上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 ああやって探しながらも、俺の事が視界に入って気づいた。その間も視線が向けられずに、いきなり声をかけられた。まるで黒崎のようだ。んん?という仕草もないままだった。俺の方も普段から体術をやっていることを知っていたのか。きっとそうだろう。

 ノアを振り返ると納得した。立ち止まることが無くて、常に動いている。元気であり、穏やかな子だという印象が変わったのは、もっと前からだ。俺からすると、冷静なのに静かではない子だ。そして、すごく優しいことも分かった。

(俺はどうかな?自然にやれているかな?日下の反応を見ると違うかな……)

「黒崎さーん。ノアが、瞬き記憶法をやっているよ。人を探しているパターンだよ」
「……驚いていないのか。さすがだ」
「あんたで慣れているよ。ビックリすることだらけだし。……どうしたの?大人しいね」
「ここではやらない。おいで」

 一歩下がって警戒すると、早く来いと言いながら手を握られた。この振る舞いが素敵に感じて、胸がドキッとした。今日はどういうことだろう?

「見直したのか?今夜に期待しておく。……こら、しっかり持っておけ」
「あんたが持っていてよ。ウサギー風船。いたたたーー」
「だから放っておけない。……足元を見ておけ」

 黒崎が立ち止まり、人の少ない方へ促して来た。これはエスコートというものだ。大歓迎する。明日まで続けばいいのにと願った。今夜に期待するのは、俺も同じだ。紳士的なイチャつきになるはずだ。

「うへへ。優しいね。今日は記念日なのかな?思い当たらないよ。明日は、我が家の畑づくり記念日だよ」
「悠人君が作った楽曲を歌った日でもある」
「うんっ。俺が歌詞をつけるって決めたんだ。やっぱり、今日はいつもと違うよ」
「……そんなに普段がひどいのか?」
「いつも優しいよ。ほんとに。……佳代子さんから聞いたんだけど。あんたの評判が変化したんだってさ。……素敵な男性に成長した息子さんっていう反応は同じだけど。……どんと構えている人がいるから安心できるわ。うちの近所が。圭一君が見回りするわけじゃないけど、何かあっても大丈夫。いざとなったら動いてもらえる。お兄さん達もいるしって、言っていたよ」

 黒崎の内面をメインで見られるようになった。晴海さんを優しい人だと言われている事と、一貴さんの面白さが評判になった話もした。すると、手を握り直された。

(何も言わないなあ。照れているのかな?うへへ……。あ……)

 いつの間にか悠人がいた。俺達を見て、仲がいいのは良い事だよと、感慨深げに頷いていた。今日に限ってイジって来ないのか。なんだか恥ずかしくて、顔が熱くなるのが分かった。

「ふむふむ。先に行っているよ。ソクラテス食堂の向かいの新しい店。スコーンがあったよ。お邪魔だからねー」
「悠人君、一緒に行こう。この子のお守りをしてやってくれ」
「黒崎さん、甘いムードを壊さすなよ~。離れているよ」
「こっちに来い」

 肩を引かれて抱き寄せられて、顔を覗き込むような仕草をされた。意地悪そうに笑っている。からかって遊んでいたのか?このまま見つめ返した。

「なんて顔をしているんだ。直らなくなるぞ」
「ふん……。な、なんだよ」

 黒崎が苦笑した。そして、引っ込めておけと言いながら、唇全体をつまんで押された。急に甘いムードが復活したから、照れくさい。風船の紐をグイグイ引いて、何とか心を落ち着かせた。
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