上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 車が歩道へ出た直後、ビル群からの明かりがまぶしくて目を閉じた。信号待ちだ。黒崎の身体が動いたから目を開いた。後部座席に置いてあったストールを取ってくれていた。久弥から貰った紺色系のものだ。

「……暑くないだろう?頭から被って寝ておけ。ドーナツは買っておく」
「ありがとう。好みが分かっているもんね」
「いいや、店の方が好みを覚えている。ああいう顔をして、ショーケースを眺めているからだ」
「ふうん。ナツキが変な顔をして選んでいるんだろ?コンサートの時、観客からイジられたよ。いいよー。だって、美味しそうだもん。……ああー、ソフトクリームが発売しているんだった。……開発部で聞いよ。マリーズカフェが自社で作らないで、今度から黒崎製菓へ委託するんだ。知っていたよね……」
「ああ。家で試作品を食べていたぞ?あのミルクサンプルだ」
「ええーー?あれだったの?うっうっ。オフィスで作っていたんだよ~。ソーダのアイスを食べた後だから、やめておいたんだ。……行こうよ」
「そう急かすな。すっきりミルクの分を予約してある。一個だけにしておけ」

 信号が変わろうとしているタイミングで歩道の方へ視線を向けると、プラセルのMIDSHIPの店が見えた。

 ショーウィンドウにはモデルの姿がなく、デザイン文字のポスターが展示されていた。悠人バージョンに再開するのは、冬前になると聞いたところだ。

「へえ。こう書いてあるね。……Welcome to get lost. 迷子を歓迎します。……悠人のことを呼んでいるのかな?おーい、こっちだよーって」
「そうに違いない。一貴も迷子だった」
「うん。再開、帰着したよね。新しい場所だったね。……あのさ。二葉からラインが入ったんだ。行かせてもらおうかなって。もう一押しだよ」

 どうしてここまで海外へ出そうとしているのだろう。2週間プラス移動日数からすると、なかなか行けるチャンスがない。グアムやハワイなら日本人が多いだろうから、もっと気楽に行けるだろう。気晴らしなら、それがいい。

「どうして遠くへ行かせるんだよ?まずは近場からって思うよ」
「もっと離れた気になれるからだ。あの子は着地点がないまま来ている」
「8月24日の誕生日までに帰って来るよね。プレゼントを用意しているよ。かつ丼づくりセットだよ。いい物を、スタッフさんから教えてもらったんだ。……24歳おめでとう!って、お祝いしようよ。2歳年上には見えないよ。もっと上に思えるんだ」
「そのことで話しておくことがある。今更だが」
「ええ、な、なに?」
「……二葉は今年25歳になる。最初に通った私立高校を退学した。……学院だ。聞いたことがあるか?その後で地元の高校へ入り直した。いや、いじめは受けていない。最初から開明高校を受験すればよかった。お前とは仲がいいわけだ」
「開明なら納得できるよ。……学院って、いわゆる敷居の高いっていう、お嬢さま学校だよね?他にも県外の学校があるのに」
「本人が話すまで待ってやってくれ。25歳として祝ってくれないか?」
「うん、約束するよ。悠人にも話しておくよ。佳代子さんと絵里奈ちゃんにも」
「ありがとう」
「なんだよ……。かしこまって。いたたた!いじめっ子兄貴だねえ。あんたも迷子だったんだよ?あ……」

 なんて黒崎らしいやり方だろう。こっちに来いと強引に肩を抱き寄せられて、頭ごと抱え込むようにして唇を重ねられた。そのわりには優しく触れているのも黒崎らしい。激しさと優しさ、二つの面がある。いつから使い分けていたのかな。とても素敵な住人だ。

 ここから遠くに見えている、"Welcome to get lost." のポスターが、今夜にぴったりだと思った。ゼロ地区サイドへようこそ。迷子を歓迎しますと。

 唇が離れた後は照れ臭くなり、居たたまれない気分になった。たまにはこういう新鮮な想いもいいだろう?と茶化しておいた。

 ああ、恥ずかしい。そそくさと車から降りて、マリーズカフェの入り口サイドへ立った。黒崎が迷うことなく到着して、一緒に店内に入った。ドアを開いて。
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