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理久と会うのは月に2回程度だ。開発部のオフィスに出勤して商品サンプルの件でミーティングをやって、帰るときに声をかける。時間が合えば休憩室で珈琲を飲み、一階のシャルロットキッチンで食事をしようねと誘いあっている。
大学生としてキャンパスをメインに過ごしているのなら、明日にでも叶う話だが、そうできない環境に入った。時間をやりくりして折り合いをつけている。それが楽しめることならラッキーだ。理久は満足できない。それはネガティブな理由だけだろうか?
「理久は、一つだけの世界に閉じこもるのが嫌なんじゃないかな?」
「どうだろう……。理久は人間関係を作るのが苦手だ。大学では何とかなっているぐらいだ。瞬発力もある。持久力も。教授陣とは上手くいっている。でも、同年代の学生相手がネックだ。気が合わないようだ。藤沢君はモデル業界に住んでいる。倉口君も社会人だ」
「高校まではクラスの子に会いたくなかったんだよ。ガキだもん。天真爛漫なふりをしておけば人気者だから、深く考えなくていい。でも、大学ではそれをやめたんだ。つらいと思うよ。……大学でも騒ぐやつが多いじゃん。理久にとっては学ぶ場なんだから、けじめがない子が嫌なんだよ。でも、その波に乗らないといけない空気だから我慢した。……だから、仕事では力が発揮できる。その仕事をやる義務がある。歓迎会も楽しめたんだよね?やっと振り返る余裕ができたと思う。今まで我慢してたことが爆発した。反抗期だよ」
枝川さんがハッとした顔になった。それも理解している。でも、急き立てられている理由が分からないと言った。久弥のようにピアノとギターが弾けるようになった。ヴァイオリンまでは行きついていないが、満足しているのにと。
本当はピアノを習いたかった話に通じると思う。久弥には音楽のことではかなわないからこそ、別のことで頑張ろうとした。それが発明だ。しっかりしている。すると、黒崎が枝川さんの名前を呼んだ。
「オフィスでは楽しんでいるぞ。知らなかったのか?チーム内で上手くいっている」
「そうなんですか?疲れているのに」
「帰りだろう?……自分のことを思い出せ。へとへとだろうが。理久君は心の余裕ができたから、夏樹が言うように爆発した。エネルギーの塊だ。お前よりも肝が据わっている」
「はっきり言わないでください。もう立つ瀬がないーー。支えないでください。床で寝たい」
疲れ切っている。せめてキッチンで休んでもらうことにした。椅子もあるし、ここよりも温かい。このホールが開放的だから、落ち着ける視線の着地点が定まらない。
黒崎が枝川さんを椅子から立たせた時、本当の話をすると言い出した。胸の鼓動が高鳴ったのは、枝川さんが子供っぽい表情と仕草を始めたからだ。まるで駄々っ子のようだ。それを笑って見ている黒崎がお兄ちゃんに思えた。
「優しくするな!」
「なんだって?」
「どうせ俺は頼りにならない。いつもそうだ。一番最初に打ち明けてもらえない」
「まわり道するな。はっきり言え」
「理久は早瀬専務に打ち明けていました。今日の会議のことで電話連絡をした際に聞きました。誇らしげにされました。そうです、俺はいつも負けています……」
「……将来の自分の姿に近いからだろう」
(え?目標ってことかな……)
枝川さんが驚いた。俺も同じ反応だ。言葉を失った。黒崎は的外れなことを言う人ではないし、ほとんど的中すると言っても大げさではない。
「それは知らない!副社長にも打ち明けたんですか?理久は早瀬専務が理想だって」
「自分と似ていると言っていたぞ。春ぐらいに。早瀬も同じことを言った。自分の学生時代と重なる部分があるそうだ。俺はそう思わないが」
「そうでしょう?そう思うでしょう?……理久の初恋の相手ですから」
「……それが何の関係があるんだ?」
「そんなに言い切らなくてもいいでしょう……。目標が、ぱーんと消えました……」
枝川さんが黒崎のことを食い入るように見た。悔しさの塊だ。こんな風にぶつけられる人だったのか。気迫があるのに怖さを感じない。すっきりした感まである。何かを手放したのか?
