上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 真面目な話をしているのに、顔が熱くなった。黒崎が微笑んでいる。俺は思っていることが口に出来た。大人と子供っぽさのある俺との違いだ。黒崎から引き出された。彼のこういう面は知っているし見て来たのに、どうもきまりが悪い。かなわなくて悔しいという気持ちがなくて、憧れの思いに近い。このまま黙るのはやめておく。ます恥ずかしさが増すだろう。

「うん。人気企業だけど、研究したい学生にとっては……、魅力がないってことで。お菓子の方はって……。研究室があるし、学会での評価もある。それでも……」
「ボコボコだな。CMを数多く打って来たし、番組スポンサーも多いぞ」
「研究に代えられないものがあるよ。真羽は物理学の……、このまま大学で続けたいのかな。ごめんね、話が逸れた」

 今度は話がループ状態に陥った。視線を上げると、軽く首を振られた。こういう話をしていなかったから、いい時間だなと言われた。俺の方は胸がきゅんとして居心地が悪くなり、支援室の方へ逃げた。

(なんだよ。仕事モードなのに優しい。副社長モードかな?いいな……)

 ここへ来る時の車の中で、ああいうことをするからだ。どうでもいい事を思いめぐらせて、とりあえず離れた。そこへ、風船が部屋の表示板に触れて、黒崎が引き寄せた。

「どうした?風船が引っかかるぞ。こっちに来い」
「さっきの話だよ。カッコいいことを言うなよ~。すけべじじいのままがいい」
「たまにはいいだろう?苛められてばかりだ」
「そんなことないよ。尊敬しているよ?頼りになるし、優しいし。いつも大変なのにさ。自分のことを後回しにしてて、ピアノを弾くのが自分の時間。そんなに長くないよね?」
「それで構わない。そうしたいからだ。……絡まるぞ」
「うん……」

 どきん。胸の鼓動が跳ねた。風船の紐がねじれたから直してくれた時、黒崎の手先が耳へ触れた。俺の方だけ動揺しいる。

 ふいに肩を抱かれて、出入口へ連れて行かれた。そこには悠人が待っていて、きょとんとした顔をしていた。どうしたんだよ?と。

「心配されている。理由を話せ」
「なつきー、締まりのない顔だよ。ノロケなら、ひと言だけ聞くよ」
「……黒崎さんが、かっこいい発言をしたからだよ。そんなに見るなよ。何か言ってよ。恥ずかしいよ。うへへ、たまにはって、ヒョーー。……黒崎さん?」

 肩を叩いたつもりが、すかっと空振りしかけた。また素っ気ない人に戻ったのかと視線を向けると、テントの方向を眺めていた。懐かしいと言っている。

 悠人の方は、本部へ連絡し始めた。このまま待っていると、ノアの姿を見つけた。ジュースを飲みながら、真羽と話をしている。普段通りの光景なのに、ノアのことで気になる部分を見つけた。ここを通っている人の流れを眺めながら、瞬きを繰り返している。

(黒崎さんみたいだなあ。人の顔を記憶しているのな?)

 テントの方へ視線を戻した時、ノアから声をかけられて驚いた。俺の方を見て微笑んでいる。

「夏樹くーん、バレたみたいだね?」
「……ど、どんなことを?」
「瞬きしていたことだよ。ここへ来ているかも知れない人を探しているんだよ。知り合いが困っているんだ。デートの誘いが、しつこいからって。どんな人か見ておきたい。俺達が警戒している奴とは、別人だと思う」
「そうなんだね。ビックリしたよ」
「ははは、ごめんねーー」

 ノアが笑った後、瞬きを再開した。その姿を見て、新しい一面を知った。黒崎から教わった身のこなし方と同じことをやっている。背後に立たれず、一定の距離を持っている。こういうざわついた場所では、けっこう難しいのに。
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