上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 21時半。

 家に帰ってきた。柑橘系の匂いが広がっている湯船に浸かり、身体をほぐして大きく伸びをした。今日は昨日よりも暑かったし、リハーサルでも汗を流した。そろそろ出ないと、黒崎が心配して様子を見に来るだろう。

 湯船から出て、バスルームの窓を全開にした。湯気がさーっと外へ流れて消えて、柑橘系のバスボムの香りが薄くなった。そこへ、外の木々の匂いが入って混ざり、リラクゼーション効果が増した。

「ふうーー。気持ちよかったなあ。そろそろ窓のところを掃除したいなあ……」

 まったりした気分で脱衣場へ出た。さっと全身をバスタオルで拭き、そのまま何も着ずに棚へ向かった。新しい洗剤を試したい。今晩からバスルームにスプレーしておけば、明日の朝には、洗い流すだけでピカピカになる。

「どこだったかな?ここにしか置かないけどな。そうか、洗面所へ置きなおしたんだった~」

 洗面所は後ろ側にある。さっそく取りに行って棚の扉を開けていると、背後に気配がした。黒崎しかいない。わざと首筋に息を吹きかけられた。心配して見に来たというよりも、遊びに来たという感じだ。襲うまではいかないだろう。今晩はゆっくりピアノを弾くと話していたからだ。

「……湯冷めするぞ。掃除をするのか?」
「スプレーをかけるだけだよ。通販で買ったやつを使いたいんだ」
「ホームクリーニングを手配してあるだろう?土曜日まで待て。……分かった。先にシャツを着ておけ」

 そう言いつつも、軽く両腕を回された。まだ身体が濡れているのに。軽く身じろいで離れると、また両腕が巻き付いて来た。本当に湯冷めをするのに。

「黒崎さーん。ちゃんと身体を拭いていないからさ。ささっとスプレーして来るよ」
「戻って来ないだろう?」
「こらー、触るなって。昨日イチャついたじゃん」
「冗談だ。拭いてやる。おいで……」

 黒崎がバスタオルを広げた。頭から足先まで丁寧に拭かれていると、照れくさいような嬉しいような気分になる。そして、怪我をしていないかと見ている。さっそく、右腕の赤みに気がついた。

「……今日のリハーサルで打ったのか?右の二の腕だ」
「機材のスピーカーだと思う。撮影でステージを案内したんだ」
「喋りながら歩いたのか?」
「笑ってもいいよ~。あんたが安心しているのが、俺には安心。んん?……ピアノを弾くんだよね?」
「お前が寝た後で弾く。ちょうど寝る時間だ。……ベッドへ行こう」
「わざとだろ?撫でまわすなって。あんたの素敵さが台無しなんだよ~」

 完全に遊んでいるのが確定した。本気を出した時は、手のひら全体で優しい触れ方をする。今は指先を使って撫でまわしている。さらに、腰や太ももへ辿っていき、揉みもみほぐすようにして指を動かした。どこで覚えた触り方なのかを聞きたくなった。

「黒崎さん。この触り方は痴漢だよ。どこで覚えたんだよ……」
「どういう話だ?……何も言っていないのに拗ねるな。この触り方は自然なものだ」
「Tシャツを着るよ。ごめんね。もういいってば~」

 ああ恥ずかしい。何を聞こうとしたのか。ヤキモチを妬いても、こういう面では気にしたことがなかったのに。

(リーダーシップか。黒崎さんみたいになりたいなあ……)

 服を着ている間、黒崎が窓の外から花壇の方を見て、秋に植える花の話題を出してきた。その落ち着きっぷりが頼もしくて憧れた。黒崎はリーダーとして歩いて来た年数が長い。子供時代から、リーダーシップを発揮していただろう。

 自分はどうだろうか?来年からは、リーダーとして、バンドを支えて引っ張る役目をする。今のままでOKだと言われた。その面は自分でも安心している。しかし、それだけでは物足りなくなる日が来るだろう。ひとつの事をクリアして自信がつくと、また新しい課題が目の前に現れる。
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