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直行便を使っても、15時間の空旅だ。現地に到着するには一日かかる。急いで帰りたくてチケットを取ったとしても、その便が数時間後かもしれないし、朝まで待つ可能性もある。大幅に時間が遅れることも珍しくない。
自分だったら、どんな判断をするだろう?黒崎の体調が落ち着いた頃でも、いつ倒れるか分からない状態を想像した。いくら本人が気をつけていても、100%大丈夫なんて話はない。俺も同じことを言う。すぐに駆け付けるようにしたい。
代理を立てるのは無理をしていない。バーテルス家とつながりがあるし、次の機会に訪ねていけば、いろんな人と会う段取りができるだろう。
アントン君のパッケージに視線を向けた。俺の方を見つめている気がする。復刻版ということは、この子がいなくなったということだ。黒崎のウサギ好きに関係しているだろうか?
心の整理がつかない状態で授賞式に出ても、ツラいだけだと思う。お祝いするために出かける。晴れ渡った心でいてほしい。空の旅のように。
「黒崎さーん。聞きたいことがあるんだ」
「今は聞かない。説得させられそうだ」
「そうだよ。話を聞かないと納得いかないもん。あんたもそうだよね?」
「そういう目で見るな……」
さっと片手で顔をおおわれた。苦笑している。そもそも、俺と授賞式を天秤にかけていない。俺の方が駄々をこねているレベルだ。
「アントン君がいなくなったってことだよね?あんたが関係しているの?」
「……答えない」
「アントン君に聞くよ?何があったのって」
「……負けた。リッターラグナとの合併時は経営不振に陥っていた。つぶれるのは見えていた。……この菓子のパイは手作りだった。生産コストがかかりすぎる。いくら人気があったとしても、生産終了させた」
黒崎の顔色がくもった。心に棘が刺さっているのか。引っかかっているのか。秘書時代は冷たい目をしていなかった。日下から聞いた話で確証を持った。イベントで会った時は、黒崎のことを覚えていなかったと話していたが、あの後、実は覚えていると打ち明けられた。
背の高いお兄ちゃんに会った。おじさんの冗談に笑っていた。ネコのぬいぐるみを貰ったことがある。おじさんの肩越しに放り込んできたから、キャッチさせられたそうだ。
(……葉月君。この子はシャルロットだ。君と話したいそうだ。一緒に部屋に行くって言っているぞ?お礼を言わなくてもいい。この子が頼んでいるんだ。……連れて行ってくれるのか?ありがとう。お兄ちゃんが言う方だったろう?……日下さん、失礼します)
そのうち見かけなくなった。忙しくて会えないのだと聞いた。テレビのニュースや記事で見た人は恐ろしさが漂っていて、どうしてこんなに変わったのか?と不安になった。イベントで会った時は、当時と変わりなかった。そう話していた。
合併だけが理由ではないだろう。出会った頃の黒崎は、通り過ぎて行った時間と環境で作られたものだ。沙耶さんと早瀬さん、イタリアから色んな物を送ってくる怜さんの存在があったが、必要なときに心が休まることがなかった。冷たい水たまりの記憶は温められない。本人の身体が温かくなければ。
「あんたに心配ばかりかけている。余計なおせっかいもするよ」
「そう深刻になるな。業績が回復して、合併後は給料が上がった。待遇も改善した。強引なことはやったが……」
「間違ったことはしていないってこと?」
「そうだ。正しいことをした。いいだろう?……授賞式に行くな?」
「そうだよ。心から行きたくなった時にしよう。授賞式に間に合わなくていいから、アントン君が会いに来いって言っているよ。……ノアの話がキッカケかも?…………うちの家に遊びにきた時、玄関のうさぎを見て、びっくりしていたんだ~。実家に写真を送って見せてもいい?って聞かれた。それで、伝わったんじゃないかな?…………そうだ!二葉に会って、びっくりしたかもね?タイムスリップして謝りに来たぞーーって。あんたの代理で会いに行った意味もあるかもしれないね。……今度は本体が行くといいよ」
今は抱きつかない。駄々をこねる方法になってしまうからだ。ぐいぐいと、黒崎の胸もとにクッキー缶を押しつけた。アントン君が頼りだ。彼の心の引っ掛かりを緩めたい。
自分だったら、どんな判断をするだろう?黒崎の体調が落ち着いた頃でも、いつ倒れるか分からない状態を想像した。いくら本人が気をつけていても、100%大丈夫なんて話はない。俺も同じことを言う。すぐに駆け付けるようにしたい。
代理を立てるのは無理をしていない。バーテルス家とつながりがあるし、次の機会に訪ねていけば、いろんな人と会う段取りができるだろう。
アントン君のパッケージに視線を向けた。俺の方を見つめている気がする。復刻版ということは、この子がいなくなったということだ。黒崎のウサギ好きに関係しているだろうか?