大学生としてキャンパスをメインに過ごしているのなら、明日にでも叶う話だが、そうできない環境に入った。時間をやりくりして折り合いをつけている。それが楽しめることならラッキーだ。理久は満足できない。それはネガティブな理由だけだろうか?
「理久は、一つだけの世界に閉じこもるのが嫌なんじゃないかな?」
「どうだろう……。理久は人間関係を作るのが苦手だ。大学では何とかなっているぐらいだ。瞬発力もある。持久力も。教授陣とは上手くいっている。でも、同年代の学生相手がネックだ。気が合わないようだ。藤沢君はモデル業界に住んでいる。倉口君も社会人だ」
「高校まではクラスの子に会いたくなかったんだよ。ガキだもん。天真爛漫なふりをしておけば人気者だから、深く考えなくていい。でも、大学ではそれをやめたんだ。つらいと思うよ。……大学でも騒ぐやつが多いじゃん。理久にとっては学ぶ場なんだから、けじめがない子が嫌なんだよ。でも、その波に乗らないといけない空気だから我慢した。……だから、仕事では力が発揮できる。その仕事をやる義務がある。歓迎会も楽しめたんだよね?やっと振り返る余裕ができたと思う。今まで我慢してたことが爆発した。反抗期だよ」
枝川さんがハッとした顔になった。それも理解している。でも、急き立てられている理由が分からないと言った。久弥のようにピアノとギターが弾けるようになった。ヴァイオリンまでは行きついていないが、満足しているのにと。
本当はピアノを習いたかった話に通じると思う。久弥には音楽のことではかなわないからこそ、別のことで頑張ろうとした。それが発明だ。しっかりしている。すると、黒崎が枝川さんの名前を呼んだ。
「オフィスでは楽しんでいるぞ。知らなかったのか?チーム内で上手くいっている」
「そうなんですか?疲れているのに」
「帰りだろう?……自分のことを思い出せ。へとへとだろうが。理久君は心の余裕ができたから、夏樹が言うように爆発した。エネルギーの塊だ。お前よりも肝が据わっている」
「はっきり言わないでください。もう立つ瀬がないーー。支えないでください。床で寝たい」
疲れ切っている。せめてキッチンで休んでもらうことにした。椅子もあるし、ここよりも温かい。このホールが開放的だから、落ち着ける視線の着地点が定まらない。
黒崎が枝川さんを椅子から立たせた時、本当の話をすると言い出した。胸の鼓動が高鳴ったのは、枝川さんが子供っぽい表情と仕草を始めたからだ。まるで駄々っ子のようだ。それを笑って見ている黒崎がお兄ちゃんに思えた。
「優しくするな!」
「なんだって?」
「どうせ俺は頼りにならない。いつもそうだ。一番最初に打ち明けてもらえない」
「まわり道するな。はっきり言え」
「理久は早瀬専務に打ち明けていました。今日の会議のことで電話連絡をした際に聞きました。誇らしげにされました。そうです、俺はいつも負けています……」
「……将来の自分の姿に近いからだろう」
(え?目標ってことかな……)
枝川さんが驚いた。俺も同じ反応だ。言葉を失った。黒崎は的外れなことを言う人ではないし、ほとんど的中すると言っても大げさではない。
「それは知らない!副社長にも打ち明けたんですか?理久は早瀬専務が理想だって」
「自分と似ていると言っていたぞ。春ぐらいに。早瀬も同じことを言った。自分の学生時代と重なる部分があるそうだ。俺はそう思わないが」
「そうでしょう?そう思うでしょう?……理久の初恋の相手ですから」
「……それが何の関係があるんだ?」
「そんなに言い切らなくてもいいでしょう……。目標が、ぱーんと消えました……」
枝川さんが黒崎のことを食い入るように見た。悔しさの塊だ。こんな風にぶつけられる人だったのか。気迫があるのに怖さを感じない。すっきりした感まである。何かを手放したのか?
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