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退職願いという名前ではないのが不思議だ。もうすでに決まった後だからだろうか?日付のみが空欄になっているのは、まだ正式に決定していないからか?ジーンと感慨深くなりながらも、現実的なことを思いめぐらせる心の余裕がある。
「あれこれ考えて感動しないよ。冷たい?」
「いいや。動揺しているようにしか見えない。初めて見る書類だ。インパクトがあったか?」
「うん。どうして退職届なの?」
「黒崎製菓としては、“本人からの一発目の意思”を強調してもらいたい。社としては働いてもらっている立場だ。その上で引き留める。その後で、退職願いを出してもらう」
「枝川さんが教えてくれたことがあるよ。3年目ぐらいでやめたくなる人が多くて、もう一回やってみないか?って、引き留める。それで自信が出て、会社に戻る人がいるよって……」
「ああ。褒めておだてて、社として都合よく進めている。自信が出れば、もっといい仕事をする。どちらにとってもプラスになる」
「素直に言えばいいのに。俺の前では。そんなに自分を貶めるなって言いたいんだろ?」
「……やりたいことが決まっているなら歓迎できる。それ以外なら一旦は戻らせる。社の評判を落としたくない」
シートベルトを締める音がした。ここで話は終わりだという合図だ。でも、今夜は違うようだ。特別感のある予感がした。もう一歩踏み込んだ話をしてくれそうだ。俺には知ってほしくない現実の内容だ。
「……精神的なダメージがあるなら、グループ内企業を勧めているんだよね。実家の近くとか、そこまで離れていない会社とか」
「……ああ。それはそれで上手くいかない。本社に近いポジションで勤務していた社員が行くと、現実を知ることになる。プライドが傷ついている。周りからの目を気にしてのことだ。……せっかくの大企業を辞めた息子や娘を受け入れられない親がいるそうだ。それを無視できない性格の若い社員がいる。……そういうプライベートな事も、上司から話をさせている」
「うちの両親が少数派なのかな?お兄ちゃんが大学を休学する時、応援したんだ」
「そうは聞いていないぞ?ばかやろうと言ったそうだ。続きがある。聞きたいのか?」
「ええ?どっちが言ったの?お父さんの方?」
「その通りだ。……メディアへの仕返し目的ならやめておけと。有名になって、意のままに操りたいと思っていたそうだ。それを3年間、何度も言われたそうだ。……さあ。この話題はおしまいだ。マリーズカフェへ寄っていくか?明日食うなら、ドーナツを好きなだけ買え」
「うんっ。そうするよ。……一貴お兄ちゃんの分はいらないね。藤沢と出かけたし。うへへ、いい感じだった?見ていないんだよ~」
黒崎が軽く首を振った。笑っているのに、何も教えてくれそうもない。少しは藤沢の気持ちが和らいだと思う。どうしようもなくて、それでも好きだという気持ちが大きいのなら、通じ合うだろうか。きっと通じ合うなんて言えない。なんせ、一貴さんが相手だから。
(運転したらどんな感じかな?真羽みたいに……)
黒崎のハンドルを切った姿を眺めた。真羽が運転していたのがカッコよくて、羨ましくなった。すると、黒崎から意地悪そうに笑われた。
お前はやめておいてくれと言い切られた。自覚していると言い返しておいた。そもそも車好きではない。このゆりかごのような空間で移動していたい。
「あれこれ考えて感動しないよ。冷たい?」
「いいや。動揺しているようにしか見えない。初めて見る書類だ。インパクトがあったか?」
「うん。どうして退職届なの?」
「黒崎製菓としては、“本人からの一発目の意思”を強調してもらいたい。社としては働いてもらっている立場だ。その上で引き留める。その後で、退職願いを出してもらう」
「枝川さんが教えてくれたことがあるよ。3年目ぐらいでやめたくなる人が多くて、もう一回やってみないか?って、引き留める。それで自信が出て、会社に戻る人がいるよって……」
「ああ。褒めておだてて、社として都合よく進めている。自信が出れば、もっといい仕事をする。どちらにとってもプラスになる」
「素直に言えばいいのに。俺の前では。そんなに自分を貶めるなって言いたいんだろ?」
「……やりたいことが決まっているなら歓迎できる。それ以外なら一旦は戻らせる。社の評判を落としたくない」
シートベルトを締める音がした。ここで話は終わりだという合図だ。でも、今夜は違うようだ。特別感のある予感がした。もう一歩踏み込んだ話をしてくれそうだ。俺には知ってほしくない現実の内容だ。
「……精神的なダメージがあるなら、グループ内企業を勧めているんだよね。実家の近くとか、そこまで離れていない会社とか」
「……ああ。それはそれで上手くいかない。本社に近いポジションで勤務していた社員が行くと、現実を知ることになる。プライドが傷ついている。周りからの目を気にしてのことだ。……せっかくの大企業を辞めた息子や娘を受け入れられない親がいるそうだ。それを無視できない性格の若い社員がいる。……そういうプライベートな事も、上司から話をさせている」
「うちの両親が少数派なのかな?お兄ちゃんが大学を休学する時、応援したんだ」
「そうは聞いていないぞ?ばかやろうと言ったそうだ。続きがある。聞きたいのか?」
「ええ?どっちが言ったの?お父さんの方?」
「その通りだ。……メディアへの仕返し目的ならやめておけと。有名になって、意のままに操りたいと思っていたそうだ。それを3年間、何度も言われたそうだ。……さあ。この話題はおしまいだ。マリーズカフェへ寄っていくか?明日食うなら、ドーナツを好きなだけ買え」
「うんっ。そうするよ。……一貴お兄ちゃんの分はいらないね。藤沢と出かけたし。うへへ、いい感じだった?見ていないんだよ~」
黒崎が軽く首を振った。笑っているのに、何も教えてくれそうもない。少しは藤沢の気持ちが和らいだと思う。どうしようもなくて、それでも好きだという気持ちが大きいのなら、通じ合うだろうか。きっと通じ合うなんて言えない。なんせ、一貴さんが相手だから。
(運転したらどんな感じかな?真羽みたいに……)
黒崎のハンドルを切った姿を眺めた。真羽が運転していたのがカッコよくて、羨ましくなった。すると、黒崎から意地悪そうに笑われた。
お前はやめておいてくれと言い切られた。自覚していると言い返しておいた。そもそも車好きではない。このゆりかごのような空間で移動していたい。
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