上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
268 / 514

20-18

しおりを挟む
 やっと落ち着いた会話になった。いや、黒崎の方は最初から波がなくて静かだった。頬をつまんだり、髪の毛をすくように撫でたりしている手のリズムは一定だ。俺のことを見つめている姿も。

 これから組み立てて行こうねと話した後、軽くため息をついていた。お義父さんとは時間の価値観が違うから、なるべく早く進めたいと言った。

「縁起が悪いのか?これで海外へ放り出せなくなった。お前はどうだ?」
「もちろん参加するよ。当たり前だよ~。黒崎家の一員としてね。絵本作家見習いの、黒崎双樹もね。TDDのナツキ。ソロ活動の黒崎夏樹。……あ、そうだ。うちの家には、お揃いの物があるね。気づいたんだけど」
「どんなものだ?」
「下の名前のことだよ。圭一は、土が重なっている。夏樹、二葉。樹と葉っぱ。あんたに支えられているよ。拓海、晴海。水が必要だもん。一貴さんだけ違うから拗ねるかも。……名字に川があるからOKだよ。うんうん。笑うなよ~」

 真面目に出した話なのに、肩を揺すってまで笑われたくなかった。気が抜けたと言うから、タオルケットで叩いた手を止めた。こうして居られない。真っ先に連絡を取る相手がいる。生まれて来なかったらという言葉を出さないでほしい。それを頼める。

「黒崎さん。二葉に連絡をしてもいい?あんたからして欲しいけど、恥ずかしいだろ?普段からしないもんね」
「……今日の夜、約束をした。大事な話を伝えたいと言ってある」
「よかった。俺のことは、蚊帳の外にしないつもりだったよね?」
「当たり前だ。先にお前に話すと決めていた。……二葉には嫌われている」
「そんなことないよ?あんたのことが好きだよ。伊吹お兄ちゃんから余計なことを教わっているもん。いかに兄貴を利用するかっていう技術だよ。あんたの気持ちは伝わっているよ」

 黒崎が伊吹にあることを頼んだ。二葉を弟子にしてくれということだ。本当に弟子にしろと頼んだことを知っている。うまく言えないし、導こうとすると強引な方法しか思いつかない。もう一人の弟のことは、島川社長に預けたと言ったそうだ。

 一貴さんは抑圧されて育った人だ。常に人と比べられて、心が分かれてしまった。最近、朝陽の受け取り方が変化しそうだ。黒崎は見抜く力があり、一番いい方法を選んでいるわけだ。力が足りないとは言ってほしくない。

「黒崎さんっ」
「どうした?」
「最近のあんたは、自信が無さすぎないかな?家族のことでだよ?苦手分野なのは分かっているけど、もっと自信を持って欲しい。フォローしながら話してくれたし、朝陽君だって良い方へ進んだよね?あんたは何も言わないけど。……あ、そうだ。下の名前のことだけど。土、植物、水が揃ったけど、光がないと育たないよ。朝陽君がいるじゃん。本当はかなり明るい子だと思う」
「お前の前では自信が持てない。そういう面のみだ」
「本音が出たじゃん。褒めてあげようか?」

 返事を待たずにタオルケットを被せた後、全身を包まるようにさせた。そして、抱きしめることで子ども扱いした。軽い力で抜け出せるのに大人しくしているのは、俺に甘えている証だ。けっこう良い気分になっていると、不意打ちで押し倒されてしまった。

「黒崎さん……。二回目は……」
「今日は控えておく。少し寝ておけ。疲れさせたようだ。顔色が悪い」
「平気だよ~。そうだ、ベッドで一緒に寝ようよ。夕方まで。何もしないでね?」

 眠ったら夢になるのかな。そんなことを心配しているだろうか。そのまま口にすると、微笑み返して首を振られた。さらに安心できて力が抜けた。寝転がっているアンを抱き上げた後、タオルケットを持って寝室へ上がった。夕方まで昼寝をするために。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

処理中です...