290 / 514
21-16
しおりを挟む
午前8時。
大学に到着した。理学部棟までの道すがら、黒崎が、さり気なく手を繋いでくれた。俺に唇を引っ込めてもらいたいからだ。
天使や蝶々の羽を背負わずに済んでよかった。あれは黒崎の冗談であり、ここへ持って来た理由は他にあった。農学部が秋に開催するイベントに必要で、差し入れする為だった。たまたま聡太郎から話を聞いて、一貴さんに用意してもらったそうだ。全部で3つあり、コンパクトに折りたたんであった。
「色んなイメージの紙面があるもんね。何でも揃いそう」
「興味が出たのか?珍しい」
「うん。悠人がMIDSHIPのモデルになったから。観たくなるよ」
「ウサギ―の帽子を被らないのか?夏用が発売された」
「暑いから被りたくないよ。他の帽子にするよ」
去年のことだ。よく使っていたウサギーの帽子がネットで話題になり、人気が集まった。プラセルとトリンドランド遊園地が提携して、いろんなグッズを売り出している。今回は夏用の帽子が発売された。一貴さんから使ってくれと頼まれたが、大学4年生になったから躊躇する。
「それなら、和風グッズを身に着けたいよ。手ぬぐいを首に巻いてもいいよ。今日も使っているし。デザインを引き受けたから、また興味が出たんだ。新しいものを買うよ。……嫌がるなよ~。どこが変なの?汗とか手を拭くだけが、使い道じゃないもん」
「風呂敷包みはセンスがいい。だが、あの文字入りは似合わない」
「”商売繁盛“、”かき氷”。いいじゃん……。観光客が喜んでくれるし。住んでいる人が身に着けていないもん。イメージが沸いていいと思うけど。ああー、日下がいるよ」
理学部棟へ続く銀杏並木に、10個のテントが立っている。着々と作業が進んでいる中、あるテントの下がカラフルになっていた。そこに立っているのは日下で、浮かぶ風船づくりをしている。こっちから手を振ると、すぐに気がついて声をかけられた。
「おはようーー」
「おはよう。雨が上がったね。地面が濡れているけど」
「もう渇いて来た。その辺は通るな。八代が転んだ」
「大丈夫だったの?……着替えに行ったのか。後で声をかけるよ。……ええ、わあああーーー」
自分で口にしておいて、何かを踏んでバランスを崩した。ぐらっと視界が揺れた後、咄嗟に左足を後ろに伸ばした。おかげで尻餅をつかずに済み、近くから拍手が起きた。俺も自分に贈りたい。すぐそばに黒崎が立っていて、背中に軽く手を添えられていた。見上げると微笑まれた。
「上手くできただろ?すごいよね?」
「ああ。とっさに出来た。馬乗りになられずに済む」
「うん。日下、そんな顔をするなよ……。何があるか分からないから、練習しているんだよ。俺はトロいからさ~」
日下が笑った。心配そうな顔をしたままで。本当にいい奴だ。黒崎とは数えるぐらいしか会っていないから、初めましてといった感じで話し始めた。黒崎の方は知っている。日下が幼稚園に通っている頃に、何度も会ったそうだ。それを口にしたから、2人が笑い出した。
「さすがに覚えていません。どうしてその頃に会ったんだろう?叔父には可愛がられていましたけど……」
「幼稚園に行きたがらないから、R&W社の託児ルームに連れて来ていた。お母さんに頼まれたそうだ」
「……記憶があるような」
「……おじさんの後ろに隠れていたぞ。毎回だった」
「ははは、すみませんでした」
あんたが怖かったせいだろう?思わず口から出て来そうになり、飲み込んだ。意地悪をされたくない。
大学に到着した。理学部棟までの道すがら、黒崎が、さり気なく手を繋いでくれた。俺に唇を引っ込めてもらいたいからだ。
天使や蝶々の羽を背負わずに済んでよかった。あれは黒崎の冗談であり、ここへ持って来た理由は他にあった。農学部が秋に開催するイベントに必要で、差し入れする為だった。たまたま聡太郎から話を聞いて、一貴さんに用意してもらったそうだ。全部で3つあり、コンパクトに折りたたんであった。
「色んなイメージの紙面があるもんね。何でも揃いそう」
「興味が出たのか?珍しい」
「うん。悠人がMIDSHIPのモデルになったから。観たくなるよ」
「ウサギ―の帽子を被らないのか?夏用が発売された」
「暑いから被りたくないよ。他の帽子にするよ」
去年のことだ。よく使っていたウサギーの帽子がネットで話題になり、人気が集まった。プラセルとトリンドランド遊園地が提携して、いろんなグッズを売り出している。今回は夏用の帽子が発売された。一貴さんから使ってくれと頼まれたが、大学4年生になったから躊躇する。
「それなら、和風グッズを身に着けたいよ。手ぬぐいを首に巻いてもいいよ。今日も使っているし。デザインを引き受けたから、また興味が出たんだ。新しいものを買うよ。……嫌がるなよ~。どこが変なの?汗とか手を拭くだけが、使い道じゃないもん」
「風呂敷包みはセンスがいい。だが、あの文字入りは似合わない」
「”商売繁盛“、”かき氷”。いいじゃん……。観光客が喜んでくれるし。住んでいる人が身に着けていないもん。イメージが沸いていいと思うけど。ああー、日下がいるよ」
理学部棟へ続く銀杏並木に、10個のテントが立っている。着々と作業が進んでいる中、あるテントの下がカラフルになっていた。そこに立っているのは日下で、浮かぶ風船づくりをしている。こっちから手を振ると、すぐに気がついて声をかけられた。
「おはようーー」
「おはよう。雨が上がったね。地面が濡れているけど」
「もう渇いて来た。その辺は通るな。八代が転んだ」
「大丈夫だったの?……着替えに行ったのか。後で声をかけるよ。……ええ、わあああーーー」
自分で口にしておいて、何かを踏んでバランスを崩した。ぐらっと視界が揺れた後、咄嗟に左足を後ろに伸ばした。おかげで尻餅をつかずに済み、近くから拍手が起きた。俺も自分に贈りたい。すぐそばに黒崎が立っていて、背中に軽く手を添えられていた。見上げると微笑まれた。
「上手くできただろ?すごいよね?」
「ああ。とっさに出来た。馬乗りになられずに済む」
「うん。日下、そんな顔をするなよ……。何があるか分からないから、練習しているんだよ。俺はトロいからさ~」
日下が笑った。心配そうな顔をしたままで。本当にいい奴だ。黒崎とは数えるぐらいしか会っていないから、初めましてといった感じで話し始めた。黒崎の方は知っている。日下が幼稚園に通っている頃に、何度も会ったそうだ。それを口にしたから、2人が笑い出した。
「さすがに覚えていません。どうしてその頃に会ったんだろう?叔父には可愛がられていましたけど……」
「幼稚園に行きたがらないから、R&W社の託児ルームに連れて来ていた。お母さんに頼まれたそうだ」
「……記憶があるような」
「……おじさんの後ろに隠れていたぞ。毎回だった」
「ははは、すみませんでした」
あんたが怖かったせいだろう?思わず口から出て来そうになり、飲み込んだ。意地悪をされたくない。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる