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黒崎が笑った。見栄を張りたくて、必要以上に無理をしている自分を解放させたのか?と言いながら。はっきり言う人だ。しかし、枝川さんを腹を立てていない。いつものことだからと言って、受け止めた。嫌な人だと呟いて苦笑までした。
「副社長こそ、昔はそういうタイプだったんじゃないですか?」
「その通りだ。俺になりたいのか?」
「違います……」
「誰になりたいんだ?何になろうとしている?」
「早瀬専務です!裕理君になりたい。……え?どうして恋愛感情が出てくるんですか?」
「うちの兄貴と似たことを言うからだ。……夏樹、笑っても構わない」
黒崎が眉間に皺を寄せた。理久が、一貴さんのことを枝川さんに話したそうだ。何も話していないわけじゃない。面白くて愛嬌がありすぎると聞いたそうだ。それで腑に落ちた。枝川さんには、楽しいことしか話したくないのかもしれない。疲れているのを見ているからだ。
(最初から大人なんだ。深く考えている子だからこそだ。あれ……?)
「俺が子供っぽいってことかー?顔を見たら分かる。そうだよー。俺も末っ子だー。どうして分かった?」
「俺は中間子だもん。平等にしてくれって思い続けて育ったんだ。理不尽なことがあったし」
「そういうことかー。また思考が戻ってきた。あの子は誰になりたいんだよーー」
ガタ……。
リビングから物音がした。理久が出てきたのかと振り向くと、悠人が手を振っていた。大丈夫だよと言っているから安心した。二葉が顔だけを出して、理久のことをリビングから引っぱり出した。そして、強引に背中を押した。
「理久!」
「うん……」
枝川さんが椅子に座ったままで、しっかりした声で名前を呼んだ。理久がびくっと震えた。怖い目をしているからだ。
「君には何度も話しかけた。問いかけた。どうして答えてくれなかった?」
「疲れているからだよ!無理をしてほしくない!」
「”裕理君”に話した理由は?あの人も忙しい」
「無理をさせた人の怪我が治らなかった。幸也君にはそうなってほしくない」
「誰のことを言っているんだ?」
「聞いていないの?お兄ちゃんから」
「聞いていない。どうして、君以外の人から聞くんだ?俺はどこにいる?」
「ごめんなさい!」
理久が駆け寄ってきた。俺たちは席を外した方がよさそうだ。黒崎の手を引いてリビングに促した。すると、2人が俺達に首を振った。すごく嫌な予感がして背中が冷たくなった。お別れ。そういう文字が浮かんでしまった。
しかし、そうならずに済んだ。理久が大量の涙をこぼし始めたからだ。枝川さんから身体を受け止めてもらえて、ほっと安心した顔をした。
天井からの明かりに反射して、理久の目元が庭の小さな噴水のようになっている。枝川さんが薄手のコートを脱いで、彼の顔をごしごしと拭きはじめた。さらに理久が強く抱き着いた。
「静久さんの話を知っている。君の発明を認めてくれた人だろう?……”またとないユニークな君のことが好きだ”と言ってくれたんだったな?その彼がやり残した分だけ、自分が意思を引き継ごうとした。そうじゃないのか?」
「そうだよ!ミュージシャンになるって決めた人だよ。だから、お兄ちゃんの引退ライブに出演してギターを弾いて、静久お兄ちゃんがやっていた仕事を始めたい。そうしたかった。……分かっているよ!裁判官は俺には向いていないよ。試験も難しい。何年もかかって一人前になっても……、つらいことばかりなんだ」
「そう打ち明けて、吐き出したんだろう?裕理君に」
「そうだよ……っ」
「現実は難しい。現実にできることも。だから、ミュージシャンの道を選ぼうとしたんじゃないのか?」
「何だよ!?馬鹿にするな……っ」
(理久が……。止めないと!)
