上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 R&W社では、真羽がインターンを続けている。話し上手な社員ばかりだと、プレッシャーに感じているそうだ。グループディスカッションの授業が役に立たなかったと落ち込んでいた。

 大学院卒業の人が圧倒的に多いから、自分も院へ進学しようか?と迷いが出て来て、焦ってもいるそうだ。全部ひっくるめると、口下手の人には、やりづらい環境だという事だ。

 黒崎が俺の様子を見て笑ったから、何を考えているのか見抜いているのだろう。そして、俺の方から話すのを促している。微笑みひとつで。ざわざわした中にいるのに、ここだけ空気が変わった。

「ビックリしたんだ。意外どころか……。人に会う機会が多いよね?あの真羽でも面食らって、やっていけないかもって落ち込んでいるよ。知識も経験も大きな差があるし、これから育って行くって思ったけど、歯が立たない。そこまで言っているんだ。……ミーティングの時に意見を出したら反応が悪いし、学生が言っていることだから、レベルが高くないから恥ずかしいって。……理由があるんだ。経済学部の子がインターンをやっていて、意見を出せているそうなんだ。O大の子は、最初から自然にチームの輪に入れていたそうだし。……子供じゃあるまいし、こういう事で悩むことすら、恥ずかしいって言っていたよ。もっと話してもいい?」
「ああ、構わない。聞かせてくれ」

 ひと言も挟むことなく聞いてくれた。”それは違う、思い込みだ。だからそうなる”。こういうフレーズが、一切出されないから話しやすい。ひと通り話し終わると、笑い声を立てられた。それにも安心できた。

「真羽君には担当の社員がいる。何か話があったのか?」
「何も言われないって聞いたよ。落ち込む要因の一つだよ。注意すらされないからって……」
「注意するものが無いからだ。挨拶と立ち振る舞いが身に着いているんだろう」
「そっか。それを聞いたら、本人が安心するよ。自然にやっているからだね。聞き役になっているってことかな?……うちの大学は、人の話を聞かない学生が多いって評判なんだ。先輩からボコボコにされるそうなんだよ」
「全てじゃない。O大出身者はOBから可愛がられ過ぎている。それをやめさせる為に、R&W社で人事異動をやる。……伊吹君の社員育成手法を意識したようだ。聞きたいか?」
「うん。聞きたい。怖くないよ?」

 今はそうしたい。黒崎が肩を揺らして笑い出した。今から2年前のことだという。ブロッコリー社に、うちの大学の学生から入社エントリーされた際のことだ。有望な人だから入社してほしいのに、わざとこう話したそうだ。"新人を育てる費用と、時間の余裕がない。後輩には苦労をかけたくない。……それでも、僕と分かち合いたいのか?いいのか?有望な企業を選びたまえ。……そうか。選んでくれたのか。ありがとう!”と。

「その結果、その後輩をこき使って、業績アップができた。新人育成にも長けていることも評判になった。多方面でも有名になった。……真羽君には、R&W社でやって来いと言った。何か理由があるはずだ。……口下手の学生を歓迎する意味は分かったか?」
「聞き役になれる人を探している。そういうことかな?」
「その通りだ。その方針を取った。5年計画で育てていく。発想が豊かなタイプが多い。外に出さない分、本人の中で温めている。……八代君が面白い」
「どうして?就活していないよ?」
「研究内容だ。うちの開発部が声をかけたそうだ。……断られたがな」
「博士課程までいきたがっているよ。研究機関へ就職志望だよ」
「そうか。うちは人気のない企業だな」
「笑っているじゃん」
「興味を持たない学生に会いたい」

 そういう見向きもしてこない学生を、ターゲットにしているそうだ。社員として育てて行けば、会社全体のスキルアップになると考えている。

 この話を聞いて、相づちを打つことも忘れた。カッコいいということか?しかし、それを口に出してはいけない。そんな気がした。
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