上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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21-19

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 午前11時半。

 研究発表が開かれるのは、理学部棟の隣に建っているホールだ。今、午前中の部が終わった。俺達スタッフは、午後から開催される発表会の来場者への案内が終わり、受付の周りが落ち着いた。午後からの部へ来た人たちがパンフレットを受け取り、また外へ出て行った。その案内と見回りやっているところだ。

 俺の左手には、浮かぶ風船を持っている。”見回りスタッフ” という紙を貼り付けてある。これが便利なアイテムになり、午後のメンバーにも、一人分用意することになった。

「ナツキ君、頑張ってくださいねーー。EDEN、大好きです!」
「ありがとうございますーー。握手ですか、喜んで!」

 たまにこうして声をかけられて、握手をしている。悠人の方は男の子が多いから、本人が面食らっていた。どうして女性が来てくれないのか?と。

 今は持ち場を離れている。八代が足を痛そうにしていたから、悠人ともう一人とで、保健センターへ連れて行った。そして、診てもらったら強く打っていたから、帰ることになり、お兄さんが迎えに来た。ここの工学部の院生であり、たまたま研究室へ来ていた。

 外で転んだ時から、だいぶ経っていた。我慢せずに話して欲しかった。八代は3年生に上がるまで、誰とも話したことがなかったそうだ。授業中以外では。ここでは話すようになったが、本人にとっては、まだ人との間に壁があると言っていた。話すと面白い子なのに。

「黒崎君。午前チームのミーティング、30分後だよー」
「りょーかい」

 これから出入口あたりの見回りを始める。外に出ると、いっそう賑やかな話し声が聞こえて来た。学食ゾーンから出店を通ってきた人が、かき氷の列に並んでいる。屋内にもジューススタンドがあり、休憩している人が多かった。コンサート会場を思い出す。

 さっき無線イヤホン越しに、本部スタッフの森本から報告が入った。午前の部が終わりに入ったという。この近くでは、来場へのパンフレットを渡している。ノアが来場者を案内しながら、無線で報告している声が聞こえて来た。

「こちらへどうぞー、真羽くーん、誘導をお願いします。10名です」

 見回り役が持ち場を離れるからと、ノアが案内役メインをやっている。”ノア助け舟”のニックネームどおりにスムーズに進み、一か所に来場者が固まっていない。日頃からやっていないのに凄いと思う。

(さすがだな。会場へ誘導するのが上手だった。向こうへ伝達するのも……)

 コンサートの準備段階や、当日の光景を思い浮かべた。さっと見回して、人の流れが落ち着いたことと、移動することを本部へ報告した。

「……黒崎です。ホール……完了、入口の階段周辺へ移動します。問題なし。はーい、了解しました。……真羽、おつかれさま」
「さすがだなーー。コンサートをやっているもんな」
「ノアがすごいよ。それこそ、コンサート会場を見ているみたいだった。……あれ?神仙教授のコーナーに、誰かが入ったよ。初めてじゃないかな?」
「おおーー、島川社長じゃないのか?ああ、違うな。一緒に来ている人だ。藤沢君だろう?」
「ほんとだ。どうして教授に……」

 神仙教授のデスクのそばには”相談コーナー”と表示しているし、ここの学生以外でもOKだと書いてある。よく見ると、一貴さんが戸惑いながら付き添っている。気になるのに、今は様子を見に行けない。
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