上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 6月8日、土曜日。午前5時半。
 
 今日は大学のイベントの日だ。天気がいい。庭に出ると湿気がなくて、涼しいぐらいだ。今朝は朝ごはんの支度をしていない。昨夜の帰りにメルティストアで買って来た、クラブハウスサンドイッチを食べるからだ。その代わりに、今朝は体術の練習をやっている。普段ほどではなくて、短時間の軽いものだ。今日に備えてやっておこうと言われた。

「もう一回、打ち込んで来い」
「よーーし。えいっ」

 黒崎と向かい合わせになり、右足を軸にして立った。そして、身体の力を抜きながら、左足で円を描くようにして、回し蹴りをやった。緩めのスピードだから、相手は避けられる。それが狙いだ。距離を取るためにやっている。この後ろが壁だったら、いきなり打ち込むしかない。体勢を整えると、黒崎が言った。

「背後に、もう一人いると思え」
「えーーい!」

 この回し蹴りの左足が着地した後、さっと走り出した。ほとんどダッシュだ。この時ばかりは走ってもいいから、遠くまで行った。そして、すぐに戻って来いと声をかけられて、歩いて戻った。これで練習が終了した。

 今日のことを話しながら玄関へ入り、汗が流れているぞと言われて、タオルで顔を拭かれた。軽く深呼吸をした時、左手首を軽く掴まれて引っ張られた。不意を突かれてしまったのか。

「こら、隙があるぞ……」
「うーん、失敗したー」

 これも練習のうちだと、ポンポンと頭を叩かれた。汗ばんだから、シャワーを浴びに行こう。黒崎の背中を押してリビングへ連れて行き、バスルームへ向かった。別の意味で襲い掛かられないように。

 その後、ダイニングテーブルで向かい合い、朝ごはんを食べ始めた。買って来たものを並べると、えらく買い込んできたと実感した。黒崎の前には、3種類のサンドイッチを置いてある。それをあっという間に食べ終えた後、珈琲を飲み始めた。この後、一緒に大学へ行くから急いだようだ。

「もっとゆっくりしてよ。せっかくの休みだし」
「大学内のカフェで休んでおく。裕理達が到着したそうだ」
「ええ?早いな~。8時半が合流なのに」
「ソクラテス食堂で、モーニングセットを食べるそうだ。土曜でも開いているんだな」
「今日から試験終了まで、営業時間が長くなるんだ。朝9時半までの限定セットだよ」

 来週末に一緒に食べに行こうと話したところだ。悠人のことだから、夏バージョンの4種類を食べるのだろう。どんなメニューだろう?早瀬さんからのメッセージに何か書いてあるか聞いてみると、笑い声が帰って来た。まさか完売だったのか?

「もう完売だったのかな?イベント運営があるし」
「いいや。悠人君が苦手な野菜しか、サラダバーに並んでいないそうだ。セロリ、細切り大根、水菜、ケール。他には……」
「わあー、見事に揃ったね。かぼちゃサラダがないの?今日だけなのか~。……あ、テレビで黒崎製菓のことをやっているよ。シャルロットキッチンの紹介。話題入りのコーナーだよ?」
「ああ。取材が来ていた。男子大学生ご用達だ。カレーチキン南蛮が売れている。嬉しいか?」
「もちろんだよ~。悠人にも教えるよ。大食いとしての意見も聞かせてもらったんだ。……もう一口食べるよ」

 今日の昼ご飯は、軽くつまむ程度になるだろう。南蛮漬けのチキンを食べた後、出かける支度を始めた。
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