踏み出した右足が動かなかった。黒崎から肩を抱かれて、2人の元に行くのを阻まれた。このままだと手を出して言い争うかもしれない。そうなれば関係を修復できない。そうしているうちに、理久が枝川さんの身体を何度も押し始めた。
「副社長こそ、昔はそういうタイプだったんじゃないですか?」
「その通りだ。俺になりたいのか?」
「違います……」
「誰になりたいんだ?何になろうとしている?」
「早瀬専務です!裕理君になりたい。……え?どうして恋愛感情が出てくるんですか?」
「うちの兄貴と似たことを言うからだ。……夏樹、笑っても構わない」
黒崎が眉間に皺を寄せた。理久が、一貴さんのことを枝川さんに話したそうだ。何も話していないわけじゃない。面白くて愛嬌がありすぎると聞いたそうだ。それで腑に落ちた。枝川さんには、楽しいことしか話したくないのかもしれない。疲れているのを見ているからだ。
(最初から大人なんだ。深く考えている子だからこそだ。あれ……?)
「俺が子供っぽいってことかー?顔を見たら分かる。そうだよー。俺も末っ子だー。どうして分かった?」
「俺は中間子だもん。平等にしてくれって思い続けて育ったんだ。理不尽なことがあったし」
「そういうことかー。また思考が戻ってきた。あの子は誰になりたいんだよーー」
ガタ……。
リビングから物音がした。理久が出てきたのかと振り向くと、悠人が手を振っていた。大丈夫だよと言っているから安心した。二葉が顔だけを出して、理久のことをリビングから引っぱり出した。そして、強引に背中を押した。
「理久!」
「うん……」
枝川さんが椅子に座ったままで、しっかりした声で名前を呼んだ。理久がびくっと震えた。怖い目をしているからだ。
「君には何度も話しかけた。問いかけた。どうして答えてくれなかった?」
「疲れているからだよ!無理をしてほしくない!」
「”裕理君”に話した理由は?あの人も忙しい」
「無理をさせた人の怪我が治らなかった。幸也君にはそうなってほしくない」
「誰のことを言っているんだ?」
「聞いていないの?お兄ちゃんから」
「聞いていない。どうして、君以外の人から聞くんだ?俺はどこにいる?」
「ごめんなさい!」
理久が駆け寄ってきた。俺たちは席を外した方がよさそうだ。黒崎の手を引いてリビングに促した。すると、2人が俺達に首を振った。すごく嫌な予感がして背中が冷たくなった。お別れ。そういう文字が浮かんでしまった。
しかし、そうならずに済んだ。理久が大量の涙をこぼし始めたからだ。枝川さんから身体を受け止めてもらえて、ほっと安心した顔をした。
天井からの明かりに反射して、理久の目元が庭の小さな噴水のようになっている。枝川さんが薄手のコートを脱いで、彼の顔をごしごしと拭きはじめた。さらに理久が強く抱き着いた。
「静久さんの話を知っている。君の発明を認めてくれた人だろう?……”またとないユニークな君のことが好きだ”と言ってくれたんだったな?その彼がやり残した分だけ、自分が意思を引き継ごうとした。そうじゃないのか?」
「そうだよ!ミュージシャンになるって決めた人だよ。だから、お兄ちゃんの引退ライブに出演してギターを弾いて、静久お兄ちゃんがやっていた仕事を始めたい。そうしたかった。……分かっているよ!裁判官は俺には向いていないよ。試験も難しい。何年もかかって一人前になっても……、つらいことばかりなんだ」
「そう打ち明けて、吐き出したんだろう?裕理君に」
「そうだよ……っ」
「現実は難しい。現実にできることも。だから、ミュージシャンの道を選ぼうとしたんじゃないのか?」
「何だよ!?馬鹿にするな……っ」
(理久が……。止めないと!)
踏み出した右足が動かなかった。黒崎から肩を抱かれて、2人の元に行くのを阻まれた。このままだと手を出して言い争うかもしれない。そうなれば関係を修復できない。そうしているうちに、理久が枝川さんの身体を何度も押し始めた。
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