上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
303 / 514

21-29

しおりを挟む
 黒崎が3人へ声をかけた。君たち、すまないがと。さっと彼らが一貴さんに挨拶した後。向こうへ歩いて行った。まだ俺の方を気にしている。後ろには誰もいないから、やっぱり俺のことなのか。何度か息を吐いた。頭を冷やさないといけない。

「ごめんね、強い言い方をした。お兄ちゃん、みんなも」
「夏樹、そう沈むな。今に限った事じゃない。おかげで話が落ち着いた。一貴、あの話だが……」

 黒崎と一貴さんが話し始めた。悠人がTシャツを見つめて、ため息をついた。なかなか踏ん切りがつかなくてと、つぶやきながら。夏樹。君にはお見通しだねと言われた。

 今は悠人のことを考える時だ。森井さんからの話は、悠人とは直接関係ない。あくまでもプラセルの社長との争いと、黒崎家の一員だから話がきた。不安を抱える原因が、全て森井さんだとは考えてはいけない。久田さんが、子供時代の悠人に向けた言葉がある。本人と悠人から聞いた。

(どうして他の子のように出来ないんだ?恥ずかしい、みっともない。どうしてこんな事しか出来ないんだ?って……)
 
 悠人はクリアしたと話している。しかし、方向音痴だと周りに言えなくて、迷子になるのが怖くて、何度も事前に調べている。それを周りに話したら、迷うことが減った。失敗しても平気だと分かったから、安心して迷子になろうとしたのに。不安は一つじゃない。今の状況も心配をかけている。
 
「……一貴、あの話のことだ」
「ああ、悠人君。そのTシャツを脱げ」
「カズさん、どうして……」
「……一貴が藤沢君へ話していた件だ。モデルを辞退する際の気持ちを教えてもらっていた。……夏樹、悠人君を落ち着かせてくれ。蚊帳の外じゃない、いざという時に動いてもらうためだ」
「うん」

 すぐに悠人の背中に両腕をまわした。一貴さんが悠人の方へ、Tシャツを脱げというジェスチャーをしてきた。そして、黒崎がカフェのある方へ振り向いた。早瀬さんと聡太郎が歩いて来ている。

「早瀬さん達が来るよ。聡太郎君が笑っているよ」
「なつきー。片方は鬼だよーー」
「あれ、聡太郎君が来ない……。向こうへ行くみたい。どうしたのかな?行ってきますって」
「……知り合いが来ている。先に約束していたそうだ。あとで戻って来る。……悠人君。一貴へ任せておけ。仕切り直して、来期の契約を結び直せ」
「最後までやります!その上で、次は断ります。……ええ?裕理さん。脱がさないでよー」

 悠人が怒った顔をして、余計な事をするなと言い出した。たまに拒みながらも意見を聞いているが、今日ばかりは受け入れないぞと、悠人が首を振った。

 早瀬さんの事を睨みつけている。安心して反抗出来るからだと思う。俺達にも見せている顔だ。絡み合ったものを解きたい。

「これは脱がない!」
「今日は着替えを持っていない。帰った後で脱ごう。約束してもらいたい」
「いやだよ……」
「じゃあ、夏樹君の分を借りよう。今日はそうしよう」

 話し方こそ優しいが、見たことがないぐらいに厳しい表情をしていた。早瀬さんが肩から掛けているバッグからは、青い生地が見えている。代わりのTシャツだろう。俺の方を着てもらいたいから、黙っておこう。

「悠人、いい子の仮面を外せ。君こそ被っている。知っているんだぞー?」
「二曲目が出た後で外すよ。Tシャツも。いいタイミングだから……」

 悠人が俯いた。また決心が鈍る。今の状況では、これしか思いつかない。自分のトートバックから、着替えを引っ張り出した。悠人が嫌だと言っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...