上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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20-19

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 18時半。

 こんなに熟睡したのかと、壁の時計を見て驚いた。4時間近くも昼寝したから、今夜は眠れないかもしれない。黒崎が居ないのに暑いのは、タオルケットに包まっていたからだった。もう一枚も掛けられている。

「黒崎さん、あんたは過保護だよ。冷えなかったけど。うんうん」

 クレープか餃子のようになっているから、吹き出して笑った。やることが徹底している。もぞもぞ身じろいで起き上がった後、ほっこりした。サイドテーブルに置かれたグラスには、ショウガシロップ入りの水が入っていた。そろそろ起きる頃だと分かったのか?

「すごいなあ。いつからこんなに気配り上手になったんだよ?ポットもセットしなかったのに……」

 この家で暮らし始めて、3年目になったことを、まだ話していない。今日のことは偶然だろうか?お義父さんのことを海外へ放り出すと言っていたのに、それが出来なくなったと言った。晴海さんの話を聞いて、さらに優しくなった気がする。

 ママ、晴海さん、お義父さん。それぞれの記憶を重ねていくと、黒崎が周りから愛されていたのが分かる。小学生の子に家の事情を話さなかったのは、不思議ではない。そうするだろう。ましてや体が弱かった。せっかく退院して来たのに、嫌な光景を見せたくない。

「拓海さんが一家を代表したのかな?毎日病室へ来てくれたんだし。……そういうことじゃないのかな?親が行くより、大好きな兄貴の方がいい。元気になるだろうって……。でも、黒崎さんはみんなに来て欲しかったのにって」

 またパズルのピースが合ったようだ。晴海さんが黒崎のことを叱っていた内容も理解できた。”お前は末っ子だから、甘やかされた”と言っていた。

「黒崎さーん。分かった事があるんだけど。いたたたーー」

 寝室のドアに足をぶつけてうずくまると、大きな声で名前を呼ばれた。一階のリビングの方からだ。なんて耳がいいのだろうと思いながら返事をした。すると、頭の上に影が落ちたから、驚いて後ろに倒れた。

「わあーー、いつ階段を上がって来たんだよ?怖いよー」
「何を言っているんだ?バルコニーに出ていたから、そう聞こえたんだろう。……珍しいのか?」
「うん。滅多に出ないじゃん。寝室からの眺めがいいし」
「そこから噴水が見える。お前に教えてやりたかった」
「そうなんだ?イメージがなかったよ……」

 さっそく立ち上がって廊下に出て、今度はうめき声をあげた。アンのおもちゃが散乱しているからだ。あちこちにボールが散乱し、人参、ナス、ハンバーガーのぬいぐるみも転がっている。

 黒崎がいるから嬉しくて、テンションが上がったのだろう。当の本人を探すと、奥の方で何かを引きずりながら、尻尾を振ってきた。あれはバスマットだ。

「黒崎さん。今、誤魔化しただろ?棚に置いてあったのに、どうやってアンが取り出すんだよ?」
「見上げていたからだ。転がりたいのかと思った。また洗えばいいだろう?ほら、行くぞ……」

 すでに日暮れになっているからと、急いでバルコニーのそばへ行った。そろそろ外灯を取り付けようねと話していると、この家に来て3年目だと教えてくれた。ちゃんと覚えていたのか。嬉しくなって、腕をぐいぐい引っ張って、バルコニーへの扉を開けた。
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