心の整理がつかない状態で授賞式に出ても、ツラいだけだと思う。お祝いするために出かける。晴れ渡った心でいてほしい。空の旅のように。
「黒崎さーん。聞きたいことがあるんだ」
「今は聞かない。説得させられそうだ」
「そうだよ。話を聞かないと納得いかないもん。あんたもそうだよね?」
「そういう目で見るな……」
さっと片手で顔をおおわれた。苦笑している。そもそも、俺と授賞式を天秤にかけていない。俺の方が駄々をこねているレベルだ。
「アントン君がいなくなったってことだよね?あんたが関係しているの?」
「……答えない」
「アントン君に聞くよ?何があったのって」
「……負けた。リッターラグナとの合併時は経営不振に陥っていた。つぶれるのは見えていた。……この菓子のパイは手作りだった。生産コストがかかりすぎる。いくら人気があったとしても、生産終了させた」
黒崎の顔色がくもった。心に棘が刺さっているのか。引っかかっているのか。秘書時代は冷たい目をしていなかった。日下から聞いた話で確証を持った。イベントで会った時は、黒崎のことを覚えていなかったと話していたが、あの後、実は覚えていると打ち明けられた。
背の高いお兄ちゃんに会った。おじさんの冗談に笑っていた。ネコのぬいぐるみを貰ったことがある。おじさんの肩越しに放り込んできたから、キャッチさせられたそうだ。
(……葉月君。この子はシャルロットだ。君と話したいそうだ。一緒に部屋に行くって言っているぞ?お礼を言わなくてもいい。この子が頼んでいるんだ。……連れて行ってくれるのか?ありがとう。お兄ちゃんが言う方だったろう?……日下さん、失礼します)
そのうち見かけなくなった。忙しくて会えないのだと聞いた。テレビのニュースや記事で見た人は恐ろしさが漂っていて、どうしてこんなに変わったのか?と不安になった。イベントで会った時は、当時と変わりなかった。そう話していた。
合併だけが理由ではないだろう。出会った頃の黒崎は、通り過ぎて行った時間と環境で作られたものだ。沙耶さんと早瀬さん、イタリアから色んな物を送ってくる怜さんの存在があったが、必要なときに心が休まることがなかった。冷たい水たまりの記憶は温められない。本人の身体が温かくなければ。
「あんたに心配ばかりかけている。余計なおせっかいもするよ」
「そう深刻になるな。業績が回復して、合併後は給料が上がった。待遇も改善した。強引なことはやったが……」
「間違ったことはしていないってこと?」
「そうだ。正しいことをした。いいだろう?……授賞式に行くな?」
「そうだよ。心から行きたくなった時にしよう。授賞式に間に合わなくていいから、アントン君が会いに来いって言っているよ。……ノアの話がキッカケかも?…………うちの家に遊びにきた時、玄関のうさぎを見て、びっくりしていたんだ~。実家に写真を送って見せてもいい?って聞かれた。それで、伝わったんじゃないかな?…………そうだ!二葉に会って、びっくりしたかもね?タイムスリップして謝りに来たぞーーって。あんたの代理で会いに行った意味もあるかもしれないね。……今度は本体が行くといいよ」
今は抱きつかない。駄々をこねる方法になってしまうからだ。ぐいぐいと、黒崎の胸もとにクッキー缶を押しつけた。アントン君が頼りだ。彼の心の引っ掛かりを緩めたい。
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