぱり大きな理由がある。一人にさせられないのだろう。ここまで考えて振出しに戻った。

(これが駄目なんだってば。ニュートラルに。平常心。俯瞰する。俺は弟だけど、引いた立場で見守らないといけない……)

 軽く深呼吸を済ませると、開いたページに影が出来た。そこで、顔を上げずに耳を澄ませて移動場所を探った後、受付から声をかけられた素振りで立ち上がった。そして、5歩進んで視線を巡らせ、きょろきょろした。相手を確認するためだ。

「あれ?呼ばれていないのか。えーーっと……」
「……夏樹、おまたせ」
「なんだ~、黒崎さんか。不意打ちだね?」
「熱心に読んでいたからだ。気配を消していない」

 黒崎が軽く眉を寄せて立っていた。没頭するなということだ。背後に立たれた時の対処が上手くできたから、褒めてもらいたい。意地悪そうに笑われたからOKだ。

 黒崎から座るように促されて、さっき読んでいたインタビュー記事を開いて見せた。とっくに読んでいたそうで、お腹が空いたと言い出した。

「サンドイッチを食べたくなった」
「お昼ご飯に作るよ。スープご飯も作ろうか?鮭フレーク増量のやつ。怒るなよ~、前に俺に作ってくれた時、全部食べたじゃん。味が濃かったから、スープを増やして。うへへ。……これから点滴だよね?一緒に行くよ。ここに一人にするなよ。はいはい」
「そう掛からない。……泣かないでくれ」

 わざと泣きまねをして納得させた。呼ばれた処置室へ向かうと、ぱっと見て、俺の方が患者だと間違われた。今日は反対のパターンですと笑うと、えらく心配された。それだけ珍しいからだ。

 点滴がセットされた後、看護師さんが部屋を出た。30分程度かかるそうで、その間に何か話をしてくれと頼まれた。中途半端に寝てしまうと、かえって調子が悪いと言って。さっきの頁と、俺の様子を見ての事だろう。何でも聞くぞと促された。

「気が変わるぞ。早く話しておけ」
「えらそうな言い方だねえ。池の看板で見直したのに」
「帰った後で抱く。それでも構わないのか?」
「ここで言うなよ。……あのさ。ママのことで誤解をしたと思う」
「俺との2人で会う機会を作る。帰った後で、聞かせていない話をする」
「うん。リッターラグナの社名が載っていたよ。知らないから教えて欲しい」
「そうか。帰った後がいいのか?分かった。他には?」

 今はこれだけだと返すと、今週の献立の話題になった。ほっこりするねと笑い合い、俺の方が大あくびをした。
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