上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
395 / 514

25-7(夏樹視点)

しおりを挟む
 ダダダーー、ガーーー!

 メンバーの収録へ入りますーー。
 
 リハーサルが続いている。アルバムに収録する特典映像も同時に録っているから、2曲続けて演奏した。EDENと上弦の月の天使だ。先週のレッスンよりも声の伸びがいい。こういう広さのある場所だと違いが分かる。

 演奏中はステージまわりが静まり返る。2曲目へ入る合間になると、一気に人が動き出す。自分達は数分間の休憩だ。この時に気持ちの切り替えをする。

 上部に設置されたカメラが移動し、自分達を頭の上から撮影し始めた。俺達の近くには仙頭カメラマンが待機して、大型カメラを抱えている。前方にある観客席には遠藤さんが立ち、ステージ監督からの説明を聞いているところだ。そして、2曲目へ入って順調に終えた。

 ーーオッケーです!

 監督の声がイヤモニ越しに聞こえた。スタンドマイクを定位置に戻して、後ろに置いてあるタオルを取った。まだ乾くはずがない。濡れたままでも気にせずに首筋を拭いた。昔の自分が見たら、びっくりするに決まっている。すると、悠人が悲鳴をあげた。

「うえーー、くっさい!やまとーー、ニンニク入りのラーメンを食べただろ?」
「俺のタオルを使って文句を言うなよ。……あれー。それはTシャツだもん。臭いはずだよ」
「ひいいいっ。俺のタオルはー?……なつきー。君の分で拭くよ」
「……俺の分も臭うよ?」
「君は大丈夫だよ。……今日は花の匂いがするよ?」
「それは久弥のタオルだよ。似ている色だからね。俺にも嗅がせてよ~。どれどれ?……そうかな?」

 久弥のタオルに鼻先を寄せてみた。普通に汗の匂いしかしない。花の匂いとは何だろう?悠人がもう一度嗅いでいるから、やっぱりいい匂いなのだろう。これで理由が分かった。

「ゆうとー。相性がいい人の匂いは、汗臭く感じないんだよ?神仙教授が授業で言っていたじゃん」
「ふむふむ。信用したくないけど、真実を受け止めるよ。無理やりに考え方を変えているんだー」
「……久弥さんの撮りが始まったぞ。お疲れ様でーす!」
「……スルーするなよーー」

 向こうから久弥が手を振ってきた。ソロ演奏分の撮影が始まっている。仙頭カメラマンが張り付き、ローザーさんのアシスタントが髪の毛を直している。こんなに慌ただしい現場にいても、目を回すことなく、ちゃんと前を向いていられる。心と体が安定してこその話だ。
 
 久弥のエスニックスタイルが健在で安心できた。ほんの些細なことが影響するなんて。久しぶりに表立った場所に出るから、やっぱりナーバスになっているだろうか?

 ステージサイドには正木プロデューサーが立ち、楽器機材担当へ指示を出していた。ギタリスト祭典も担当した人だ。高宮さんをトップにして、久弥とコンビを組んでいた。

 正木和久《まさきわく》さんという。久弥が”ワクさん”と呼んでいたとき、人の名前だと思わなかった。ちょうど撮影コーナーにいたから、”撮影枠”のことだと勘違いした。悠人と大和も同じだった。

(仲がいいんだなあ。久々コンビの再来だな……)

 今回のイベントでは、名字で呼び合わない人が多い。初めての経験だ。なるべく顔と名前を一致させているが、とっさの場面であたふたする時がある。これをネガティブには取らない。こういうことに気づく、心の余裕ができたのだと受け止めた。イメージトレーニングとしても。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...